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8/15

ニートの隣に越してきた知り合い

遅くなってごめんなさいり

久し振りの更新です。

前に役者は揃ったと言いましたが、あれは嘘だ!

…訂正、完全に失念していただけです。

明言はするもんじゃない、学びました。

それでは読んで、どうぞ。

突然だけど、みんなは《奇跡》を信じる?

多分、二通りの解答があると思うのだけれどどうかな。

ちなみに私は信じていない。

いえ、正確には『これまでは信じていなかった』ね。

ーー事柄というのは、いつ如何なる時でも必ず原因があり、過程があり、結論がある。

例えば、水があるからと言って勝手に沸いてお湯になるわけが無いの。

水をお湯に変えるには容器に水を入れて、それを火で熱さなければならない。

まぁ、余程気圧の高い所なら1度でも上昇すればお湯は沸くけれど、それは置いておいて。

極論的に、奇跡というのは『水をお湯にしたい』と念じるだけで過程を飛ばして『水をお湯にした』結論を得られるっていう事。

こんな事があり得ないのは今時小学生だってわかるのだから、大人で妙齢の私が信じられるわけが無いわ。

…今日までは。

実は四日程前に私は引っ越しをしたのだ。

今まで勤めていた製薬会社が閉鎖されたため、手配されていた女子寮から追い出されてしまったからなのだけれど、幸いにもそれまでのお給料と急な閉鎖による特別手当のお陰で新たに中古の家が購入できた。

昨日には大半の荷物整理が終わり、今日は近くのお家に挨拶回りをしていたのだけれど…

まぁ、左隣の一軒しか家は無かったけどね。

ただ、その一軒がいろんな意味で凄かった。

「わぁ…すごい…」

隣の家を見上げて思わず声を漏らしてしまう。

私の住む家だって小さくは無い。

社長さんが無理してくれたお陰で四人家族なら難なく暮らせるくらいには大きい家に住めるようになったのだけど。

けど、隣のお宅は規模が違った。

私の住む家より2回りも3回りも大きいのだ。

一体どんな人が住んでいるのかな。

っと、先ずは中の人を呼ぶために表札を探さなきゃ。

「えーと…あった!」

立派な構えの入り口に小洒落た表札を見つけた。

「え、これってアイツと…同じ?」

薄灰色のプレートの周りを木の枝に見立てた装飾を施している表札には、未だに忘れられない憎いアイツと同じ苗字が。

「でも、まさかねぇ?」

そんなはずは無い。

アイツとは高校以来会っていない、どころか今どこで何をやってるのかすら知らない。

学生時代の私を全否定したアイツがこんな所に居てたまるものですか!

「そう、そんなわけないわよね!」

頭を振って嫌な思い出を吹き飛ばし、表札の側にあったインターホンを鳴らす。

『はーい、少し待っててください』

何処か聞き覚えのある男の人の声が返ってくる。

「(いやいや、まさかね?)」

まさかそんなはずない。

だってアイツは高校を卒業したらすぐに何とかって会社に就職するために遠い所まで引っ越したって、同級生の間で話題になってた。

そんなアイツが地元から大して遠くもないここにいるはずない。

「(そう、いるわけないわ)」

わかっていても、トタトタと足音が大きくなるにつれ心臓が心拍数を跳ね上げる。

「(だめだめだめ、フラグが立っちゃってる!)」

胸に手を当て深呼吸で心を落ち着かせなき…

「すみません、お待たせしまして」

ドアが開きガッチリとした男の人が出て来る。

「あの、どうかしましたか?胸でも苦しいので?」

彼の言葉は耳に届かない。

風体こそ変わっているけど、寝癖っぽい髪型やあんまりやる気のない目付きに何処か腹ただしい声。

忘れるはずがない。

「えぇと、大丈夫ですか?」

大丈夫か、ですって?

「…なわけ」

「え?」

「そんなわけないでしょー!!!」

開口一番、私は持っていた手土産が落ちた事に気付かないくらい大きな声を出していた。

ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー

挨拶回りをしていた彼女を迎え入れた茶の間にて。

俺たち四人はテーブルを囲んでいた。

ちなみにハーキーは『長くなりそうだな』と言ってついさっき家を出ていったところだ。

『長くなりそう』とはどういう事だろうか?

