おまけ
「クレちゃん。頼みたいことがあるんだ」
「ん? 改まってどうした」
いつもとは少し違ったニコラスの様子に、クレメンスは首をかしげた。
「ジョンが実父との対面を希望してるんだ」
ニコラスは神妙な面持ちで話す。
「やはり、実子ではなかったか……」
クレメンスは視線を斜め下に落とす。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
クレメンスは「うむ」とうなずく。
「ごめん」
ニコラスは頭を下げた。
「謝るほどの事でもないだろ。見ればすぐ分かることだ」
クレメンスは「フッ」と笑う。
「だよねぇ」
ニコラスはそう言うと「はぁっ」っと大きなため息をついた。
「ん? どうした?」
「ダニエルのやつ、全然気がつかなかったんだ」
ニコラスは皮肉な笑みを浮かべた。
「まぁ、ダニエルならあり得るな」
クレメンスは「フフフ」と笑った。
「ほんと、何を見てるんだか……」
ニコラスは視線を斜め下に落として低い声で言った。
「そう怒るな。ダニエルは私のように疑り深い性質ではない。そこがダニエルの良いところではないか」
クレメンスはそう言ってほほ笑む。
「それはそうだけどさ。でも、それじゃこの先、ダメだろ? 」
ニコラスは相変わらず低い声で言う。
「まぁ、それはそうだがな……」
「それより、用件はなんだ?」
クレメンスは話題をそらすように言った。
「そうそう。ジョンの実父との対面をセッティングして欲しいんだ」
ニコラスは顔を上げた。
「相手はアルテーン子爵」
そう言ってクレメンスに紙の束を渡す。
そこには、アルテーン子爵の名前や年齢、住所、経歴などが事細かに記載されていた。
「ずいぶんしっかり調べてあるな……。ここまで調べているのなら、お前が直接……」
資料を眺めていたクレメンスは、ふと顔を上げ、視線をニコラスに移すとニコラスの顔を探るように見つめた。
「やり合ったことでもあるのか? 」
「やり合うだなんて物騒な。一方的に叩きのめしただけだよ」
ニコラスは不敵な笑みを浮かべる。
「そうか。なら、出ていかない方がいいな」
クレメンスは「仕方ないな」とでもいうように鼻を鳴らした。
「でしょ。とりあえず、ダニエルを付きそわせるつもり。頼むよ」
ニコラスはクレメンスを真っ直ぐにみる。
「わかった。お安いご用だ」
クレメンスはにっこりとうなずく。
「ありがと」
ニコラスもにっこり笑った。