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アニムスアニマ  作者: 末永 孝
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7 襲撃Ⅲ

 

 しなやかに流れるように美しいソフィアの腕。

 

 その白い肌に一筋の赤が流れている。白磁の体を色づけたのは、ソフィア自身から滴る赤。それが一滴、白い床にこぼれた。


 それはソフィアがソフィア=アレアとなってから誰もなせなかった、絶対者への確かな傷跡。


「……強い、ですね」


 その自身の確かな傷を認識して、ソフィアは静かに呟いた。

 そして冷たい青の瞳で襲撃者を見据える。

 それはようやくソフィアが、目前の青年を自身の障害たりうる敵として認めた瞬間だった。


「見逃すわけにはいかなくなりました」


 ソフィアの瞳に射すくめられた青年の背に、戦慄が走る。

 どれだけの激情でアニマをブーストしようと、その憎しみが疑いようもなく正しいものだとしても、アニマで圧倒的に劣るものが勝るものを倒すことはかなわない。それは青年自身が身に染みて理解しているはずの、この間違った世界で最も明瞭なルールだったはずだった。

 それでも、怒りのままに腕にさらなる力を込めようとする青年。


 その前で、ソフィアが剣を受け止めるのとは逆の手を天に向ける。

 同時に、青年の第六感が極大の危険を告げた。


「ガアアアアアアアアアァァァアアアアアアアアアアアアァァアアアアアッ!!!」

 

 それでも青年はこの敵を、家族の仇を前に退くことはできなかった。

 

 腕が折れてもていい。ここでアニマが枯渇して死のうとも構わない。血だろうと骨だろうとこの命だろうと、差し出せるものは全てくれてやる! だからこいつは、こいつだけは!


 青年は全霊の魂で、アニマで、ソフィアの手の剣を振りぬこうとした。ソフィアの手を確かに傷つけたそれが、さらにその肉に押し入った。

 そう思えた、瞬間だった。

 

 無慈悲に、ソフィアの右手は振り下ろされた。

 ドンッ! と手を振り下ろすだけの動作に比して冗談のような爆音が轟く。神の裁きが如き一撃。それに青年は「ガハッ!?」と肺の息を漏らして、地に打ち付けられた。

 立ち上がる白い粉塵の下。白のテラスの床は大きく罅割れ、今にも崩落しそうなほどの有様だった。

 その崩落の中心地。屈服させられたかのように、青年は床に倒れ伏していた。

 それを見下ろして、ソフィアは止めの前に薄く目を閉じた。


「ソフィアッ!」


 ユールの警鐘。


 それにソフィアは伏せた瞼を開く。開いた瞳の前では、幽鬼のように先まで床に倒れていたはずの青年が立ち上がっていた。

 全身の骨が罅割れるか折れているのだろう。

 青年の体は今にも倒れそうに揺れている。内臓も損傷したか。口からも血が滴る。先までの剣を振るっていた右腕も折れたのか。だらりと不自然に垂れ下がる。それでも逆の左の腕。それはまだ動くのか。そこには決して消えることのない赤のアニマが宿っていた。

 なぜ、あいつらがあそこで死ななければならなかった。

 どうして、家族をこの手にかけなければならなかった。


「ソフィア=アレアアアアアアアアアアアァァァアアアアアアアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァアアッーーーーーーーーーー!!!!」

 

 それは全てこいつのせい。この偽りのメシアが全ての元凶。だからこいつだけは絶対に殺す!

 憤怒に、憎悪に、赤のアニマが噴出する。

 損傷を、限界を超えて肉体を突き動かす強き意志。

 

 そのあまりに真っ直ぐに向けられる怨念を前に、ソフィアは僅かに心を震わせた。でもそれは刹那の間で、そんなことでソフィア=アレアが判断を過つはずもなかった。


 青年が残された左腕で憎悪の剣を振り下ろす。


 それを、ソフィアはただ冷たく見上げた。


「汝のアニマは我が身に」


 無造作に、ソフィアは左手を頭上で振り払う。

 ただそれだけ。

 それだけでパアンッ、とあっけなく青年の執念の一撃は掻き消され、


「汝のアニムスは我が魂に」


 続けて、ソフィアは再び右手を天に向けた。

 体を砕こうと止まらぬ意志。それを止めるには命を絶つしかない。


「我がソフィア=アレアの名において」


 そして、仮借なき青の裁きは下された。



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