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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
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 私は王宮から自分の家に帰ってきてから図書室にこもりっきりだ。

 ひたすら魔法の練習をしている。

 けど、レベル80から一気にレベルが上がりにくくなったのよね。

 これってスランプかしら……。

「不調だね」 

 ジルが私を不思議そうに見てそう言った。

 ジルは私の魔法練習に付き合ってくれている。

 まぁ、彼はずっと隣で本を読んでいるのだけど。

「どうしてうまくいかないのかしら。全然だめだわ」

「分からないけど、その歳でレベル80は十分凄いと思うよ」

「聖女のいた時代の悪女として有名になるにはまだまだだわ」

 私は力強くそう言った。

 ジルは呆れたように私を見てため息をついた。

「なんでもいいけど、いきなりレベル100を習得しようなんて考えないでよ」

「分かっているわよ」

 私はウィルおじいさんの言葉を思い出した。二度と魔法が使えなくなるのよね……。

 一つずつ順番にレベルアップしないとね。

 そう思いながら魔法の練習を再開させようとすると、ジルが王宮で言った言葉が脳裏をよぎった。

「ねぇ、ジル」

「何?」

「聖女って国王陛下と結婚するものなの?」

「そう本に書いてあったんだ」

 ジルはそう言ってどこかに歩き出した。

 あら、私と喋っているのにどこに行くのかしら……。

 まぁ、いっか。私ももっと強くならないとね。

 私は魔法練習に集中した。

 ゆっくり息を吸って、心を落ち着かせる。

 想像するのよ……自分がライオンになっている姿を。

 私は動物に変身する魔法を習得しようとしていた。

 なんとね、これは闇魔法特有の魔法よ。

 正直、どういう基準で魔法が分けられているのか全く分からないのよね。

 変身魔法がどうして闇魔法なのか……考えるだけ無駄よね。

 闇魔法ってやっぱりろくでもない魔法ばかりなんだわ。運営の悪意を感じるわ。

 大丈夫よ、私なら絶対に出来るわ。

 全身に神経を集中させる、この調子で……。

「アリ~」

 ジルの声で私の集中は一瞬で途切れた。

 ……こんな事で集中が途切れるなんて、悪女としてまだまだ未熟だわ。

「うわっ!! 何その格好!」

 ジルは一瞬体をビクッとさせて驚嘆した。

 恰好?

 私は本棚の横にあった姿見まで歩いた。

 別に普通に歩けるし、何も変わったところは……何これ!?

「この耳に、この鼻と口と髭と……尻尾まであるわ!」

 私は自分の姿を見て驚愕した。

 途中で魔法をやめるとこんな事になるの?

 一部だけがライオンになっていた。

 真っ黒い耳って事は髪の毛の色が体毛になるって事なのかしら。

 それにしても、あまりにも人間寄りだわ。私の魔法がいかにダメなのかがよく分かるわ。

「なんて言うか……コスプレみたいだわ」

「こすぷれ?」

 ジルがきょとんとしながら首を傾げる。

 そうだわ、この世界にはコスプレなんてないんだわ。

「なんでもないわ。それよりどうしたの?」

 ジルは私の事を凝視している。

 私の滑稽な姿に気を取られて私の声が届いていないみたいだわ。

「ジル」

 私はそう言ったのと同時に魔法を解いた。

 ジルははっとして私の目を見る。

 ようやく自分が何か言われていた事に気付いたようだ。

「ああ、そうそう、ここに書いてあったんだ」

 ジルは本を私の方に持ってきて指で挟んであったページを開いた。

「ここだよ」

 私はジルの指差した文章を読んだ。

『聖女は国王と結ばれ、国に平和をもたらすために存在する』

 あら、本当だわ。

 聖女の存在理由を断定されてしまっているわ。

 やっぱりヒロインとデューク様は結ばれる運命だったのね。

「自分の運命を自分で変えられないってなんだか可哀想ね」

 聖女と国王がもし反りが合わなかったら大変だわ。

 今のところ、リズさんとデューク様は気が合ってはいなさそうだし。

「自分の運命を変えたよ、デュークは」

 そう言ってジルは目を光らせて笑った。

「何もなかったとはいえ、アリシアはデュークの部屋で寝ていただろ?」

「それってそんなにまずい事なの?」

 ジルがやれやれと言わんばかりの顔で深くため息をついた。

「アリシアって賢いのに、時々、馬鹿になるよね」

「いいから早く教えて」

「否定しないんだ」

 ジルは目を瞠って私を見る。

「早く」

 私は強い口調でジルを睨みながらそう言った。

「自分が五大貴族の中の令嬢だって自覚してるの?」

「あっ! そういう事ね」

「ちゃんと僕が言いたい事分かってるの?」

「ええ、でも大丈夫なんじゃないかしら。デューク様よ? ちゃんと皆に話しているわよ」

 ジルが目を大きく見開いて私を見る。

 それ以上目を開けたら目が飛び出しそうだわ。

「アリシアって鈍感なんだね」

 ジルは小さくそう呟いた。

 ……鈍感?

 私が一番言われたくない言葉よ。

 最悪だわ。まさかジルにそれを言われるなんて。

「鈍感ですって? デューク様が私に向けている感情が恋愛感情って事ぐらい気付いているわよ。けど、聖女と結婚するならそれは誰にも逆らえないでしょ」

 私はジルを睨みながらいつもより低い声でそう言った。

 年下相手に何をそんなに怒っているんだって非難を浴びそうだけど、悪女は短気なのよ。

 それに鈍感って言葉が似合うのはヒロインだけよ。

「そんなに怒らないでよ。ただ、僕はデュークが確信犯だって事を言いたかったの」

 ジルは別に臆する事無く私にそう言った。

 ……デューク様は聖女と国王が結婚しなければいけない事を知っていて私を部屋に入れたって事?

 嘘でしょ。彼の方が一枚上手だったの?

「僕が言いたい事、分かってくれた?」

 ジルが唖然としている私を覗き込む。

 これは一大事だわ。

 もし私とデューク様が婚約したら、絶対にリズさんは私の言う事を聞いてくれなくなるじゃない。

 だってリズさんはデューク様を好きなのよ?

 リズさんは私と対立する事をやめて、私を無視するかもしれないわ!

 対等に戦えないじゃない。そんなの困るわ。私の悪女は聖女がいるからこそ引き立つのよ。

 つまり、私の悪女になる夢が儚く散るって事よね?

 ……冗談じゃないわ。私は絶対に立派な悪女になってみせるんだから。

 それに、勢いでデューク様が私に向けている感情は恋愛感情なんて言ってしまったけど、私、デューク様に好きって言われた事がないのよね。

 だからまだ大丈夫……よね?

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