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9/15

飲むと周りは思い出す

ひっさびさの更新です。

今回はちょいとばかしエロスが入ってます(^ω^)

そのかわりに重たいモノも入ってます( ◠‿◠ )

それではお楽しみ下さいm(__)m

12畳の畳部屋は今、酒気が大変に蔓延っている。

メリュちゃんはその匂いで酔ってしまい、端っこで潰れるように眠った。

「それでねぇ〜、ひろいのよ!その人!!」

「そ、そうなんですかー。

大変でしたね、あははは…」

再三聞かされたこの話。

今の所、その人がどう酷いのか、といった内容は一言も教えてくれない。

「んぁあ、サーキーちゃぁあん、お酒注いでぇ…」

「はいはい、それじゃあテーブルの上に置いてください」

「わかっは〜」

そう言って底に薄っすらとお酒の残るコップを、酢イカやら柿ピーやらチータラやらあたりめやらが散乱しているテーブルの上に置く。

「よいっしょ…と。

もう、江ノ華さん、いくら中身が半分も無いからって言っても一升瓶ってだけで結構重いんですからね?」

などと言いつつ表面張力でタプタプになるまで注ぎ入れた。

「わかっへるよ〜。

おっとととと、ありがほね〜」

何度も何度も聞かされた定型文。 良い加減に有り難みもない。

江ノ華さんは行儀悪くコップを置いたまま、今にも崩れて溢れそうな部分を啜る。

「ぷふぁ!やっぱりお酒は日本酒ねぇ〜。

ど〜お?サキちゃんも(ングング)けふ、飲む?」

あっという間にコップの中身を干すと、これも定型文、お酒を勧めてきた。

「いえ、結構です。私は絶対に飲みませんから」

「ちぇえ、連れないなぁ…

あいつも付き合ってくれないし、今日はもうこの辺に…ってあれ、あいつは?」

この場に一人足りない人間を思い出した江ノ華さんは、覚束無い動きで室内を見渡す。

「って…アキはさっき貴女に『お酒足りなくなりそうだから買ってきて』って言われて徒歩でコンビニに行きましたが?忘れないで下さいよ」

そう言うと江ノ華さんは少し考えた風に、くてん、と天井を見上げた。

「ぅぇ…頭揺らしたら気分が…」

ヘタリとその場に崩れる江ノ華さんは、ほんの少しの間だけ目を閉じる。

「そっかぁ…なら今は二人だけなんらねぇ…」

眼光があやしく光、艶かしく呟くとさっきまでのぽやぽやした雰囲気から一転する。

「そうですよ。ですから、そろそろお開きにしません…か?」

酒気に混じって蔓延する甘い空気。

一吸いで正気を保てなくなる程に濃い異匂いしゅう

ぺたり、ぺたりと、斜め座りで這い寄る隣の女性は、ただでさえはだけ気味だった薄紅色のキャミソールが更にズレ落ちて、下につけている桃色のブラが半分見えてしまっている。

(これは…まずいかも…)

