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アニムスアニマ  作者: 末永 孝
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3 現況確認

 天窓の採光に、装飾が施され絵画の飾られた壁面が照らされている。

 その下には優に二十人は座れそうな重厚なテーブルと椅子が置かれていた。そこは限られたヒトしか入れないユール大聖堂最奥の会議室。

 そこをたった三人の人間だけが占拠していた。

 この国の支配者にして絶対教主たるソフィア=アレア。

 その左には、彼女の右腕ともいえるエンジェルスが第三席、フィオナ=アース。

 そして彼女達の向かいに座すは、アスタナの統治者にしてエンジェルス第五席たるユール=ラスティン。

 まだ年若い少年少女に過ぎないものの、ソフィア=アレア教国の主要な席を占める三人。その会席ともなれば、話の内容は先までの旧交を温めるような微笑ましいものではなく、国の現状確認と方針を検討するものに移っていた。

「スキエンティアの現状は」

 しかし重大な内容に反して、ユールは気怠そうにテーブルに肘をついて報告をする。

「特段変わったところはないね。相も変わらずウィレースとはグラン川を挟んでドンパチやってて、それが落ち着いた風も拡大した様子もなし。国内は相も変わらずの荒れ放題。そしてこっちに興味がないのも今まで通り、っと」

 スキエンティア帝国。ロッテール東方の山岳地帯を超えた先に居を構えるソフィア=アレア教国の隣国にして、ヒトの生存圏をウィレース皇国と二分する亜人の大国。現状その興味が自分達に向いていないことを報告から確認し、ソフィアとフィオナは一先ずの安堵を得た。

「つまり、あちらさんにとって僕達はまだ目障りなレベルでも、興味をそそられる獲物でもなしってことだね」

 しかし続くユールの指摘にソフィアは薄く瞼を下し、フィオナも目を伏せた。軽々しい語り口ながらも、ユールの指摘は的確に厳しい現実を表していたからだ。

 そう。スキエンティア帝国が自国の西方で反旗を翻したソフィア=アレア教国に手を出してこないのはつまりはそういうことで、しかも悔しいことにそれは現状では厳然たる事実だった。国土からしてスキエンティア帝国はソフィア=アレア教国の十倍以上。そして人口でいえばそれ以上の格差があるはず。いかにソフィア=アレア教国が今もって勢力を増しているとはいえ、その差はあまりに歴然だった。

「まあ逆に言えば、今のままなら手を出されないかもね?」

 ユールは両手を広げおどける。

 またそんな心にもないことを。ユールが口先だけで言っていることを理解しながらも、フィオナは律儀に応える。

「あまりに楽観にすぎるでしょう。あの気まぐれな獣王のこと。気が変わればいつこちらに矛先を向けるかわかったものではありません」

 それに、とソフィアが目を細めフィオナの言葉を継いだ。

「彼の国は私達が変えようとする悪辣非道のこの世界の理そのもの。ならば、どれだけ強大な敵であろうと滅ぼさねばなりません」

「……そりゃそうだ」

  昔日と変わらないソフィアの強い眼差しに、ユールはただ静かに頷く。

「となれば、やっぱ戦力の増強しかないね」

 そしてユールは現状の対策へと話を移す。

「加えてそれには、できる限り秘密裏にという条件がつきます。スキエンティアにこちらの戦力を読み切られれば、それが許容できるラインを超えたとき、彼らは攻め込んでくるでしょう」

 フィオナの補足に頷き、ソフィアはそのために現状行っている取り組みについて確認する。

「その後も、キレイの報告は確認できませんか」

 軽薄なユールの顔に、瞬間射した暗い影。それにソフィアは聞く前から答えを察してしまう。

「最終報告が二十一日前。その後、五日毎の定時連絡がセントラルでもロッテールでも確認できないとなれば、アニマラインの影響、受信兵の問題とも考えづらいですね」

 質問を自己完結して、ソフィアは冷徹とも取れる分析をした。

「……まだわかりません。あのキレイのことです。きっと、生きてます」

 その分析の示す結果を否定して、フィオナは縋るような希望を口にした。

 家族にも等しい最初期からの仲間。その安否がわからないフィオナの心情を思いやって、ユールもそうだね、と首肯した。

「それでも連絡が取れないのは事実。次の手立ても考えなければいけませんね」

 しかし、ソフィアは逆の可能性への対応を口にする。

 仲間の死の可能性をあまりに容易く受け入れ、その先に考えを巡らす。

「……まあ無事にこしたことはないけど、別の手段も講じとくべき、というのは間違いない」

 そのソフィアの強さの理由をわかっているから、ユールはフィオナと逆の答えにも頷いた。

「……ソフィア、でもそれは後で考えましょう? この後にはサクラメントもあるんだから」 

わかっているから、フィオナも揺れる瞳を微笑みへと変えて、時間を置こうと提案した。 

「ソフィア様、サクラメントの準備が整ったそうです」

 そして、タイミングを計ったかのように、外から扉が叩かれる。

 その呼びかけに、やはりソフィアは仲間の安否への不安を感じさせない透明な美貌をそのままに、席を立った。


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