謎多き猫
場所は変わって闘技場。まさかギルドの地下にこんな物があるとは。
「悪ぃな突然。正直に言うぞ、お前は龍を倒せる程強そうに見えない。だから力を見せてくれ。」
「もし僕が負けたら?」
「龍の魔石を盗んだ罪で投獄だ。お前の人生がかかっている。負けられねえだろ?頑張ってくれ」
副ギルド長は、口元では笑顔を作りながら、目を鋭く光らせている。負けたら罪人か。ま、日本であれば、三食飯付きだし、清潔だ。だが、ここは異世界、文化レベルは日本よりもだいぶ低い。つまりあれだ。投獄は困る。ここは言われるがまま頑張るか。
「ルールは降参するか、相手が戦闘不能になったら決着としようか。もし、お前が龍を殺した奴なら俺くらいの相手を殺すのは簡単だろうが、殺さないでね?」
命乞いのようなセリフを吐く副ギルド長は、負ける気など毛頭ない顔で笑った。彼が持っているのは・・・日本刀だ。この国にも日本文化があるのかな?和室は好きだから是非訪問したい。畳があればだが。
「はい」
僕がそう言葉を発した瞬間、凄い速度で間合いを詰めて、居合い斬りを繰り出してきた。このオッサン不意打ちとか卑怯だ。まぁ、相手のが強者だったら僕も同じく不意打ちをするだろう。そして言うだろう。これも戦略であると。文句は言うまい。ま、避けられそうだからオッサンの戦略を許してるってのも本音だが・・・。もっと言うと、こんな考え事をしながら避けられそうだったから許そう。
猫の動体視力を舐めるな人間。よし、避けた後に言う台詞は決まった。そろそろ刃が当たりそうなのでオッサンの真後ろに回り込む。念のため全速力でだ。音もなく。
すると、オッサンは刀を振りぬいて硬直した。そして避けられたのを認識した瞬間に言った。
「参った!!!」
「n・・・はい」
決め台詞を言えなくなってしまった。まぁ疑いが張れたならいいか。
「しっかし、実力者なのは分かった。やはり俺では測れんか。女みてえな顔して強いな、お前。」
「僕は男だ」
「知ってるよ。俺は、仙道 一鉄だ。東にあるヤマトって国の出だ。田舎者で種族差別をしないからココの副ギルドマスターに抜擢された。実は腕も立つんだが・・・説得力ないか」
自嘲気味に笑うオッサンは唐突に自己紹介してきた。名前も肩書も、僕はあまり興味ないのにな。ま、聞いているフリをしよう。
「おいおい、お前も自己紹介しろよ」
「・・・シロ。」
「・・・終わりかよ!」
ずっこけながらツッコミを入れるオッサンを見て、すまないオッサン、僕のコミュニケーション能力が至らぬばかりに年甲斐もなくはしゃがせてしまって。同時に、羞恥心ないのかな?とか思って済まない。
「シロ・・お前凄く失礼な事考えているだろ。」
このおっさんは、人が何を考えているかを考え、時に羞恥心を捨てる覚悟でコミュニケーションをとることで、高いコミュニケーション能力、略してコミュ力を誇るのだと考察した。
「まぁいい、それよりお前さんの置かれてる状況はよろしくねーな。それは分かるか?」
「分からない」
「おいおい・・・分かった説明してやる。現在人間の国と獣人の国は友好関係にある。それは、人間の国に獣人の国が勝てないから仕方なくとっている友好関係。国を滅ぼさない代わりに、人間に兵を貸せってものだ。しかし、獣人の国が強力な兵力・・・勇者のような奴が自国民に現れたらどうなると思う?」
「戦争になるか、友好関係が壊れる」
「そうだ・・・ま、獣人の国の英雄になれる。大富豪にもなれる。って状況だよ、お前さん。」
「畳・・・東の国に和室はあるのか?」
「はぁ?・・まあ、あるよ」
「魔石の売却金をくれ、僕は英雄に興味ない。和室だ、和室に行かねば」
「俺は、龍討伐した奴を報告する義務があるんだが・・・黙っとくか?」
「好きにしてくれて構わない。」
さて、お金が手に入った。想定外に巨万の富が。飛ぶハードルが低すぎるとつまらんな。まぁ、もう昼だ。そろそろ寝たい。僕は一鉄におすすめの宿を聞き、そこに泊まる事にした。
オッサンの勧める宿は高評価だった。宿、旅館っぽい感じだ。和風の・・・まぁ、外国人が建てた和風宿って感じだ。なんでも、オッサンは獣人の国の王と仲良しで、ヤマトの文化を少し取り入れてもらっただとかなんとか。結果は高評価だとかなんとか。
宿代はドラゴン討伐の報酬のせいで早速不確かな金銭感覚だが、ドラゴン討伐報酬は金貨10000枚だそうだ。大金貨という1枚で金貨100枚の価値があるらしい物で代用されているようだ。大金が入った袋をぶら下げて歩くのは非常に不用心だが、仕方ない。問題は冒険者ランクがAまで上がってしまった事だ。Sにするとか言い出したので、ゴネてAにしてもらった。
部屋をとりあえず3日借りることにした。和服の女性に案内された。犬系の獣人だな。綺麗な顔をしている。そういえば美人を前にしたのに性的な興味が湧かないな。人間だった時代もあったのに。猫の時代が悪かったのかな?
部屋は和室で、畳がある部屋だ。広すぎだ。部屋が4つあり、日本庭園、部屋備え付け露天風呂。この部屋はかなり高いんじゃないか?VIP専用部屋らしい。僕にはもったいないな。
さて、昼は寝ようそう思い愛しい畳に寝転んだ。と同時にドアがノックされた。・・・少し嫌な予感がする。居留守を使えと猫の勘が言っている。しかし、声の主は部屋に案内してくれた美人だ。女性を困らせるのはいけない事だ。とりあえず返事した。
「どうしました。」
「シロ様に言伝がございます。」
言伝。このタイミングで言伝だ。ついさっきこの世界にきて冒険者になった獣人に言伝だよ。思い当たる事は龍狩りしかないだろ。お上から何らかの圧力を受けるのかな。
「内容と相手は?」
「はい、是非お会いしたいと、国王からです」
猫の勘は当たる。嫌な予感も当たる物だ。見事、面倒そうな事が始まった。