そう思っていたのもつかの間。

いつの間にか江ノ華さんは甘く蕩けた…さながら恋人に迫るような顔で私の腕に絡みついて来た。

暖房や布から得れる暖かさとは違う、確かな火照りが私の身体を少しずつ蝕んでいく。

「メリュちゃんもそうだけどさぁ…サキちゃんもすっごくハリがあってツヤツヤでぷにぷにでやわらかぁい透き通るようなお肌よねぇ…」

するすると蛇のようなしなやかな動きで、身体を密着させられる。

「ちょ、何してるんですか!?」

江ノ華さんは私よりも豊満な胸で、絡みついていた腕を包み込み頬ずりをした。

「うんうん、やっぱりツヤツヤでぷにぷにねぇ」

すりすりと何度も何度も優しく擦られる二人の頬。

摩擦なのか、それとも二人のあかりなのか。

「うふふふ〜。

いいなぁ、可愛いなぁ、まだまだ若くて将来に理想を抱けている時期のは本当にいいなぁ…」

どさり。

私の押し倒された音だ。続けて江ノ華さんの手の着く音が。

背中を覆う畳がひんやりとしていてとっても心地が良い。

「いっそ、食べちゃおうかなぁ…」

江ノ華さんはゆっくり、噛み締めるようにしてそう呟きながら私に重なる。

あぁ、甘美な匂いが私を掴んで離してくれない。

鼻腔をくすぐり、肺を満たし、全身に巡り、脳が乗っ取られる。

思考が、次第に彼女の事しか考えられ無くなっていく。

江ノ華さんのつま先が私のつま先を握る。

江ノ華さんのしなやかな脚が私の脚と密着して熱を交換する。

江ノ華さんの柔らかなお腹が私の局部を圧迫する。

江ノ華さんの立派な双丘が私のお腹に押し当たる。

江ノ華さんのほろ酔う吐息が私の首根に纏わりつく。

「はぁ、はぁ…

ねぇサキちゃん。本当に戴いても良いかな?」

切なく、歯噛みした荒い声は、残された私の理性を容易に蕩かした。

「おねがい…します…」

「じゃなーーーーーい!!!!」

突如としてダウンバーストのような衝撃が空間にあるもの全てに走る。

部屋に充満していたアダルティな匂いは瞬時にして入れ替わり、蕩けていた…もとい掠れていた思考力が次第に回復していく。

「バッ…おま、バッカ!

何で俺が家にいない、たかだか20分くらいでこんな事になってるんだ!?」

ドガドガ音を立てて部屋を歩くのは買い出しに行っていたお兄ちゃん。

右手にはお酒、左手にはつまみの入った袋をテーブルの側へ乱雑に下ろすと、私の元まで急いで来てくれた。

「だ、大丈夫かサキ!?あの淫乱女に変なことされてないか?」

「誰が淫乱女よ」

「お前じゃい!」

「お、お兄ちゃん。言葉遣いがおかしくなってるよ…?」

「え?あ、あぁ。

ちょっとパニクってるから是非もナイネ!」

そんなテンパった事を言いながらもお兄ちゃんは私の服を正していく。

いつの間にか服を脱がされていたようで、今は下着一枚だった。

「…これで良し、と」

されるがままに服を着せられた私は、お兄ちゃんのポンと頭に置かれた手の感覚で、正しく我に帰る。

「ったく…

酒呑みのところにサキを置いてった俺も悪いが、江ノ華も飲み過ぎだろ。お前だってもういい歳なんだからちょっとは考えて飲んでくれよ」

呆れ気味に言い放つと、今度は江ノ華さんの服装を直し出す。

「ちょ、何するの!?

やめっ、この変態ッ!私が来てる服に触るなぁ!」

「ぐわっ!?な、何をするだー!!そんな、一升瓶で腹を殴らなくったっていだるぉう!?」

さっきまでのアダルティな空間から一変して、三流コメディのように取り留めない賑やかな空間へと変わる。

その光景を微笑ましく思うと同時に脳裏を突き刺す過去の記憶きず

「(あぁ、あの日もこうなってくれていれば)」

蚊の鳴く声よりも小さく呟いて、もう1人の兄に脳の一片を預け…

「サキ」

そうになった時、お兄ちゃんの声が思考を覆った。

「サキ、思い出さなくて良い。いや、思い出すな。

アレを克服する必要は無いんだ」

ギチリと両肩を鷲掴みにされた。

そこから伝わるのは痛みではなく哀しみ。

お兄ちゃんの手は僅かに、けれど確実に震えている。

この事は間違いなく、お兄ちゃんにとっても辛い出来事だったのだろう。

確かに思い出したくは無い。出来るならこの記憶全てを握り潰して、無かったことにしてしまいたい。

けど。

「けど、克服しなくてもいいって事はないと思うんだ。お兄ちゃん」

「いいや、しなくて良いんだ。受け入れる必要は無いんだ」

最後にこの話をした時と同じ言葉を使って、私を説得しようとするお兄ちゃんの目は、その言葉を信じて疑わない確固たるものを感じる。

「えと…取り敢えず飲み直そう?」

不穏な空気を察知した江ノ華さんはコップを三つと一升瓶を持って提案してくれた。

けれど…

「いや、今日はもうやめておこう。

そんな気分にはならないし、何よりお前は飲み過ぎだよ。もうちょっとこう、嗜む程度に、ね?

