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見下される猫


 王都に到着した。獣人国の要人としての待遇か分からないが、簡単に入国できた。この世界は国境越えをそこまで神経質に取り締まったりしないのかと疑問が浮かんだが、今は置いておこう。



 それよりも、クロナも様子がおかしい。眉間にシワを寄せ、怖い顔で馬車の外を睨んでいた。気になって視線を追うと、容易に原因が分かった。

 それは、奴隷商人の存在だった。何人もの奴隷が入った檻を、見た事もない、牛のような生物が引いている。きっと売りに出されるのだろう。小汚い恰好の女、子供がたくさん捕らわれている。そんな事より、あの牛は何だ?凄く気になる。見たところ魔獣だが、飼育できるのか。ひょっとして食べられるのか。気になる。


「クロナ」


「分かっています。すみません、私も修行が足りませんね。」


 ・・・牛の事が聞きたかったのだが。僕が奴隷を見て憤るクロナを咎めた感じになってしまった。もう一度檻を見ると、獣人が捉えられていた。なるほど、アレが怒りの原因か。






 その後、冒険者育成学校の入学試験会場へとやってきた。多くの人間が集まっている。まるで祭りのような人混みに早くも嫌気が差してきた。入学試験会場は、最大の人間が統治する国、そこにある世界最大の闘技場で行われていた。確かに無駄に広いな。


 受付に向かおうと歩いていると、不快な視線が僕ら二人に注がれ、陰口が聞こえる。聞き耳を立ててみると、「おい、今年は獣人が入学するらしいぞ」「帝国のペットか」「あの白い方の猫ちゃんペットに欲しいわ」「黒猫の方は美人だな~。金で買えるんじゃないか?」とかなんとか。


 どうも見下されているらしい。怒りに震えるクロナを促して受付に王から預かった受験票を提示する。


「あぁ、獣人の王家ですか。王からお聞きしていませんか?試験は受けなくて結構です。」


 受付嬢が冷たい口調で受験票を返してきた。


「それだとクラス決めの際、何を基準に判断するのですか?」


 クロナの疑問は当然だ。この試験はクラス分けの能力検査も兼ねていると聞いた。王家の人間ですら試験を受けなければならないのに、変だ。


「分かんねえのか?コレは優しさなんだよ。魔法も満足に使えないお前らが試験を受けても最下位なのは目に見えているだろ。だから、試験で恥をさらさないように、無条件で最下位のクラスに入れてやるって言ってんの。」



 僕らの受験票をみた女性の隣にいる男が声をかけてきた。態度が悪い、褐色の大男だ。



「なっ!!」


 うーん、この嫌われ方は異常だな。クロナの怒りが爆発しそうなので、なだめる。それより獣人の国と人間の国は友好関係にあると言っていたが、どうも違うらしい。そういえば、獣人の国の図書館では世界情勢について詳しく調べられなかったな。これだけ大きな国なら、もっと多くの情報を知れるだろう。



「お前ら獣人がいると風紀が乱れるから、さっさとお家に帰んな。」


 

 しっし、と動物でも追い払うようなジェスチャーをする受付の男。態度悪いな~。クロナが腰に差した短刀に手をかけそうになったので、鞘ごと奪っておいた。驚くクロナを引っ張り、帰路につく。




「どうして止めたんですか!あれだけ侮辱されて!悔しくないんですか!?」


 

 涙を目に浮かべて怒りをぶつけるクロナ。これは思ったことを正直に口にした方が良いのか、嘘で丸め込むのが良いのか・・・しかし、クロナには世話になってる、あまり適当に扱うのはよそう。


「悔しくない。相手の力すら測れない人の言葉だから。」


「でも!!」


「僕は王と約束をした、好成績を出し、獣人の国を助けると。さっきのは学校の生徒だ。受付を任されるって事はそれなりに成績が良いのだろう。あの程度でだ。」


「・・・」


「入学して前期の中間には大規模な大会が催されると聞いた。その大会は、学年、クラス、身分、全て平等にし、戦闘力の序列を決める戦いらしい。」


「そこで、優勝すればいいと」


「うん」


 

