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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
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107 十一歳 ジル

現在十一歳 ジル


 アリシアが小屋に籠ってから二年が経った。

 長かったようで一瞬だった。矛盾しているけど、本当にそんな感じだった。

 僕は毎日、本を読み続けた。

 アリシアが強くなっているのなら僕もアリシアの隣に立つ助手としてもっと賢くならなければならない。

 やっとだ……。やっとアリシアに会える。

 僕は朝早くに起きて小屋の前に立った。

 多分、まだ誰も起きていない。

 朝の三時半……まだ暗く全体に霧がかかっている。少し肌寒い。

 僕も少しは身長が高くなった、本当に少しだけだけど。

 十一歳の男子にしては小柄な方だと思う。けど、脳は誰よりも大きい。

 アリシアは変わったのだろうか。

 二年間誰とも言葉を交わさず、ひたすらあの木造の小さな小屋で魔法の練習をしていたのか。

 ……僕は多分耐えられないと思う。

 アリシアの悪女になりたいという信念がどれだけ強いのかよく分かる。

 アリシアはいつごろ出てくるのだろう。

 後二時間後ぐらいかな。それでも僕は全然かまわない。

 数時間ぐらい余裕で待てる。

 アリシアと会える日を二年も待っていたのだから。

 アリシアがいなくなった直後は一日が物凄く長く感じた。

 たった一日が数週間のように感じたのだ。大好きな本も全く頭に入ってこなかった。

 今日、アリシアが小屋から出るという事を教えてくれたのはアリシアの父親だった。

 アーノルド。彼は僕にとても良くしてくれた。

 図書室はいつでも使わせてくれた。そのまま僕が図書室で寝てしまった時に彼が部屋まで僕を運んでくれたらしい。

 最初は本当に憎かった。アリシアにあんな条件を与えた事に僕は心底腹が立っていた。

 けど、彼が一番自分のしたことに後悔していたのだ。

 昨日の夜、彼にアリシアを迎えに小屋まで行かないのかと聞くと、ジルが行ってあげた方が良いと言われた。

 僕は最初から行くつもりだったけど、まさかアーノルドにそう言われるとは思わなかった。

 僕は全く魔法学園の今の状況を知らない。

 キャザー・リズがどんなことをしているのかも全く分からない。

 ヘンリとデュークとは年に数回ほどしか話さなかった。

 それ以外僕はずっと図書室にいたから。

 そんな事をぼんやり考えていると、小屋の扉の音が悲鳴を上げるかのようにギイイイイ、と鳴った。

 僕の鼓動が激しくなる。……アリシアに会えるんだ。

 心臓の音しか聞こえない。

 手に汗が滲み出てくる。僕は息を止めた。

「朝早いわね、ジル。久しぶり」

 僕はアリシアの容姿に釘付けになった。一瞬で鳥肌が立った。

 さっきまで心臓が痛いくらい激しく動いていたのに、一瞬動きが止まった。

 僕は目を瞠って固まった。

 あまりの美しさに息を呑んだ。

 顔が変わったわけではないのに、二年前とは随分と雰囲気が違った。

 霧の中に佇む美女……間違って地上に降りてきてしまった女神みたいだ。

 烏の濡れ羽色の髪は腰まで伸び、以前と変わらぬ輝きを放つ。決して揺るがない黄金の瞳、少し吊り上がった目が神秘的だ。そして、一度も小屋から出ていないせいなのか純白の雪の色をした肌、薄く整ったほんのり赤い唇。

 美しいとはこういう事を言うのだ。

 僕を覗き込むその瞳は色っぽく僕は茫然としたままアリシアを見ていた。

 アリシアは僕の方にゆっくり近づいてきた。

 自分の心臓が破裂しそうなくらい鼓動が激しい。

 近くで見ると、アリシアも背が高くなっていた。彼女の眼差しから知性を感じる。

「ジル? 私が誰か覚えているよね?」

 なんだか前と違って少し軽い口調になっている。

 僕は深く頷いた。言葉を失うとはこういう事を言うのだ。

「皆に会う前に行かないといけない所があるからちょっと来て」

 やっぱり、随分と軽い口調になっている。

 人と話さなかったからなのか?

 アリシアはそう言って僕の腕を掴んで走り出した。

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