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ダニエルの短編集  作者: 岸野果絵
それぞれの悩み
5/7

ダニエルの迷い

ジョンはアルテーン家の執事に先導され、階段を上がって行った。


エントランスにはクレメンスとダニエルだけが取り残された。

どうやら、ジョンが実父との対面をすませるまで、ここで待つことになるらしい。


二人は近くにあったソファーに腰かけた。

クレメンスは本を取り出す。

「クレメンス先生」

「ん? 」

本を開きかけたクレメンスだったが、ダニエルの方を向いた。


「僕、ジョンちゃんが師匠の実子じゃないって、全然気がつかなかったんです。師匠に言われて……そしたら全然違うんです。師匠とジョンちゃん」

「そうだな。全く質が異なるな」

クレメンスの即答に、ダニエルはは視線を落とし、ため息をついた。


「僕、ジョンちゃんが生まれてからほとんど毎日一緒にいたのに、全然気がつかなかったんです」

ダニエルは膝の上に置いた手をぎゅっと握った。

「情けないです」

ポツリと呟く。


少しの間の後、ダニエルは顔をあげ、クレメンスを見る。

「先生。僕、やっぱりダメなんでしょうか? 」

「ん? 何がダメなんだ?」

クレメンスが眉をピクリとさせる。


「僕には師範魔術師は無理なんでしょうか? 」

ダニエルはクレメンスの顔をじっと見ながら、少し震える声でたずねた。


「フフフフフフフ」

クレメンスが突然笑い出した。

ダニエルは目を丸くする。


「それは私にきくことではないだろ? 」

笑いをおさめると、クレメンスは低い声で言った。

ダニエルはハッとしたようにうつむくと

「すみません」

と、蚊の鳴くような声で謝った。


「お前は私が無理だと言ったら、師範魔術師を諦めるつもりなのか? 」

クレメンスはダニエルの顔を覗き込むようにして、静かな声で尋ねる。

「そ、それは……」

ダニエルは顔をあげる。


「お前の覚悟はその程度なのか? 」

クレメンスは真っ直ぐにダニエルの目を見て言った。

「……」

「お前はそんな生半可な気持ちで修行をしてきたのか? 」

ダニエルは下唇をギュッと噛みながら、ゆっくりと首を左右に大きく振った。


「ならば答えは出ているはずだ」

クレメンスはそう言うと、「話は終わった」とでもいうように座り直し、本を開いて読みはじめた。

ダニエルはそのまま、ジョンが戻ってくるまで動けなかった。

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