ジョンの真実
「そっか……」
ダニエルからジョンの悩みについて聞かされたニコラスは、そう言うと視線を落とした。
「ダニエル。セーラを呼んできて」
ダニエルは師・ニコラスの指示に従い、ニコラスの妻・セーラを呼びに行った。
「ニコラス、どうかしたの? 」
セーラはエプロンで手を拭きながら部屋に入った。
ダニエルはそのまま立ち去ろうとした。
「ダニエル、君はそっち。セーラはここにすわって」
ダニエルはニコラスの指示通りに腰かけた。
セーラはニコラスの隣に座る。
「セーラ。ジョンに本当のことを話す時が来たよ」
朗らかな声でニコラスが言った。
「そう……」
セーラは深刻そうにうつむく。
ダニエルはそんな二人の様子を首をひねりながら眺めていた。
ダニエルにはニコラスの言う「本当のことを」が何を指してるか全く分からなかった。
「セーラ。話していいね? 」
ニコラスはセーラの顔を覗き込む。
セーラはコクリと肯いた。
ニコラスはセーラの肩を抱く。
「オイラが話していい? それとも、セーラが話す? 」
「あなたに任せるわ」
セーラはうつむきながらこたえた。
「分かった」
ニコラスはそう言ってセーラを放すと、ダニエルに向きなおった。
「ダニエル。セッティングはクレちゃんに頼むつもりだけど、ジョンが実父と対面することになったら、ジョンについてってあげてくれる? オイラが出てくとややこしくなるから」
「はい」
反射的に返事をしたダニエルだったが、ニコラスの言葉の意味に気がつき、目をしばたたかせた。
「実父って……。え? えええええええ」
「ん? ダニエル。まさか気づいてなかったの? 」
驚きでのけぞるダニエルに、ニコラスの冷たい視線が突き刺さった。
「気づくも何も……。ジョンちゃんは師匠の子供じゃないんですか? 」
「オイラの子供だよ。血はつながってないけどね。ね、セーラ」
ニコラスはあっけらかんとした顔でセーラの方を見る。
セーラはコクリと肯いた。
「いや、だって師匠。セーラさんがはじめてきた時に、お腹に赤ちゃんがいるって……」
「オイラの子なんて一言もいってないよ? 」
「いや、それはそうですけど。でも、ジョンちゃんが生まれた時に、お父ちゃんだよって」
「うん。オイラはジョンの名付け親だからね」
「え、いや、でも……」
「君たちが勝手に勘違いしてただけでしょ? 」
少し小馬鹿にしたようにニコラスは言った。
ダニエルは上目遣いにニコラスを見る。
ダニエルには、ジョンが実子でないことをニコラスが意図的に黙っていたとしか思えなかった。
「騙してなんかないよ? オイラたちに直接聞いてきたら、きちんとこたえてたよ。ね、セーラ」
「え、ええ……」
セーラは気まずそうに目をそらして肯いた。
「いや、でも、だって……」
「ダニエル。ほんと君の頭の中はお花畑なんだね。ちょっと考えれば分かったはずだよ? 」
ダニエルはグッと言葉に詰まった。
「はぁ。これじゃ先が思いやられるよ……」
ニコラスはわざとらしいため息をつくと、やれやれというように肩をすくめた。
ダニエルはうなだれた。
「ま、とにかく、今回はオイラは出ていかないから」
ニコラスはそんなダニエルの様子を全く気にもとめずに話をすすめていく。
「セーラはどうする? 」
「私も行かないわ……」
「うん。その方がいいね。ダニエル、頼んだよ」
「はい……」
ダニエルはうなだれたまま返事をするしかなかった。
「じゃ、ダニエル。オイラはセーラに話があるから、行っていいよ」
ダニエルはとぼとぼと部屋を後にした。