「それで、彼女は誰なのお兄ちゃん」

「そうよアキ、ちゃんと説明して」

そう質問されてから数分の沈黙。

俺はどう返答すればいいかを悩んでいた。

メリュとサキには正直に答えても問題は無いだろう。

けど…

「(ジッ……)」

彼女…江ノ華 あやは俺を【志島 照史】と認識してからずっとジト目で睨みつけている。

この感じだと彼女は俺に対して怒りか何かを抱いているっぽい。

そうなると下手な事は言えなくなる。

睨みつける原因について触れなければ彼女は怒るだろうし、触れればそれはそれで怒るだろう。

さて、どうしたものか…

「…っ!ま、まさかお兄ちゃん、この人って…?」

正面にいるサキが、急に声を上げてトレードマークのふさふさしている大きなうさ耳を揺らす。

「………!

えっ、えっ⁉︎もしかして、そう言う事なのアキ⁉︎」

何かに気が付いたメリュは弾けたように隣に座っていたサキに抱きつく。

その様子はまるであり得ないものを見るようだ。

「へ?何が何だ?俺はただ、どう説明すれば彼女が納得してくれるのかと思って」

「「やっぱり!!」」

声を揃えて合点する2人。

何故だろう、俺と江ノ華を見る二人の視線はさっきよりも酷く、何かこう、汚れたものを見る感じだ。

「し、信じられらない!お兄ちゃんが…そんな!!」

両耳をピンッと立てたサキは、メリュをギュッと抱き締めて、尚も俺たち二人を見ている。

「だって、お兄ちゃんはヲタクでニートで変態でダメ人間でほっとけばずっと趣味に興じるような変人で…

そんな、そんなダメにぃに彼女なんて…」

静かな声で口早に俺の悪口を言って…って

「「はい⁉︎」」

「ほら!やっぱり!

さっきのずっと見つめ合ってる事といい、声がハモる所といい、ラブラブじゃない!」

言いながらふさふさの耳をみょんみょんと揺らして交互に俺と江ノ華を指差す。

って、それだけで江ノ華と俺が付き合ってると勘違いしているのか⁉︎

「ア、アホなこと言うなっ!江ノ華はただの同級生で、それ以外に接点は…」

「んなっ!よくそんな事が言えますね⁉︎」

誤解を解くために説明しようとすると、今度は江ノ華が立ち上がり俺を指差した。

「私とあなたには切りたくても切れない強固な糸が絡み合ってるんですよ⁉︎

それをよくもまぁ、ヌケヌケと『ただの同級生』だなんて言えますね!」

なっ、そんな言い方すればあいつらはまた誤解を…ッ!

横目でチラリと2人の方を見ると今度はメリュが俺を指差し…

「「やっぱり!」」

「やっぱり!」

つられて俺も言ってしまった。

一体何が『やっぱり』なんだ⁉︎

兎に角、早く誤解を解かなければ!

そう思い、少し腹に力を入れて声を出す。

「だから、別に江ノ華とは付き合ってないし、好きだと思ったこともないってば!」

「え…本当に?」

さっきまでの大きな声とは打って変わり、ぽかんとした顔で聞き返してきたのは何故か江ノ華だった。

「いやだって、江ノ華とはそんなに話したことなかったと思うけど…」

「そうなのアキ?」

落ち着きを取り戻したメリュが頭にハテナマークを浮かべて聞いてくる。

「うん?そうだよ。本当に同級生だっただけだ」

そう言うと江ノ華は少し寂しそうな顔をしてから俺を睨みつけた。

「酷い!あんたは私を全否定したくせに…!