曲がりなりにも女の子なんだしさ、あんま飲んでるとホントに男が寄り付かないよ…?」

「うわー!酷いー!

空気読んでお酒勧めたのに体の心配されて、妙に大人の気の使い方されて、しかも変な偏見押し付けられたー!

もーいー帰れー!」

そう言って江ノ華さんは一升瓶をブンブン振り回して私たちを家から追い出した。

「お前やっぱ飲み過ぎだろ!?」

「うるさーい!」

いや、この夜中にうるさいのは江ノ華さんの方じゃ…

と、言おうとした時。

「それじゃまた明日」

途端に冷静になった声で約束をこじ付けられた。

「んが、ちょっとま…!」

バタリとドアは閉じ、鍵がかけられる音が宵闇に響く。

「はぁ、仕方ない。家に帰ろうか…ってあれ?メリュは?」

「そう言えば…いないね?」

私とお兄ちゃんはキョロキョロ辺りを見渡したがそれらしい影は見当たらない。

「あ、メリュちゃんは部屋の隅っこで寝潰れてたんだ」

それを聞くと、お兄ちゃんは左手を額に当てる。

「はぁ、どうしよう」

「ま、まぁほっといていいんじゃ無いかな。

それにちょっと、お兄ちゃんと話したいこともあるし…」

ーーその声は知らずの内に頼り無い、鬱屈としたモノになっていてーー

「…今日はダメだよ。

夜も遅いし、一晩おいた方がいいから」

ーーお兄ちゃんを昔のアキさんに戻してしまうーー

「…わかった」

そうして私たちはあの日のように寒い外を少しだけ歩いて、家へと帰った。

ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー

それは今から約十年前、僕がまだ十七歳だった頃の冬。

ある日の放課後。

強風に身体を震わす帰り道。

学校へ一週間も来ていなかった友人にプリントを届けるため、それまで僕の身の回りで起きた出来事とを手に、アパートの前でインターホンを鳴らそうとした時だった。

『…へ…て…』

一見、頑丈そうで実は薄いドアをかいして聞こえたか細い声。

その時は風の音か何かの聞き間違いだろうと思った。

ーーーー『たすへて…!』ーーーー

それは、疑いようも無い悲鳴だった。

幼い子の悲痛な叫びだった。

僕は無我夢中でドアを開けようとしたけど鍵のせいで開けようが無かった。

するとドアの向こうから苛立つ足音が聞こえた。

乱暴に目の前が開き、チェーンロックの制御で動きを制限されたドアの隙間から見えたのは、ケダモノのように変容していた友人の瞳だった。

「誰だおま…

おぉ、アキじゃないか!入れ入れ!」

一転して見慣れた優しい顔に戻る◼️◼️◼️は僕を部屋に招き入れてくれる。


有り体に言えばそこは地獄だった。


パンパンに詰まったゴミ袋が幾つも散乱して、ゴミ袋のない場所はビールの空き缶や一升瓶なんかが転がっていた。

室内は咽せ返る程紫煙が広がり、床は腐食、或いはカビが生えていてとても衛生的とは言えず、更には台所は体をなしていなかった。

「汚くて悪いなー!

