4 サクラメント
ロッテ―ルの中央広場。
先程ソフィア達が通り抜け、ユール大聖堂の正面に設けられた広大な石造りのそこには、五百人を超える人々が集っていた。
それを見下ろすユール大聖堂の大テラス。
信徒の眼差しが一心に向けられたそこへ、ソフィアは悠然と姿を見せた。
「ソフィア様」「ソフィア様」「ソフィア様」「ソフィア様」「ソフィア様」「ソフィア様」
それに気付いた広場の信徒は手を組み、地に膝をつけ、頭を垂れた。
嗚咽のように漏れる教主を称える声は、波紋のように広場から街中に伝わっていく。
ゴォーン、と鳴り響く荘厳な鐘の音がその波紋を打ち消した。
ゴォーン、ゴォーンと打鐘は三度繰り返され、その後には静寂が訪れる。
「慈悲深き聖ソフィア、あなたは全てを愛します」
静寂を破って、ソフィアの傍らでフィオナガ高らかに祈りを謳い上げ始めた。
「弱き者にも分け隔てなく、あなたは手を差し伸べてくださった」
響く祝詞を彩るように、ユールは雄大なパイプオルガンの調べを奏でる。
「ああ、尊き聖ソフィア。あなたは正義と公平を愛します」
響き渡る崇拝の旋律に、街中の全ての信徒が膝を折っている。
「私はあなたを愛します。御身に従い、あなたに縋ります」
それをテラスの祭壇から見下ろして、ソフィア=アレアは薄く目を結んだ。
「ああ、我らが聖ソフィア」
瞳閉じるソフィアの前では、幾万にも及ぶ青き光が青空を埋め尽くす。
「我らをお導きください」
小さくとも、儚くとも、街中の幾万の信徒の確かな信仰が込められたアニマの灯火。
「我らをお救い下さい」
微かなそれに託された、それぞれの縋りつくような願い。
「この世界に救いの光をお与えください」
そのすべてが自分に向かってくるのを察して、ソフィアは心静かに目を開いた。
「ああ、心優しき聖ソフィア」
焼き付けるよう、決して忘れえぬよう、信徒の群れをソフィアは見つめる。
「御名が聖とされますよう」
全員の心を請け負うように、両の腕を開く。
「御国が来ますよう」
その小さな体に幾万の膨大なアニマを受け、少女は心に誓う。
「御心が、地に行き渡りますように」
必ず、あなた達の、自身の悲願を成し遂げてみせると。たとえこれ以上、何を失うことになろうとも。多くを犠牲にすることになろうとも。その果てに、この魂を地獄の業火に焼きつくされようとも。
信者の祈りは信仰となって青きアニマに託された。
青空にふわりと舞ったその灯は、信仰の対象たる一人の少女へと降り注いだ。全ての願いを託された少女は、静かな覚悟をもってその全てを受け入れた。
これがサクラメント。ソフィア=アレア教の全信徒が悲願成就を願い、ソフィア=アレアへとアニマを委託する礼拝の儀。
ゴォーン、とその儀式の終わりを告げる鐘が鳴り響く。その場の者、全ての物思いを断ち切るようにそれは響き渡る。
ゴォーンと再度、鐘が打ち鳴らされる。それは静寂の街に染み入るように木霊する。
「ソフィア=アレアアアアァアアァアアアアアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァアアアアアアアアアーーーーーーー!!!」
信仰の青のアニマで満たされた空の下、紅蓮の憎悪が爆発した。