首輪を付けた猫
城に入ってからは、シークの強い、強引な勧めで仕方なく。風呂に入り、服を着替え、王に会う事になった。ま、小汚い恰好で王に会うのも失礼なのかな。シークの指示通りに動くのは不愉快極まりないが、鏡で自身の姿を見れるのだから、許そう。
鏡を見た感想は、驚いた。正直、驚愕した。僕の顔は、僕をここに送った白い女神に似ている。双子の弟です。が通用しそうな見た目だ。違いがあるのであれば、僕の頭には猫の耳があり、髪の毛は若干くせ毛のせいでフワフワしているという事だ。
にしても、なぜ女神様は自分の顔に寄せた?予想しよう、猫から人に転生させる。しかし、どんな顔にする?よし、私のパーツを少し変えてくっつけよう。せっかく猫だし耳もつけよう。とかかな。要するに適当に決めたという事だ。僕だったら適当に決める。
まぁ良いか、スーツのような衣装しか用意されていなかったので、仕方なく着る事にした。
謁見の間で仰仰しく面会するのを想像したのだが、王の部屋へと直接案内された。王に会うって驚いた。話して更に驚いた。なんと王のいるであろう位置に座っているのは、社長室のデスクのような席に座っているのは、穏やかなお爺さんだった。長い髭を蓄えたお爺さんだった。
「君が龍殺しの猫かね?思ったより華奢なんじゃの。」
「はじめまして、シロです」
「お初にお目にかかる。国王のバンディオじゃ。単刀直入に聞くのじゃが、獣人の国に尽くす気はあるかね?」
「ないです。」
ストレートな質問だったのでキレキレのトレートを投げ返す。
「そうか。しかし、このままでは獣人の国は滅ぼされてしまう。どうか、少しでいいから力を貸してくれんか?お主の自由は保障する。」
「協力・・具体的には何をしてほしいのですか?」
「うむ、人間の国には大きな学校があるのだ。そこは世界中の才能ある若者が集う学校じゃ。その学校で獣人の国の人間として活躍してほいいのじゃよ。」
「それが力の誇示になると」
「そうじゃ、じゃが学校と言っても冒険者を育成する学校じゃ。戦闘力が何より重視される。優秀な騎士や冒険者を輩出する学校じゃ、王族までもが修行として子供を通わせる。目立つには絶好の舞台じゃ。期間は三年。どうじゃ、三年だけ、獣人の国の人間として学校に通ってくれぬか?」
面倒くさい。正直かなり面倒くさい。僕にメリットがない。断ろ。
「うぬ・・・悩むのも最もじゃ、なんでも人間界には異世界から来た超人を囲っておる。危険も多かろう。強制はできん。」
ほぉ。興味深い。
「引き受けよう。具体的なプランを」
「おぉぉぉぉ!本当か!!!」
おいおい、爺さん。血圧が上がるぞ。
「うぉっほん!失礼した。いやー、でも良かった!だって最近人間の王厳しいからのう。よく怒られとったわい。ワシもさ?頑張ったんじゃけど、無理、何にも力が無いのに偉そうにするのもう限界!マジで無理。」
「・・・」
「具体的な話じゃが、お主さ、ワシの孫てきな感じで学校行ってもらう感じじゃ、それでもって・・・」
この爺さんは本当に王なのだろうか。こんな爺さんの孫は願い下げなので、王家に養子で来たと奴いう形にしてもらった。本当に養子にどうだと爺さんが騒ぎだしたのだが、それも願い下げだ。
そんな事より気になるのは異世界からきた超人って奴に興味がある。誰に連れてこられた?白い女神か?それ以外の何かか?興味がある。
盛り上がる爺さんを横目に、僕は今後の生活を考える。学生生活ってやつだ。僕が行くことになる冒険者育成学校。話から推測するに、冒険者育成なんてのは表の顔だろう。冒険者に必要な能力は戦闘技術、サバイバル技術など、兵隊に必要な要素に似ている。人間の国が優秀な兵隊を欲している辺りから、戦力増強の手段だろう。
きっと戦闘能力に重点が置かれるだろう。僕はそこで目立てる程強いのだろうか。龍との戦闘の際に使用したスキル。女神から与えられた能力だ。確かに協力だ。しかし、学校で行う戦闘には不向きだろう。もっと加減して使えるようにならなければなるまい。
考え事をしていると、国王の話が終わったみたいだ。その後、雑談を回避しつつ今後の予定を聞く。一か月後に人間の国の要、セントル大国にある冒険者育成学校に入学する。僕は自由に立ち回っていいそうだ。王からの条件は、できるだけ力がある事をアピールする事。それだけだと言っていた。言ってはいた。しかし、最後去り際に。
「そうそう、シロくん!一人君に世話役を付けた、困ったことがあったら彼女に頼るといい!」
首輪か。愚王ではないみたいだな。おちゃらけたのも、雑談を長引かせたのも、去り際に言ったのも、僕がそうすれば断らないだろうと踏んでの事・・・だったら大したものだが、そこまで買ってはやれないな。そんな事を考えながら部屋を後にした。
その後服を着替えようかと、王に会う前に案内された部屋へと戻る事にした。しかし、尾行というか監視というか、ついて来てる。しかし、振り返ったり天井を見たりしても全然姿は見えない。敵意は無いみたいだけど・・・。カマをかけよう。
「姿を見せたら?」
「・・・・やはり気づかれましたか。」
姿を現したのは、黒い髪の女の子だった。ポニーテールの猫獣人か。しかし、衣装がなんというか・・・一言で表すなら忍だ。くのいちが正しいのかな。しかし、少し幼い印象の女の子だと感じた。恐らく諜報部隊とかソッチ系なのだろうが、カマかけに乗ってしまってはなぁ。
「貴殿を龍殺しのシロ殿とお見受けします!」
「はい。」
「私は、シロ殿が学校なる場所に行くにあたってお供をするよう、殿から申し使っております!」
「間に合ってます」
「えぇぇ!?困りますよ!」
思ったより血の臭いがしない人だ。暗部に入って日が浅いのか、それとも猫をかぶっているのか。ま、3年間放し飼いにされる代償がこの猫なら許容範囲かな。
「冗談です。よろしくお願いします。」
「冗談・・・良かった~、びっくりするじゃないですか!私こう見えてお役に立てますから!」
頼りないサポート役だが大丈夫なのだろうか、接し方が難しい人だ。同じネコ科なんだ、いつか通じ合うだろう。早速だが、お役に立ってもらおう。
「早速なんですが、明日、昼頃冒険者ギルドがある町に来てください。」
「はい!何なりと・・・ところで何をするんですか?」
「入学準備です」
学校で生徒として活動するのは非常に面倒くさい。規則で自分の行動を制限されるのは嫌だ。しかし、異世界から来た超人に会うべきだと、猫の勘が言っている。抗う必要はない。正直、人間の国で最も大きな国というのも気になる。この世界を散歩するのも悪くない。
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