電話でもくれれば片付けたのに…」

◼️◼️◼️はいつものようにヘラヘラと笑いながら話していたが、その口からはいつもなら絶対にしない酒と煙草の臭いがした。

「お、そうそう、こっちにいいオモチャが有るんだ。おまえも遊ばないか?まだ手に入れてから一週間の新品だぜ!」

そう言ってレースのカーテンで仕切られていた隣の押入れの中に案内される。

僕は言われるがまま付いて行くと予想だにしない事が起きた。

「だ…れ」

「誰じゃない、兄さんの友達のアキだ」

◼️◼️◼️は大きな耳の所々を赤黒く染めた幼女の首を両手で握る。躊躇いもなく。無機物を掴むかのようにしてしめつける。

「ぅぇ…か、ぁ、は…」

幼女はその事を特に驚くでもなくただ、受け容れた。

苦しいのだろう。辛いのだろう。嗚咽も涙も零す幼女は、けれど、歪みきった瞳で天井にある電球を見つめている。

「ちっ、もう前ほど暴れないのか。つまんな」

ドサリと◼️◼️◼️の手から落とされた幼女は無表情のままに起き上がると、何度か咳をして、流された涙と垂れたヨダレを拭う。

その光景を終始見ることしかできなかった僕は無意識に一つの答えを出していた。

[慣れている]と。

この幼女は、恐らくは◼️◼️◼️の言う、一週間前から今みたいな事を受けていたのだろう。

よく見ればこの子の身体には至る所に小さなアザや細かな擦り傷、円形の火傷等々があった。

素人目でも、これは一週間の間に出来たものではないと感じた。

まず間違いなくもっと前。下手をすれば産まれてすぐくらいからずっとギャクタイを受けていたのかもしれない。

ーーーあの時の僕…俺は、自分でも怖いくらい冷静だったんだろう。

何せ、こんな中でも疑問を生むことができたのだから。

「この子はどこから…?」

自然と口をついた言葉ぎもんはあからさまに苛立っていた。

「ん?あぁ、親戚の子だよ。どこだったか…あーまぁ、取り敢えず遠くの方?」

にも関わらず◼️◼️◼️は学校でいつも見せる穏やかな笑みを浮かべてそう答えた。

「なんで笑ってるんだ…なんで親戚の子にこんな事をしてるんだ?なんでこの子はこんなにも無気力に暴力を受け容れてる!」

感情のままに吐き出すと、後はもう滅茶苦茶だった。

僕は◼️◼️◼️に飛び掛かり、振るったこともない拳を全力でニヤケヅラに叩き込んでいた。

それはハタから見れば喧嘩というやつだったのだろう。

互いが互いの主張を受け入れられず押し通そうとする子供の喧嘩だったのだろう。

大人ならきっと、知恵を使って言葉で解決して丸く収めることが出来たのだろう。

けど、当然僕には出来なかった。

殴り合いの最中に◼️◼️◼️は独り言のようにして叫び続けていた。

『僕は悪くない』

『悪いのは親戚のオヤジだ』

『あの暴力オヤジの所為だ』

『あいつが僕に無抵抗を殴る歓びを教えたのがいけないんだ』

『そんなクソの介護をしに、サキを僕に預けて遠くへ行った母親の所為だ 』

『海外赴任で帰って来ない父の所為だ』

『僕は悪くない』

『僕は悪くない』

にいさんは何も悪くないんだ』

『だから、そんな僕を悪者だと教えてくれ』

いつの間にか僕の手は殴るのをやめていた。

自分の拳の痛みに反比例して身体はどういう訳か至って平常そのものなのだ。

「どうして僕を殴らないんだ。アキ」

口元から血を流しながらも、目から涙を溢しながらも、ヘラヘラと笑う◼️◼️◼️。

「それはこっちの台詞だよ。

なんで、されるがままなんだ?やり返せよ」

切れる息と激しい動悸でぶつ切りになりつつもそう答える。

それなら。と◼️◼️◼️は酷く弱った右腕を持ち上げる。

そうして僕の頬をなでた。

ペシリ。

ペシリ。

ペシリ。

合わせたところで蚊の一匹も殺せはしない威力を、三度。

「これで僕を殴れるだろ?だから早く殴れ」

僕の頬からずり落ちる◼️◼️◼️の右手を反射的に掴む。と、同時に強烈な違和感と嫌悪感が身体を駆け抜けた。

直感に従いセーターの袖を乱暴に捲ればそこには、未だ真新しい歪な楕円形のケロイドと、幾重にも引かれたリストカットの跡。

「な…これ…!!!」

頭が真っ白になる。

こんな腕じゃ初めから僕を殴る事は不可能だ。

どころか、日常生活にすら異常を来すんじゃ無いのか?

「笑ってくれよ。これだけの事をしても自制が効かない。

寧ろ、あんな時くらいしか動いてくれないんだ」

僕の手の内からダラリと力無く落ちる◼️◼️◼️の右腕。

「そこらに転がってる瓶とかあるだろ?