それなのに覚えてないのですか⁉︎」

その、あまりの怒声と迫力にサキはふさふさの耳をへたらせる。

俺もちょっとだけシュンとした、

「覚えてなくてごめん、でもちょっと落ち着いて」

そう言ってテーブルの上にある接客用に出したお茶を勧めた。

すっかり冷え切っているが飲みやすいだろうし、良しとしておこう。

「あ、あぁっと、すみません。取り乱してしまって。

戴きます…ちめた!」

思ったより冷たかったみたいだ。

「それで、昔何があったんですか?」

ようやく普段通りに耳が戻ったサキが、思い出したように江ノ華に質問をする。

「それはですね…

少し長くなりますけど、良いですか?」

問いに対して俺たちは首を縦に振った。

ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー

ガヤガヤ、ザワザワと学校掲示板の前が騒がしい。

普段は【〇〇部の△△君が県大会出場】や【来週の〇曜日に学年全体でボランティア活動をします】など、暇な学生が時間を潰す為にしか見ないような内容しか張り出されていない。

けれど、今週ばかりは違かった。

そう、3週間前には学期末テストがあったからだ。

そして今日がその結果を掲示板に張り出す日。

今ここに集う学徒は皆、自分の成績と友人の順位を探すに必死だった。

当然私もその1人。

今回ばかりは負けられない。

前回の定期テストもその前のテストでも、彼には負けっぱなしだった。

でも、今回は違う!

普段の3倍は勉強したし、問題を解き終わった後も幾度と無く見直しをした。

(大丈夫、絶対に大丈夫。負けるはず無い)

壁のように集っていては定期的に学徒の入れ替わりが起きている掲示板前で、意を決して人の海をかき分ける。

「ん…ぐっ、ぷは!」

どうにか掲示板に張り出されている順位表を見定められる位置まで来れた。

(私の名前はどこに…)

一番下に書かれている10位の辺りから徐々に目線を上げていく。

9位 山野屋 小路

7位 吾妻あずま 彩葉いろは

5位 里北 喜田佐渡きたさと

飛ばし飛ばしに見ていった順位には私の名前は無い。

(よし、よし!この感じなら一位に…!)

4位 五臓 六腑

3位 沙良尼さらに 温団おんだん

2位 ■■華 綾

1位 志島 照史

…あれれ?おかしいぞ〜?

私の名前がないなぁ。

もう一度よく見てみよう。

目を瞑り、深呼吸をしてからもう一度順位表を見直す。

9位、8位、7位。

今度は見逃さないようにしっかりと、舐めるように。

6位、5位、4位。

無い。

当然と言えば当然だ。入学時のテスト以来5位以下に入った事はない。

3位 沙良似 温団

2位 江ノ華 綾

1…

あった。

正確にはない事にしていた名前。

何故か私は2位に居た。

2位に甘んじて居た…!!

なぜ、なぜ、なぜ、

「なぜよぉぉお!!」

『うわぁ!』『なんだ、なんだ⁉︎』『発狂したのはお前か⁉︎』『違うわ!』『じゃあ誰だ⁉︎』

ま、まずい。

ここには人がいっぱい居た。

取り敢えず、ここから離れなければ。

学徒達をか弱い腕力でかき分け、トボトボと肩を落として教室へと戻った。



「そーんで、まーた負けたの?」

教室に戻り席に着いた私の近くに寄ってくる、憎たらしい程に美しい顔と恐ろしく整ったシルエット。

彼女…もとい彼の名は夜星やぼし日和ひより

男のくせに女の私やクラスの女子よりも余程可愛くて尚且つファッションモデルも顔負けのプロポーションを持つ、私の数少ない友人の1人。

噂だと男子のみで結成されたファンクラブがあるとかないとか。

ついでに言うとファンクラブの創立者は今回1位のあいつだとかなんとか。

「うん…

ねぇ、夜星は志じ…あいつの親友なんでしょ?

どうしてあいつはあんなに出来るの?」

頬杖をつきつつ聞くと、夜星は可愛い顔を困らせる。

「えーと…僕からは言いたくないなぁ…」

「な、なんで⁉︎酷いよ!」

思わず机を叩いてしまった。

「いやだってさー、僕知ってるよ?でも、それ言ったら君絶対怒るもん」

と、ただでさえ可愛い顔を更に際立たせた笑顔を見せる。

私もファンクラブに入って良いかもと思ってしまうくらいに。

っと、アレは女子禁制だったんだ。

「そんなぁ、絶対怒んないから教えてよ〜」

知りたい…どうすればいつも赤点補習ばかり受けているあいつが学年トップになれるのかをッ!

