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ダニエルの短編集  作者: 岸野果絵
それぞれの悩み
6/7

それぞれの決断

ジョンが一人で階段を降りてくる。


「もういいのか?」

クレメンスがジョンに声をかけると、ジョンはコクリとうなづいた。


「そうか。では帰るとするか」

クレメンスはそう言うと階段の上をチラリとみる。

そこには、スラリとした長身の男性が立っていた。

クレメンスは男性に向かって、恭しくお辞儀をする。

ダニエルもそれにならった。

男性は二人を一瞥すると、屋敷の奥へと消えていった。

それを確認したクレメンスは瞬間移動術を行使する。

三人はニコラスの館に設置されたゲートに姿を現した。


「おかえり~」

待ち構えていたかのようにニコラスが出迎え、ジョンに向かって両手を広げた。

「お父ちゃん」

ジョンはニコラスに飛び込んだ。


「向こうのおうちはどうだった? ホントのお父ちゃんはイケメンだったでしょ? 」

ニコラスは屈んでジョンと目を合わせる。

ジョンは少し目線を落とした。

「お話しできて良かった……」

そんなジョンを見つめながら、ニコラスは微笑んだ。

「ジョンがホントのお父ちゃんに会いたいって思ったときは、いつでも会っていいんだよ」

ニコラスの言葉にジョンはうつむいて「ううん」と、首を左右に振った。

「さようならしてきたの。僕ね、もうあっちのお家には行かない」

「遠慮なんかしなくていいよ。オイラに言いにくかったら、セーラやダニエルに言ってもいいんだ」

ニコラスはそう言ってニッコリと笑いかける。

「ううん。遠慮はしてないよ」

ジョンはそう言うと顔を上げ、ニコラスを真っ直ぐにみつめた。


「僕のお父ちゃんは一人だけ。僕のお父ちゃんは魔術師ニコラスだけ」

「ジョン……」

ニコラスは驚いたようにジョンを見つめる。

「僕、お父ちゃんの子供でもいい? 」

ジョンはニコラスコの顔をじっと見つめながら言った。

「もちろんさ。ジョンはオイラの子供だよ」

ニコラスは満面の笑みを浮かべる。

「魔力が無くてもいい? 」

小首を傾げてさらに質問するジョンの両肩にポンと手をおいた。

「ジョン。魔力なんて気にするほどのもんじゃないよ。単なる個性のひとつ。髪の色や瞳の色、そんな程度のもんさ。あってもなくてもジョンはジョン。ジョンはオイラの大切な我が子だよ」

「お父ちゃん……」

ジョンの瞳が揺れる。

「ジョンにはオイラが持ってない凄い才能が眠っているんだ。オイラには分かるんだよ。ジョンからはとってもいい匂いがするからね。オイラ、なんでも分かっちゃうんだ」

ニコラスはニタァっと気味の悪い笑みを浮かべた。

ジョンはニッコリして「うんっ」と大きくうなずく。

ニコラスはそんなジョンの頭をなでなでする。

「セーラがジョンの大好きなアップルパイを焼いて待ってるよ。食べといで」

「うん」

ジョンは目をキラキラさせながら返事をすると、小走りに食堂に向かっていった。


ジョンを見送ったニコラスは辺りを見まわす。

「あれ? クレちゃん? もう帰っちゃったのか。相変わらずせっかちだなぁ」

困ったような顔をしてそう言うと、ダニエルの方をチラリと見た。

「ダニエル。オイラたちもアップルパイ食べよう」

ニコラスは食堂の方にくるりと向きを変えた。


「師匠っ」

ダニエルの呼びかけにニコラスは振り向く。

いつにないダニエルの雰囲気に首をかしげた。


「僕、本気で師範魔術師になりたい。魔術を極めたいんです」

ダニエルはニコラスを真っ直ぐに見つめながら言った。

「ふ~ん」

ニコラスの顔から表情が消える。


「師匠。僕に幻惑魔術を伝授してください」

ダニエルはひざまずいた。

頭を下げたダニエルをニコラスはしばらく無言で見つめていた。


「死んでも知らないよ? 」

ニコラスはダニエルを横目でみながら呟くように言う。

「覚悟はできています」

ダニエルは顔を上げ、ニコラスの顔を真剣なまなざしで見つめる。

ニコラスはダニエルの目をじっと見つめる。

その瞳からは全く感情が読み取れない。

心の奥底まで突き刺さるかのようなニコラスの視線に、ダニエルは耐える。

二人はしばらくの間みつめあった。


ニコラスはゆっくりとダニエルに背を向けた。

「ダニエル。ついてこい」

低い声でそう言うと足早に歩き出した。

「はいっ」

ダニエルはすぐさま立ち上がると、ニコラスの後を追いかけた。



**********************


クレメンスが魔術師協会本部の廊下を歩いていると、前方からニコラスが歩いてきた。

「クレちゃん、こないだはジョンのこと、ありがとね」

ニコラスはクレメンスの近くまでやってくると、立ち止まってそう言った。

「ああ。良かったな」

クレメンスは微笑む。

「うん」

ニコラスはニッコリと笑った。


「クレちゃん」

歩き出しかけたクレメンスだったが、呼びかけられてその場に留まる。

「ダニエルが、やっと本気になってくれたよ」

ニコラスは嬉しそうにニヤリとする。

「そうか」

クレメンスは少し視線を落とし、口元に笑みを浮かべた。

「ありがとね。クレちゃん」

「ん? 」

ニコラスの言葉にクレメンスは不思議そうに首をかしげた。

ニコラスはニヤニヤしながらクレメンスを横目でみる。

クレメンスは素知らぬ顔をして視線を斜め上に逸らす。

ニコラスは肩をすくめるようにして、クスリと笑った。

クレメンスも「フッ」と笑う。

二人はチラリと一瞬だけ視線を交差させると、それぞれの行き先に向かって歩き出した。

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