昔、父親に聞いたんだ『酒を飲むとよく眠れる』って。

だから僕はサキが来た翌日から浴びるように飲んだ。

その結果がこれなんだ」

ーーーーー力無く。

ーーーー解けるようにして。

ーーー釣り上がっていた口角がみるみると落ちてゆく。

「面白いよなぁ…

サキは…あの娘は、初めて僕に会った時『兄しゃん』って可愛らしい声で呼んだんだ。

…多分、兄さんって呼びたかったんだろうな。

なんでかはわからない。それでも僕はちょっと嬉しかった。

それから少しもしない内に母親がサキを連れて来た。理由はさっき言った通りだ」

◼️◼️◼️は擦れた声で語る。

「サキが来たその日、僕はサキを風呂に入れてやったんだ。その時だ、二度と消えそうもない疵々を見たのは。

痛そうだった。辛そうだった。とてもじゃないが見過ごす事なんて出来なかった。

僕は直ぐにサキと一緒に風呂から出て、疵の手当てに掛かったんだ。それで…それで…」

◼️◼️◼️は語る。

静かに。

微笑んで。

口を開く。

「まだ新しかったのかもなぁ…

小さな身体には不釣り合いに、大きな紫の痣。アレを間違って押した時のサキの声ったらよ…

AV女優の喘ぎよりもヨクッてよぉ!心底滾ったぜ!」

◼️◼️◼️の声は恍惚に浸り、眼はケダモノのそれに変わる。

「だからよぉ、僕はもっと…もっと、もっともっともっともっともっと!!!サキを甚振いたぶりてぇんだよ!」

その本心を洗いざらい曝け出した叫声が室内に響き渡る。

嗚呼…

僕は、彼の本当を聞いてとうとう、殴ることができなくなった。

声色は悦に。口元は狂気へ。瞳は外道に染まっていても、本音なみだは駄々漏れに過ぎていた。

ーーーもしも、もしもこの時に◼️◼️◼️が嘘偽り虚偽妄言世迷言を口にしていたのなら、きっと俺は殴り殺していただろう。例え、本音なみだが流れていたとしても。言い訳の一つでもしていれば、俺は絶対に許せず殴り殺していた事だろう。

「だから、サキが僕や、僕にされたことを思い出すなんて事は絶対にないようにしてくれ。絶対に。絶対にだ。

それだけが今の僕に在る唯一無二の願いだ」

壊れた感情でも明瞭に残った願い。

「…つまり、僕にあの娘を任せる、って事?」

視線を、背後で頭を抱き抱えて縮こまるサキへと向けつつ聞いた。

「そうだ。

身勝手なのはわかってる。でも、お前にしか頼めないんだ」

「お前の母さんには?」

「ダメだろうな…

いつまであのクソのとこにいるか分からないのに頼める筈もない」

「なら、警察とかに…」

「それもダメだ!

…一時的な凌ぎにはなるんだろうが、18歳も過ぎれば例え里親が見つからなくても施設からは出されちまう。

それに、サキはケモン族だぞ?過激派な警察官が当たっちまえば、ハイそれまで。有らぬ疑いを掛けられて仕舞いだ」

「……それだけ調べたんだ。

相変わらず真面目だね」

「それだけが取り柄だった、ただの犯罪者さ」

◼️◼️◼️は自嘲するような表情を見せる。

辛い。

ただただひたすらに辛いだけの会話だった。

この一時。僅かな、数分にも満たない瞬間。この時間はまるで学校で笑い合った時のような、そんな…………。

「泣くなよ。これから僕は殺人罪で捕まるんだぜ?むしろ泣きたいのはこっちだ」

おちゃらけた、普段の調子で話し出した◼️◼️◼️は、今日初めて本当で笑った。

ーーー何故誰も殺してなどいないのに、殺人罪と言い切ったのか。それは言うまでもない。

《世論を誘導してサキちゃんを生かす為》だ。

◼️◼️◼️から降りて馬乗りを止めると◼️◼️◼️はふらつく足取りで固定電話へと向かった。

「…もしもし、警察ですか?

