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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
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 僕達は森の方へ向かった。

 僕達が今から向かう場所は貧困村だ。

 朝なのに行っても大丈夫なのだろうか。

 そんな事がふと頭に浮かんだ。

 そのまま森の方へ入った。

 なんだか少しだけ不気味だった。夜よりも朝の方が不気味に感じる。

 薄暗さがなんだか嫌な雰囲気を漂わせる。

「アリシア! 裸足じゃん!」

 僕は森を少し入った所で気付いた。

 アリシアの足の裏が真っ黒になっていた。

「平気よ。それより何か変わった事はあった?」

 アリシアは足の汚れなど全く気にしていないようだ。

「……やっぱり、アリシア、喋り方が変わったよね?」

 僕は探るようにアリシアの顔を覗き込んだ。

 アリシアは少し眉間に皺を寄せて考え込んだ。 

「喋る相手がいなかったからかな? 何か変?」

「なんか口調が軽い」

 僕がそう言うと、アリシアは小さく微笑んだ。

 ……綺麗だ。

 前までの悪いオーラを出そうって感じが全くないように見えた。

 微笑みに知性と品性が表れているような気がした。

「確かに、変わったかもね」

「本当に二年間誰とも話さなかったの?」

 アリシアは少し困った表情を浮かべた。

 普段はこんな表情を見せた事がなかった。

 なんだか悪女っぽくなくなっているような。

「悪女っぽくなくなったなって思った?」

「何で分かったの!?」

 僕はアリシアの言葉の衝撃で思わず固まった。 

 まさか自分の心が読まれる日がくるなんて思ってもいなかった。

 魔法を使ったのかな?

「魔法じゃないわよ」

 アリシアはそう言って口角を少し上げた。

 あ、この顔、少し意地悪そうな笑み……アリシアだ。 

「じゃあ何で分かったの?」

「ジルの表情って分かりやすいからじゃない?」

 嘘だろ。この二年間で僕は随分、自分の心を隠せるようになったし……。

 それに今では色んな表情を臨機応変に作れる。

「っていうのは嘘よ」 

 アリシアは目尻に皺を寄せて笑った。

 僕は一瞬ドキッとしてしまった。

 なんだか、僕の知っているアリシアじゃないみたい。

「何も変わってないわよ、私」

 ……また心を読まれた。

 僕が目を丸くしていると、突然アリシアが笑い出した。

「ごめんね、ジル。あまりにもジルの反応が面白かったからついからかっちゃった」

「どういう事?」

「そんなに嫌そうな顔しないでよ」

「じゃあ、ちゃんと説明して」

「ウィルおじいさんって目が見えていないのにどうしてあんなに人の心が読めるんだろうって考えてたの、この二年間でね」

「で、答えは見つかった?」

「う~ん、答えは見つかっていないわ。でも、少し分かった事はある」

 アリシアは得意気にそう言った。

 何だか前よりも生き生きしているように見えた。

「小屋は私だけ、でも小屋の外には沢山人がいるでしょ? 当たり前だけど」

「そうだね」

 僕は頷きながら相槌を打った。

「外の変化に敏感になったって事?」

 僕は続けてそう言った。

「流石私の助手だね」

 アリシアはそう言って僕の頭をガシガシと撫でた。

 アリシアに認められるのが僕にとって最大の愉悦なのかもしれない。

「声の調子や表情、態度、空気……雰囲気や音だけで人の心を読み取るのってこんなにも難しいんだって改めて知ったよ。私なんかウィルおじいさんに比べたらまだまだだけどね」

「凄いね、アリシアは」

「何も凄いところなんかないよ」

 アリシアは平然とそう言った。

 それは嫌味なんかじゃなく、本当にそう思っているみたいだった。

「僕にはそんな努力出来ないよ」

「努力? してないわよ、私。忍耐力はあるかもしれないけど、ただ悪女になりたいからそのために必要な事をしているだけ」

「でもなんか前の方が悪女っぽかったけどね。さっきの困った表情とか……」

「ああ、あれはね……なんて言えばいいか分からなかったのよ」

 そう言いながらまたアリシアは困った表情を浮かべた。

 アリシアは真剣な顔になって黙り込んだ。

 僕に何か言おうかどうか迷っている。

 僕は絶対に口外なんてしないけど、それを僕が言ったところで何の意味もない。

 話すか話さないかを決めるのはアリシアだ。

 アリシアは軽く目を瞑り小さく息を吸い込んだ。

 それからゆっくり目を開けて僕の方を見た。

「一度だけお母様が私に会いに来たのよ」

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