私は、仏様を拝むようにして夜星に頼んでみる。

すると、夜星は右上に顔を向けて考えた風な素振りを見せると、

「んー、それじゃあ照史に直接聞いてみる?」

夜星はさっきよりも良い顔で笑い、人差し指を立てた。

「お願い!」

勿論、即答した。



放課後の校舎裏。

表の校庭からは絶え間無く部活動の音が聞こえてくる。

「まだかな…」

校舎の壁に背を預け、目が痛む程に蒼い空と対照的な色をした枯れ木を観ながら呟いた。

『おーい』

もう帰ろうかな、と思っていた頃に夜星の声が耳に入る。

「それで、俺に聞きたい事って何?」

その裏を歩くのは私の(勝手に)ライバル志島照史。

夜星と比較すると、頭一つ分だけ背が高く、男性的な体格の持ち主。

にも関わらず【男らしい】と感じないのは、寝癖をつけたままな上にボケっとした雰囲気を持つからだろうか。

「えっ、えぇと、ちょっと待ってて?」

いざ対話、と思ったけれど、ここまで来て気がついた。

(私はあいつになんて聞けばいいのだろうか)

取り敢えず、あいつに背を向けて考えをまとめる作業に入る。

ーーまず、聞きたい事は何か。

これは【どうしたらあんなに高い点数が 取れるのか】しかない。

ーーじゃあ、どうやって切り出すのか。

………

……

「(お、思いつかない…っ!)」

どうしよう、全然思いつかない!

ライバル意識を燃やしていたから、なんて言えば普通なら『なんだこいつ?』って思われるだろうし。

かと言って、どうすればあんなに沢山点数が取れるんですか!と聞くのはなんだか負けた気がして嫌だ。

いやまぁ、実際は負けてるんだけど…

右往左往に悩んでいると。

「な、なぁ、大丈夫か?」

いつの間にかあいつが私の肩に手を置いていた。

「ひやっ⁉︎」

不意をつかれた私はおかしな声を出してしまう。

…いや、寧ろ好都合かも知れない。

このままの勢いで聞いてしまおうッッ!

「大丈夫!

それより、どうしてあんたなんかが私より点数高いの⁉︎

自慢じゃないけど、今回は今までに比べて特に念を入れて勉強したんだから!なのにどうして⁉︎」

怒声になった声で勢いに任せ私は思いの丈を吐露した。

辺りーーと言っても校舎裏の私たち3人だけだけどーーは静まり返り、嫌な空気が漂う。予想外だった。

人は余裕が無いと思ったままを感情に乗せて口走る、と聞いた覚えがあるけど…

余程堪こたえていたのだろう。

初めてまともに会話した人相手にとんでもない言い方をしてしまった。

(どうしよう…)

我に戻った私は助け舟を求めて夜星に視線を向ける。

するとそこでは。

「(にやにや)」

と、可愛らしい八重歯を覗かせて下卑た笑みを浮かべていた。

(夜星は…この状況を楽しんでいる⁉︎)

助け船なんて来ない…落胆し冷や汗を流していると、質問の意図を理解したあいつが話を続けてくれた。

「なんだ、聞きたかった事っていうのは今回のテストの結果か」

「心配して損した」と言いって私の肩から手を離し、寝癖の所をポリポリと掻く。

(え…さっきの失礼な態度は気にしてないの?)

額の冷や汗をセーラー服の右袖で拭う。

「テストかー、正直点数高かったのは理科だけなんだよなぁ…」

あいつは嘲笑じみた笑みを浮かべてそう言った。

「は?」

余りにも意味不明な返答に、あいつの言っている意味が理解できなかった。

私たちが通っている高校は少し特殊で、本来なら分けられているはずの【物理】【科学】【化学】【生物学】等々その他etcを〈理科〉という科目にまとめて、一年生の間に全てを総合的に学べるのだ。