はい。さっき僕は親戚の子を殺しました。

……本当です。ケモン族が心底嫌いなので殺しました。

場所は…」

電話が終わると、◼️◼️◼️はさっきまでサキが閉じ込められていた所から1匹の太く真っ白いウサギを取り出して、酒瓶を使い殺した。

耳を切り取ると、残ったウサギの残骸を床に放る。

「…それが、サキの身代わり?」

「そうだ」

「騙せるの?」

「研究によると、ケモン族の獣部位はごく普通の獣との違いは一切無いらしくてな、まぁ、騙せるだろうさ。

さて、家から出ろ。サクッとここを焼くから。

ウサギの残骸とガソリンに火を点けてな」

◼️◼️◼️は柔和に微笑むと、僕にサキを抱かせて、窓から外へ出るように促した。



外へ出てからの僅かな沈黙の後、辺りから焦げ臭い匂いが漂い始め、次第に煤けた煙が立ち昇る。

…それからはTVでも観てるかのようだった。

通行人のフリをして、終始眺めていた。

野次馬、警察、消防車に救急車、そしてマスメディア。

部屋がアパートの一階だったこともあり、大変な騒ぎになっていた。

だからこそ僕みたいな学生が、幼い女の子を抱きかかえていても、誰の気に留められることもなかった。

◼️◼️◼️が警官に連行される姿を確認してから、僕らは静かにそこから去っていった。

俯き、ギチギチと歯を噛み締め、涙を落とすしか出来なかった僕は…俺は、彼と彼の妹の為に兄に成ると。そう決めた。

それが、唯一できる彼の為の事だとそう思ったから。

ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー

「…ちゃん?お兄ちゃん!」

可愛らしいくもどこか悲しい声に叩き起こされる。

目の前が微かにぼやけて見え辛いのは目ヤニか何かの所為だろう。

2、3度拭ってから改めて目を開くと、そこには目元を腫らしたサキがいた。

「お兄ちゃん…その、昨日はごめんなさい…

なんか、ちょっとおかしかったみたいで…」

突然の事に一瞬頭が回らなかったけれど、直ぐにあにの事だと気付く。

「…?

あ、ああ…夜のことか。ごめんごめん、俺の方こそ強く言い過ぎたよ。だからそんなに落ち込むなって」

そう言いながら身体を起こす。

「ホント…?怒ってない?」

「まさか。

俺を怒らせたいなら…そうだな、その道のプロを10人、呼んできなよ」

笑いながら言って、今にも泣きそうな顔で聞き返してきたサキの頭やウサ耳を優しく撫でた。

「よ、よかったぁ…!」

無邪気に喜んで、飛び跳ねるサキの姿を見て俺は、形容し難い気持ちを胸にしながらも安堵の溜息を吐いた。

(あぁ、これで良い。今はこれで良いんだ。

今はまだ、これで…)

サキには悪いと思いつつも、彼の事はまだ秘密にしておこうと、胸奥きょうおうに留めた。

それから小一時間程時が流れ…

「あ、メリュちゃん」

不意に口を開いたサキによって呼び起こされたもう一つの記憶。

「まずい、メリュ、あっちに置きっ放しだった…!」

あっちには同様に酔いに酔っていた江ノあいつもいる。

下手をすれば、昨日のサキにあった事が起きているかもしれない…

「さ、サキ!直ぐに向こうへ行こう!」

「りょ、了解!!!」

そうして江ノ華宅に着いた俺たちは、すでに出来上がっていた彼女に、朝から酌に付き合わされるのだった…



To be next story…

いやはや、エロさを文字で表現するのって難しいですね…

次があるなら官能小説等を読んでお勉強しようと思います…


そうそう、このサキちゃんのいとこに当たるお兄ちゃんですが、照史とは結構な仲良しさんでした。故に、回想では彼の名前を◼️◼️◼️で表現しています。照史もまた、この事実を受け入れられていないのです。

ここからどうやって夜星きゅんの元にサキちゃんを送り出したのかはまた別のお話。

次話は江ノ華とメリュちゃんのお話にでもしましょうかね…(するとは言わない)


それでは次の更新をお待ち下さいませ。

…極力早くは仕上げますので(完璧なフォームの土下座)

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