 本音を言う事にした。僕は本音を言っても大丈夫らしいな。誤解を招くのではと危惧したのだが、問題ないな。


「それに、入学すれば、教師立ち合いのもと決闘が許可されていると聞いた。奴らは僕らの挑戦を断らないだろう。教師が止める間もなく首を刎ねればいいじゃないか。弱すぎたとか言い訳すればいいよ。」


「・・・シロ?それは何の言い訳にもなってませんよ。しかも、私なにもソコまで怒ってません。」



 本音はあまり言わない方がよさそうだ。クロナが可哀想な人を見る目で僕を見て来る。やはり僕の価値観は少しズレてる。仕方ないじゃないか僕は猫だし。クロナも猫か・・・。



「そうだクロナ、図書館へ案内してほしい、少し気になる事がある。」


「・・図書館ですか。分かりました!」



 

 微妙な空気を切り替える良いきっかけになった。危ない危ない。図書館は僕たちの通う学校の近くにあった。ついでに僕らが通う事になる学校を見に行くことにした。学校は、小さな町くらい広大な敷地がある。建物がたくさん並んでいて、城みたいな建物まである。人間は無駄に大きな物が好きだな。



「中央冒険者育成学校、バンティル。・・・バンティルって何の事?」


「この学校を創立した初代勇者の名前です。冒険者育成学校は長いのでバンティルって呼ばれてます。」


「ほー。」


 勇者とかいるのか、その辺はファンタジーなんだな。異世界に転生して、勇者になるってのは物語として鉄板だけど、僕は主人公にはなれないらしい。僕をここに送った白い女神は僕の事をよく分かってるね。勇者なんて任されたら夜逃げするよ、僕は。



 その後、クロナを巻き込んで図書館へと入っていく。僕が知りたい情報をクロナに言うと、素早く本を持ってきてくれる。ここで不思議な事が一つ。いろいろな国の言語で書かれた本をクロナが持って来るのだが、何故か理解できる。これも白い女性からの選別なのだろう。



 本を読んでいると、クロナが少し不機嫌になっている。何で怒っているのだろうか。


「シロ。私が折角持ってきた本なんです、ちゃんと読んでください!」


「読んでるよ。」


「嘘です、パラパラめくってるだけです!」


 何を言っているのかと思い、周りを見ると時間がほとんど経過していない事に気づく。僕は知らないうちに速読ができるようになったらしい。いや、早く読めるだけで速読とは少し違うのかな。どちらにしろこれは便利だ。



「僕はこれで本が読めるスキルを持っているの」


「じゃあさっきの本の内容を言ってください」


「さっきのは世界史だな、主に・・・・」


 

 どうやらクロナは納得してくれたらしい。

 それよりかなり面倒な事が分かった。獣人の国が置かれている状況だ。獣人の国は人間の国と友好関係にあると聞いていたが、ほとんど嘘だ。帝国と呼ばれる国にいいように使われているだけらしい。人間の国は帝国と僕が今いる中央大国、通称セントラルである。この二つは仲が悪い。

 原因は帝国がセントラルを攻め落とそうとしている事が原因だ。人間の国統一を果たそうとしている。


 帝国はセントラルを倒したい、そこで獣人達に目をつけた。獣人達の兵力を搾取し、セントラ攻撃に当て、使い捨てる。そのせいで獣人のイメージが悪くなり、セントラルに嫌われたという訳だな。この学校に僕を送ったのは、セントラルの学校に獣人国からの代表を送る事で、不仲解消に当てようとしたのだろう。僕が好成績をだせたら、獣人国最強をセントラに送った事になる。そこでセントラは帝国と獣人国は友好関係にある訳じゃない事を知り、不仲だったセントラルと友好関係を築けるかも・・・といった感じかな。


 

 政治には関わりたくないから、3年は何も考えずに、好成績を取る事だけ考えよ。・・・それでセントラと仲良くなれず王が泣きついて来たら・・・帝国潰せばいいな。万事解決だ!



 僕は好成績を取れれば、自由になれると確信して、少しだけ学生生活にやる気をだしたのであった。

読んでいただきありがとうございます!

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