それ以降の学年では自分の専攻したいものを1〜3つ選んで更に詳しく学べる。

別段、【工業高校】みたいな括りの高校では無いのだけど、こと理系に関しては非常に力を入れて教えている。

「と言うか、今回もまーた殆ど赤点だったんでしょ〜?」

「まぁな」

夜星の質問に、また笑って応えるあいつ。

でも、私は笑えるはずもなかった。

「ちょ、ちょっと待ってよ。どうして他の教科が赤点ばかりだったって言うのに学年1位を取れるの⁉︎納得いかない!」

「いやまぁ、理科が何故か得意だからじゃ無いかな。

知らんけど」

理科が得意…確かに理屈上は可能だろう。

この高校に於いて最も特殊な事。

それは、理科のテストだけは点数の上限が設けられていない、と言う事だ。

だから、他の教科が全て0点だったとしても、理科で超絶高得点を得れば1位になれる。

「そんなのあり得ない!」

自分に言い聞かせるようにして叫んだ。

「そんな事言ったって、しょうがないじゃ無いか。

取れたものは取れたんだから、あり得るんだよ」

さも当然と言わんばかりにあいつは欠伸をしながら答える。

そうだ…科学的な見方をすればそう言える。

大昔の人は空は飛べるわけがないと考えていたけれど、現在なら何の苦もなく一般人が【飛行機】の力を借りて大空を我が物顔で往来している。

人が考え付くことは必ず実現出来る、とはよく言ったものだ。

だから、理科だけで一位を取ることも不可能ではない。

「…そう、実際にやってのけた人がいるのだからあり得ないことではないのよね。

それなら、どうやってそんなに点数を取ったの?」

一旦、深呼吸をして心を落ち着かせた私はもう一つの疑問をあいつにぶつけた。

「勉強?何それおいしいの?

っとと、普段の奴らと違うんだった。えぇと…俺は基本、勉強なんかしないぞ」

「はぁ⁉︎」

こいつ今なんて言った?

『勉強はしていない』だって⁉︎

信じられない。

だとしたら…

「だとしたら、高得点を取れるはずないでしょ⁉︎」

今度の叫びはわかった上で出した声だ。

今の所為でかは分からないが枯れ木に辛うじて残っていた枯れ葉が数枚、空を舞う。

勉強をせずに点が取れる…?そんな筈は無い。

確かに頭が良ければ学校の授業だけで点数は取れるだろう。

けど、この高校の理科に関してだけは話が変わる。

ただでさえ学ぶ範囲が多くて四苦八苦する学徒が大半だと言うのに、不遇にも今年の担当の教師は圧倒的に教えるのが下手だ。

つまるところあいつの言うような『勉強はしていない』などと言う妄言で学年1位を取れるだけの点数を理科で賄うことは不可能と言える。

と言うことは、恐らく…いや、十中八九あいつは嘘をついている。

私は、一月ひとつきも前から本腰で、特に理科に力を入れて勉強していた。

ご飯を食べている時でさえ頭の中で理論や公式、偉人の名や何を行った人なのかを反芻していた。

それもこれもひとえにあいつに勝つ為にした事だ。

なのにあいつは『勉強はしていない』と答えた。

そんなのは私のしてきた事を全てを否定するのと同じ事だ。

そう考えると腑の辺りからぐらぐらと怒りの感情が湧き上がってくる。

「やーっぱり怒った〜。だから僕は言いたくなかったんだよね〜」

校舎の壁に背を預けながら、のほほんと言ってのける夜星。

そのふわふわとした雰囲気が私の感情を逆撫でするのは当然で、ギリギリのラインで踏み止まっていた怒りが沸点を超えた。

「ふざけないで!

普通に考えてあり得ないでしょ!よくもそんな見え透いた嘘を平然と言えるわね!」

今にも殴りかかりそうな態度をとりながら怒声を張る。

「そ、そんな怒るなって。

厳密に言えば勉強をしていないわけじゃないんだ」

あいつは軽く仰け反りながらも両手で私の怒りを抑えるような動きをした。

「やっぱり!勉強をしてないって言うのは嘘だったのね!」

「まぁ待てって。

俺はアニメだのマンガだのが好きでさ、昔からよく読んでたんだ。でだ、ある日『どうすればてのひらからビームが出るかな』って考えた事があって、どうしても気になった俺はいろんなサイトや本を使って方法を調べまくったんだ。結果は【出せなくは無いけど、出したら多分死ぬ】と言う結論に至り、それ以降は気になった技なんかが出て来たら同じようにして調べて、自分なりに結論を出してた」

