無情
重たいお話です。
「最っ低。」
頬にじわじわと広がる痛みを数秒遅れて自覚する。
…あぁ、頬を叩かれたのか。
そう気づいた時には、俺を叩いた張本人である元カノは走り去った後だった。
どうやら俺は昔から少々考え込んでしまう癖があるようだ。
どうして叩かれたのか。
正直よく分からなかった。
「私が一番じゃなくてもいいから」。
そんな言葉は所詮虚言でしかなく、その場任せの言葉だというのも理解していた。
そして俺は、彼女という存在がありながらも他の女と寝た。
どこからの情報なのかは謎だが、その事を聞きつけた彼女に問い詰められ、まぁ寝たことには間違いない為肯定した。
そしてまぁ、冒頭に戻り。
盛大なビンタをくらったわけだ。
俺は元来こういう人間であり、他の女と関係を持っているのがバレて振られるのは初めてじゃない。
むしろ結構頻繁にあることだ。
そんな俺のクズさ加減は学校全体に伝わってるはずなのに、女共は寄ってくる。
所詮は顔だ。虫唾が走る。
俺の母親は水商売で働いていて、俺はその仕事先の客として出会い付き合っていた男との間に出来た子供だ。
残念な事に望まれた子供ではなく、単に気づいた時には堕ろせる期間が過ぎていたため、仕方なく産んだだけだ。
母親の顔は確かに整っている。
そしてその母曰く、俺の父親もなかなかの美形だったらしい。
その間に生まれた俺の顔が整っているのもまぁ、頷ける。
父親は子供が出来たと言う母親に怖気づき逃げた。そのため未だに行方知らずだ。
なんせその当時、父親は20歳。そして母親は18歳。
そんな中子供を頑張って育てる夫婦は世の中たくさんいるだろうに、俺の親はそうではなかったらしい。
母親は不本意と言えど子供を生んでしまった訳だから、殺すことも出来ず今日まで俺のために働いて育ててくれた。
そんな母親にまぁ、感謝はしてる。
俺は自分の父親が嫌いだ。
母親も感謝こそはしているが好きではない。
作るだけ作って結局は子供を捨てた父親と、俺ができる前から色んな男と寝てきた母親。
2人の血を継いでる自分が、とんでもなく汚らわしいものに思える。
俺の顔は父親に似ているらしい。
何度この顔をナイフで切り刻んでやろうと思ったか。
中坊の頃まではこの顔はただの憎悪の対象だった。
だが、高校に上がる頃には、俺はとっくに気づいていた。
この顔は武器になる、と。
おかげで女には不自由しないし、少しニコッと微笑んでやれば教師も特に何も言ってこない。
確かに母親には嫌悪感はあるが、俺だって健全な男子高校生だ。
性処理の為でしかなかったが、しょっちゅう女をひっかけては身体の関係を持つようになっていた。
来るもの拒まず、去るもの追わず。
それが俺。
そんな話が流れても幸い顔に恵まれていたため、相手が途切れる事はない。
そんな生活を親友である「八神 凪斗」がアドバイスと称して「誰か1人と付き合ってみろよ」と言い放ったのだ。
正直、今の生活にあまり不満はなかったわけだが、一応親友からという事で聞くことにした。
で、その直後に誘ってきた女を適当に彼女にした。
が、まぁ、俺が1人の女を愛することなんて出来るはずもなく。
案の定、他の女に手を出した為破局。
凪斗は「好きなやつと付き合わなきゃ意味ねーだろ!」とかなんとか怒っていたが、そもそも【好き】
という感情が理解できない俺には無理なのだ。
【好き】という感情も、誰かを愛するという感情も、愛しいという感情も、抱きしめたくなるような熱情も。
俺は感じた事がないのだ。