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短編(和もの)

一目惚れから始まる恋

作者: 月鳴

息抜きに書いてたら完成しちゃったやつ。オチとかない。

 大学のカフェテラスで見知らぬイケメンがこちらをじっと見ている。


 あつあつのラーメンを啜りながら私は「そんな自信過剰な」と思っていたが、どうにもこびり付くような視線をいつまでも感じて、ラーメンを啜ることによって現実逃避に走った。

 ああ、魚介出汁の醤油ラーメンおいしい。学食と侮るなかれ、最近の学食はコスパもよく味もいい。下手なお店やインスタントを食べるより私はついここのラーメンを食べてしまうのだ。ちぢれの細麺がよくスープに絡んで、メンマの歯ごたえもよく、申し分ない。ただ難点を上げるなら野菜が足りないことか。女子にビタミンは必須だからね。

 などと考えている間も、視線が剥がれることはなく根負けした私はもう一度そちらを見た。


 やっぱ、見てる。気のせいじゃないっぽい。いや気のせいにしたかった。


 黒髪の短髪にした爽やか系の青年はライトブルーのストライプシャツを着てテーブルに肘をついた姿勢でこちらを見ていた。見覚えはない。他学年だろうか。大学というのは広いから全く知らないまま卒業する人間だって大勢いるだろう。

 でもまあ、イケメンだ。彼の周りにも人はたくさんいてこっちを見ている彼に話しかけている人もいるようだ。しかしそれを一切合切無視してこちらを見ているのはいかがなものか。一体全体どういうことだ、まったく意味がわからない。


 デザートのフルーツゼリーを完食すると私はそそくさとカフェテラスを後にした。




「こんにちは」


 セカンドコンタクトは思いもよらず起きた。あの一件以来、私は学食というものを泣く泣く諦め遠ざけていたのだが、どうしてもあの魚介ラーメンが食べたくてもう二週間以上経っているし大丈夫だろうと高を括っていてたらこの有様だ。二十分前の私をアホだと罵りたい。


「……こんちは」


 ずいぶんと愛想のない返事になったのは目の前に湯気の登るラーメンがあるからだ。冷めないうちに食べたいけれどその願いは叶うだろうか。それはこの男次第である。


「あの、なにか……?」

「突然だけど、俺と付き合って」

「いや無理です。私これからラーメン食べるんで」

「じゃあラーメン食べ終わってからでいいよ」

「あの見られてると気まずいんで……」


 帰ってほしい。出来れば早急に。だが男はニコニコしたまま向かいの席から動こうとしない。仕方がないので私は男を放置してラーメンを啜るのだった。


 ──で、まあ、完食した訳なんだけど。その間賞味十分。ラーメンにかける時間としてはこんなもんだろう。早食いと言うなかれ。居心地の悪い視線を浴びながら食う飯は早くもなる。味わう? 出来るわけないでしょうが!


「じゃ、お返事ください」


 待ってましたとばかりに言い出した男は本当に私がラーメンを食べ終わるまで待っていた。馬鹿である。


「あの、どこに行くのか聞いてからでもいいですか」

「あ、そういう感じ?」

「どういう感じ……」

「じゃあ言い方変える。俺と恋人関係になって?」

「嫌です」

「即答かーそっかー」

「あの、じゃあ私まだ講義あるんで」

「そうなの。ならまたね、早乙女明日夏さん」


 え……この人私の名前知ってやがるんですか。ストーカーか? ないな。めんどくさいし、ほっとこ。





 って問題棚上げにした私ってホントに馬鹿野郎だな!!!


「こんにちは」


 相手はストーカー(仮)なんだぞ!? 脈無しと悟って去っていくの期待した私の先見のなさよ! あーあ、どうすんのさ。これ。


 1.断る

 2.断る

 3.断る

 4.断る……以下エンドレス。


 なんていうか、もちろん一択ですよね。


「私、大学に勉強に来てるんでそういうの結構です。若気の至りとかする気ないし火遊びする気もありません。何だったら一人寂しい独身生活謳歌して永代供養の墓かお金なかったら無縁仏にでもなるつもりなんで、ホントそういうの結構です」

「わあ、そんな未来まで見据えてるんだ。いいねそういうの。素敵だと思うよ」


 ちょっと待って。この答え聞いたらどんな男でもいや同性すら引く(現に友達に言ったらドン引かれた。)というのにこの男強すぎない? え、無理じゃない?

