プロローグ
吾輩は猫である。名前は・・・止そう。吾輩の住む世界には著作権なるものがあるらしい。
吾輩の体毛は真っ白である。グレーでも黒でもない、白である。名もまた白である。名は体を表すとはこの事なのだろうか。
吾輩という仰仰しい一人称はよそう、柄でもない。柄もない。
僕・・・そう他でもない僕は、元々人間です。猫に転生しました。悪い事をした覚えはないが猫になった。
我ながら稀有な人生だと思う。一回死んで、猫として生まれ変わったのだから。しかし、一度死んでいるのに、人生が継続しているような語り口なのは、さぞかし引っ掛かるだろうが、僕自身の。人間だった頃の意識があるのだから、一応人生は続いている事にしたい。してください神様読者様。
さて、本題に移ろう。散々言ったが僕は猫だ。飼い猫だ。故に名がある。シロだ。僕の面倒をみてくれている白神家の人たちは、神社を守っている、大きな家で生活している。
僕の日課は神社の境内で散歩をする事だ。時々来る参拝客に愛想をまき、参拝客が増えたら少しは白神家に貢献できるかと思っての行動だ。
ある日、変わった参拝客が来た。具体的に言うと、美しい女性、怖いくらいに整った顔。透き通るように真っ白な肌、何より目をひく銀髪は、あと20cm伸びたら地面に届きそうだ。
白い兎に角白い、服も、髪も、白い。そんな参拝客は、一直線で僕の目の前まで歩いて来て、しゃがんだ。スカートなのにしゃがんだしまった。猫の僕には何も感じない光景なんだけどね。
白い女性は言った。
「あなた、私と来ない?」
嬉しいお誘いだけど、お断りするよ。神社のためにならなきゃならないんだ。
ニャーとも口に出さずに心の中で丁重にお断りした。
「あら、真面目な猫ちゃんなのね。神社のためなら丁度いいわ、夜、日付が変わるくらいにまた来るから、必ず顔を出して頂戴。」
そう言い賽銭も投げずに帰って行った。
僕は言われた通り真夜中に神社に出向いた。僕はすっかり夜行性だ。なぜ行く気になったのか。心の声と女の声は見事に噛み合い、会話が成立した。それだけの事だが嬉しかった。理由はそれだけ。
約束通り白い女性が現れた。そして、一言。
「あなた、私の世界に来ない?出世させてあげるわよ。」
何の跡継ぎなのか分からないが、人間に戻れる感じの話に聞こえた。願ったり叶ったりだ。猫まんまは食べ飽きた。心の声が届くかは分からないが、よろしくお願いします。と念じた。
「そう、良い返事が聞けて嬉しいわ。じゃあ行ってらっしゃい。」
そこで意識が途絶えた。そして、俺の人生がまたしても大きく動く予感がした。猫の勘は当たるんだ。