龍を倒した猫
一晩中狩をした。倒した敵は、ゴブリン、13体・ホブゴブリン1体・ホーンラビット5体・オーク2体、そしてドラゴン1体。といった感じだ。朝焼けが暗闇を照らし出す時間になった。町の方角へと全力で走る。15分程度全力疾走したが、息切れの気配なし。獣人ってのはマラソンでは無敵だな。
え?ドラゴン?となるだろう、そうドラゴンだ。空飛ぶ恐竜みたいなアレである。火を吹く奴である。え?ドラゴン?てなったのは僕の方だ。そいつと出会ったのはこの上ない不運であり、幸運だった。僕は狩に飽きて魔法の練習をしていたのだ。
結果から言うと魔法は発動できた。どういう原理で魔法が発動できるのかは分からないが、直感で魔法を放てた。なぜできた?体内に流れる、自分の魔力を圧縮して放出しただけだ。なぜか自分に流れる魔力を認識できた。放出も圧縮も簡単だった。なぜできたかという答えは僕に出せない。放出した魔力の塊は、白い、バスケとボールくらいのサイズの魔力玉は、白く輝いていた。真上に投げると、凄いスピードで空へと消えた。
目にも止まらぬ速度とはアレの事かな。にしても普通にできてしまった魔力のボール、仮に魔弾としよう。魔弾の難易度は知らないが、少なくとも僕に魔法の才能が無い事はなさそうだ。
そして事件は起きた。空から隕石みたいな勢いで、地面を砕き、土煙と爆風を生み出しながら、何かが登場した。ドラゴンだと、一目でわかった。圧倒的に自分より高位の存在が降ってきたのだ。驚くことにその龍は、言葉を離した。
「私に、龍である私に、攻撃を当てたのは貴様か?」
怒りのこもった、威圧感を感じさせる声で話した。焦って僕は、「わざとじゃない」と情けなく、命乞いともとれる台詞を吐いた。命乞いじゃない、勿論命は惜しいが、ただ事実を言葉にしただけだ。
「・・・なぜ言葉が分かる?」
「知らない」
僕は元猫だが元人間でもある。コミュニケーションの大切さは分かっているはずなのだが、なんとも難しい。猫の時は、猫の知り合いなんて居なかったから、飼い主様の言葉を聞くだけだったから仕方ないのかもしれない。
「危険な奴だ」
龍は言う、危険だと、僕にはどこがそう思うに至ったか皆目見当がつかない。しかし、敵対されたのは分かった。これは動物の勘だ。勿論、返事は考えない。言葉でこの場をやり過ごせる段階は、いつの間にか過ぎてしまった。そういう敵意を向けられている。
龍は息を大きく吸い込み、口を閉じ、僕を見た。そして火を吹いた。夜なのに朝かと勘違いする程のエネルギーを持った炎熱は、僕に向かって飛んできた。流石に焦った。予想はできたが、動けなかった。そこからは、なぜ自分がそんな行動をとったか不明だが、腕を真っすぐ伸ばし、手の平を火に向けた。
すると、薄い膜でもあるかのように火を止めた。すると、火に魔力が吸われていく。というか無意識に流し込んでいく。すると、火は白く変色し、龍に向かって帰っていく。跳ね返っていく。
そして龍を飲み込みさらに龍の後方を焼き払った。龍は跡形もなくなり、龍の後方の山も、抉れていた。ふぅ、地形を変えちゃった。てへ、ては済まない破壊行為を行ってしまった。ま、気にするのは止めよう。
こんな感じで龍を葬り、巨大な魔石を手に入れた。これは・・・ちょっと持ち運べない。けど捨て置くのは勿体ない。なんとなく、奴はあまり強くない龍なのだろう。でも龍なのだから、その魔石に価値はあるはずだ。そう言う訳で、その辺の木を伐り、ソリのような物を作り、引きずりながら運ぶことにした。途中で剣を死体に返し、死体と共に町へと帰る事にした。
重いソリを運んで、死体の乗ったソレを運んで町に戻る。勿論門番に止められるのは面倒くさいので、布をかけて、死体を隠して町へと入った。なぜ厄介事を起こす恐れのある死体を運んだのかは、気まぐれだ。だって猫だもの
町に入って先ず向かうのは冒険者ギルドだ。この世界でもソリを引いて建物に入るのは目立つらしい。ま、他人の目は気にしないので問題ない。受付に行き、死体の事を話すと、奥に通された。
副ギルド長は人間だった。なんだ、獣人じゃないのか。まあ種族なんぞどうでもいい事か。ソリの上にかかっている布を取り払った。死体の身元確認が行われるものだと思っていたのだが、応接室に通された。死体はギルドカードを一人の職員が持って行った。あぁそうか、アレだけ持って来ればよかったんだ。
応接室はなんとも重苦しい空気に包まれていた。さながら取り調べでも行われるかのようだった。事実取り調べが行われた。
「現在ギルド長は出ているから俺がこうして話を聞いてる。勘弁な。」
「・・・はい」
・・・やはりコミュニケーションとは面倒くさい。副ギルド長は男だ。鍛え上げられた肉体に、ボサボサの髪の毛。無精髭。うさんくさいな。これが僕が彼から感じた第一印象。
「単刀直入に聞くが、この魔石はどうした?」
「龍を倒しました。凄く弱い奴です」
「倒した・・・だと?」
凄く顔が怖くなった。この男はこの仕事に向いてないんじゃないか?少なくともギルドの二番手として看板を背負い、応接室で客の対応には向いていなさそうだ。
「お前さん、言ってる意味分かるか?」
「僕は質問の意味が分かりません」
あれれ、言葉を間違えたかな?
「ちょっと荒っぽいが確かめさせてもらう」
「・・・はぁ」
何が行われるのだろう。