 てか何その返事。私も人のこと言えないけど、この人もまあまあ頭おかしいでしょ。え、イケメンなのに残念……。


「そうですか、じゃあこういう別な女を探してください。難しいとは思いますけど、あなたほど顔が良かったら多分見つかりますよ。すぐに」

「え、君にも俺の顔って通用するの? 嬉しいなー」


 こいつ難聴か??? 喜ばせること言ってないのに勝手に喜んでる。こっっわ!!


「でも俺は、君だから、いいんだ」


 あー。これ、ダメなやつですね。何言っても通じないやつだ。


「じゃああなたと付き合うに当たって、いくつか条件を出します。それが呑めるなら付き合ってもいいですよ。それを基準として条件は改定していきます。それも呑めるなら」

「わかった。なんでも言ってくれていいよ。それで君と付き合えるならね」


 ああ、こいつ相当やばいやつだ。私知ってる。愛するバイブルに書いてあった。一歩答えを間違えると、デッドエンドになっちゃう感じのやつ。私知ってるんだ。


 なんでだろうなー。私ただ学食でラーメンを啜ってただけなのになー。これが運命ってやつ? 運命って嬉しいことばっかじゃないのね。




 そんなこんなで。やつは私の出した『束縛しない』『四六時中そばにいない』『私がやりたいことはやる』『進路の邪魔をしない』『連絡がまばらでも詮索しない』等々のめんどくさーい条件をすべて呑むと言ったので、恋人関係になりましたとさ。


「よろしくね明日夏」

「あ、はい。……あ、つか名前」

「ああ、自己紹介してなかったね、ごめん。俺は翼。翼って呼んでほしいな」


 ああ〜〜さりげなく名前呼び強制ですねーー! 苗字知らないから翼としか呼びようない! かと言って自分から苗字聞くのも嫌だしうわーなんて高等テク! フゥー!


 だんだんと自分の中の自分が壊れてきたから、帰ると言って私は翼から離れた。


 その背中に見えなくなるまで手を振っていた翼のことは、私は知らない。知らないったら、知らない。



「ね、今日は暇?」

「学生にいとま、という余暇はありません」

「つれないねー今日で15回目だよ」

「束縛、」

「しない。わかってるよ」


 少し寂しそうな顔をしている翼氏には申し訳ないが、こちとら付き合うと言ってもちゃんとした男女のカップルになるつもりなんてさらさらなかったんだ。


「でもさ、恋人なんだよね。俺たち」

「……まあ」

「じゃあ少しくらい一緒にいさせてよ」

「…………黙ってそこにいるくらいならいいですよ」

「ほんと? 嬉しい!」


 そんな喜んだ顔されたらこっちが困る。意地悪も悪意もそれはお互いにないけど、お互いの意思に差異があるので仕方ない。妥協点を探すしかない。


「あの、ひとついいですか」

「なになに?」

「あなたはどうして私のことを選んだのです?」

「あはは。そんなこと」

「言えない理由でも?」

「言えないっていうか……」

「理由がないとか?」

「いや、あるよ。あるんだけど、あのね、……うーん、ちょっと恥ずかしいんだ。言うの」


 はっ!? 何その照れ顔!!! イケメンの照れ顔とかズルくないですか!!!??


「君が勢いよくラーメン食べる姿が潔くてなんか好きになっちゃったんだ」


 てかなんだ、その理由! ラーメンかよ!! 私のラーメンが運命呼んだってのか!


 なんか、なんか……思ってたのと違ったわ……。


 そういう運命なら、なんか、いいかもしれない。ここまで頑なにならなくてもいいんじゃないかねぇ。


「翼くん」

「え? いま、名前……」

「私も、もう少し譲歩します。これからよろしくね」

「うん……!!」


 あーあ、こんな顔見ちゃったら、嫌いにはなれないよね。イケメン大正義ってやつなんだろか。


 あ、でもあのルールは取り下げるつもりはありませんからね!


 ヤンデレ駄目絶対!


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