矢継ぎ早に語るこいつの話を、どうにか冷え始めた頭で考えてみる。

「つまり、趣味が高じて理系の分野が得意になった、ってこと?」

俯き気味にそう問い質すとあいつは、コクコク、と何度も頷いた。

「そう…そういうことなの。

わかった。色々ごめんね、教えてくれてありがとう」

「あっ、ちょ、どこ行くの綾!」

酷く小さな声で謝罪と感謝を述べ、夜星の声にも返事を返さずにその場を離れた。

ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー

「なるほど、お兄ちゃんが悪い」

「そうね、アキが悪い」

いつの間にやら江ノ華の両サイドに陣取っているサキとメリュ。

その姿は、さながら慈悲のない狩り人から子狐を守るようだ。

「いやまぁ確かに俺が悪いかもしれないけど、これって逆恨みじゃ…」

「SHUT UP!&Death」

「黙って死ねって⁉︎」

流暢な英語で俺を罵倒してくるサキ。

見下してくる目はどう見ても肉食獣のそれで、草食系ケモン族のサキがしていいものじゃない。

とまぁ、それはさておきだ。

「で、どうすれば恨みを晴らしてくれるんだ…?」

やっぱり、誰かに恨まれたままというのも居心地のいいものじゃない。

これから先がお隣さんとなるなら尚更だ。

「そうですね…そうだ!当面の間、私の晩酌に付き合ってくれませんか?」

江ノ華は頭の上に電球でも浮かべたような顔をしてそんな提案をする。

「晩酌って?」

「晩酌、簡単に言うと夜に呑む酒の事ですね」

(恐らく)人の世界に疎いメリュの疑問にサキが答えた。

(その位だったらまぁ…)

そこで一つ疑問が生まれる。

「江ノ華ってさ、付き合ってる人とかいないの?」

「(ピクッ)」

何だろう、僅かに江ノ華の眉が動いた気がする。

「ちょ、お兄ちゃん!何でそんなこと聞くの⁉︎」

汗を飛ばしながら迫るサキ。

「え?いや、もしいるんなら晩酌するのとか大丈夫なのかなと」

何故そんなにサキは焦っているのかよくわからない。

むしろその辺りを気にするのはそれなりの年齢な自分としては当然と言うか…

「(ピククッ)」

またも江ノ華の眉が動いたように見えた。

「ばっ、(いいお兄ちゃん?あの年で恥じらいもせず晩酌の相手を頼むってことは、つまり他に人が居ないって明言してるようなもんでしょう⁉︎そのくらい大人なんだから察しなさいよ!)」

「(ビククッ)」

そう耳打ちをするサキに意識を向けながらも江ノ華の方を見ると額に小さな怒りマークが浮かんでいた。

その反応から分かるように、どうやら江ノ華には他の相手が居ないようだ。

「(それに、どうせだから下の名前で呼んであげれば?喜ぶかもよ?)」

続けてされた耳打ちにどうしたものかと悩む。

確かに同級生だし、苗字で呼ぶのも変だろうか。けど、今更下の名前で呼ぶのもちょっと恥ずかしい。

うーん…

まぁ、それは後で考えればいいか。

「わかった。江ノ華が呼んでくれればいつでも晩酌の相手をするよ。一人は、寂しいもんな」

「ぶっ殺」

「んな⁉︎江ノ華、どうして襲いかかってくるんだ⁉︎」

「そりゃお兄ちゃんが悪い」

「全くね」

おかしい!提案を受け入れたのに、江ノ華が俺に殴りかかろうとするのは絶対におかしい!

アレか、下の名前で呼んで無かったからか⁉︎

部屋の中をぐるぐると逃げ回っていると、玄関の開く音が聞こえる。

『ただい…む?なんだ、やはり長引いたのか』

「そ、その声はハーキー!た、助けてくれ!殺されそうなんだ!」

『何⁉︎待っていろ、直ぐに行く!なんとか持たせろッ!』

それからハーキーがどうにか江ノ華を取り押さえるまで、リアル鬼ごっこは続いた。

…妙齢の女性って怖いなって。

はい。

今回出てきた江ノ華は今の所物語の中核に出てくる予定のキャラのはずです。

次話はサキの兄以外に敬語を使う理由について書くような気がしないでも無い。(可能な限り濁す)

そうそう、今回出てきた順位表の彼らですが、今後でてくる予定はほぼほぼ無いです。

沙良似 温団に至ってはホットも○とのCMを見ててパッと思いついた名前ですしおすし。

それではまだ次回。

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