第1話
とても爽やかな風が吹いている・・・
頬を優しくなでる草に、青い若草の香り、身体を温めてくれる陽光などは世界の優しさを感じさせてくれる・・・・。
現実逃避しても仕方がない。
ここが異世界である事は空にうっすらと見える衛星が二つある事からも明らかで、何よりインプットされたのだろうこの世界の常識と、与えられた魔法の使い方が脳内を駆け巡っている。
「クッ・・・・ソ・・・騙された。」
いや、やはりと言うべきか・・・
地中の物質を自在に操る能力とオーダーしたのに、結果操れる物質はケイ素とアルミニウムと鉄の三種類のみだ。これらは地中に存在する主成分ではあるが、5割近くを占める酸素が無いのは流石にバランスブレイカーだからだろうか?
まぁいい、いや、十分だ・・・ケイ素、アルミニウム、鉄の三種だけでも地中の約4割を占めている、十分にバランスブレイカーだ。しかもどうやら化合物も操れるようで、ケイ酸塩鉱物(主にガラスなど)を操れるのはデカい。
とりあえず、いつまでも仰向けに寝転がっているわけにもいかないと、ゆっくり上半身を起こしてみる。
若草が生い茂る草原、遠くに見えるのは剣を振り回す戦士らしき人、それにローブを羽織った、火のようなものを飛ばしてるアレは魔法使いか?そしてその二人と戦って・・・・・その二人を喰い散らかしているのは上半身の筋肉が異常に発達したマントヒヒの様な化物だ。
ヤバイヤバイ・・・・幸いにも距離が遠く、なおかつ食事に夢中でこちらには気が付いてはいないが、まだ使い方が分かっただけでいきなり化物とのデスマッチデビューは避けたい。
近くに走る馬車か何かの轍でできた街道を辿って、化物から遠ざかるとしよう。
異世界、怖い・・・・ハンパない。
リアルに人が喰われる瞬間なんて初めて見たわ・・・・吐きそう。