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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ


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106 四十一歳 ウィリアムズ家父 アーノルド

現在四十一歳 ウィリアムズ家父 アーノルド


 アリシアが小屋に籠ってから一年になる……。

 まさかあの時、承諾するとは思わなかったのだ。無理難題の条件を出したのだから。

 アリシアを諦めさせようとした条件だったのに逆にやる気にさせてしまったのだ。

 アリシアの性格はよく知っていたつもりだったが、あそこまで不可能な条件だと流石に折れると思ったのだ。

 ……あれから一度もアリシアとは会っていない。

 アリシアの専属の侍女、ロゼッタが食事、服、それと本を持って行くぐらいだ。

 勿論、二人は接触はしていない。

 小屋の外に食事や服を置くだけだ。小屋にはぼろいが風呂もあるし、暮らせるには暮らせるが、今までアリシアが暮らしてきた環境からいきなりあの環境になって生活できるわけないと思っていた。

 質素な暮らしから贅沢暮らしは適応できるが、贅沢な暮らしから質素な暮らしに適応するのは相当難しい。

 それなのにアリシアは一年もあの状況に耐えているのだ。

 一体どこまで耐えられるのだろう。昔は何事もすぐに諦めていたのに。

 私は最低な願いをしてしまった……早く諦めてくれと。

 アリシアが攫われた時に無理にでもキャザー・リズの監視役を止めておけば良かったと心底後悔した。

 私が会ったのは傷がなくなってからだったが、どんな状態だったか後に聞いた。

 心が張り裂けそうなほど苦しかった。娘が死んでいたかもしれないのだ。

 一刻も早くこんな危ないことをやめさせねばと思ったが、彼女はキャザー・リズの監視役をやめないと言ったのだ。

 私には理解できなかった。あんな目に遭って、命の危険があると知ってもまだキャザー・リズの監視役を続けると言うのだ。そして彼女は条件を受け入れ、そのまま小屋へ向かったのだ。

 自分の言った事には責任を持たなければならない。

 アリシアと約束をしてしまった以上、それを守らなければならない。

 国王……ルークに何も言わず、私はアリシアにキャザー・リズの監視役を辞めさせようとした。彼は賢いから後で言っても私の気持ちを理解してくれるだろうと思っていた。

 すぐに五大貴族で緊急会議が開かれ、私は全て話した。

 ジョアンには勝手な事をしてくれたなと言われたが、私は何とか全員を説得させた。

 レベル90がないと聖女を監視し、成長させる事は出来ないと。

 四人とも渋々承諾してくれたが、全員の表情に焦りが出ていた。

 なぜなら、二年後、キャザー・リズは二十歳になり最高学年になる。

 魔法学園を卒業すればもう聖女として生きていかなければならない事になるのだ。

 だから、ゆっくりしている暇はない。それは理解できる。

 だが、何故私の娘なのだ?

 確かにアリシアが聖女と同様に前例のない異端児だという事は分かる。それでも、自分の娘を殺すような事は出来ない。私は腸が煮えくり返った。

 私の娘を何だと思っているのだ、と怒りを出来るだけ抑えながら言った。

 四人とも眉間に皺を寄せながら口を閉じる。

 暫く沈黙があった後、ルークは静かに言ったのだ、異端児には異端児を、と。

 なんて自分勝手なんだと我ながら思うが、私は小屋を見ながら毎日願った、アリシア、頼むから小屋から出てきてくれと。


 ジルという少年に私は初めて会いに部屋まで行った。

 仏頂面で出てきた男の子は普通の九歳の少年よりも随分小柄に思えた。

 私は全てを話すと、彼の表情がどんどん険しくなっていった。これからアリシアは二年間貧困村に行けないという事も伝えた。

 そして、ジルには薄ピンク色のエイベルという名の液体が入った瓶を渡した。これでいつでも壁を通り抜けて貧困村に行けると言った。

 すると、彼は凄い剣幕で私を睨んだ。

 九歳の少年とは思えないほど凄まじい殺気を放っていた。

 大人が馬鹿だと子供は可哀想だね、そう言ってジルは嘲笑して私の前から去って行った。

 私は何も言い返す事が出来ず、そのまま彼の小さな背中を見送った。

 彼はアリシアと同じ環境を自分にも与えているみたいだった。

 ジルは一年間ずっと、我が家の図書室に籠りっきりだった。

 食事は使用人が図書室まで運んでいた。そして、彼はお風呂は二日に一回しか入らなかった。

 時々、夜中に外へ出て森の方へ行っていた。きっと、向かう先は貧困村だろう。

 アランやアルバートは特にアリシアのことを気にした様子を見せなかった。

 だが、ヘンリだけは初めて私に声を上げて怒鳴った。

 何故そんな無茶な事を条件にしたのかと。たとえ不可能であってもアリなら必ずその条件を受け入れると分からなかったのかと。

 その日以来、ヘンリと私は口を利かなくなった。

 そして、ルークの息子、デュークにも睨まれるようになった。

 彼は私には何も言わなかったが、私を見るその瞳には怒りと軽蔑があった。

 私の妻は目くじらを立てて私の頬に一発拳を入れた。……それだけだった。

 娘の性格をよく理解していたつもりだったが、私はアリシアを少し甘く見ていたのかもしれない。

 彼女は何か目的があればそれを達成するまで絶対に諦めない子だ。

 あの時はつい、私もむきになって出来るはずのない条件を言ってしまったのだ。

 それから半年ぐらい経った時に、小屋の前に手紙が一通置かれていた。

 アリシアから私宛に。

『お父様へ さっき、たまたま庭師の会話が聞こえたので書かせていただきます。お父様は私に言った事を後悔しているそうですね。後悔するのはまだ早いですわ。私が条件を満たす事が出来てから後悔して下さい。 アリシア』

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― 新着の感想 ―
[一言] アリシアのお母様ってご存命だったんですね。 今まで全く話に出てこなかったので、勝手に亡くなられてるのかと思ってました...(*_*)笑
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