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ペクトラ  作者: KEN
アンネ・シーベルト 第二幕 〜脱兎〜
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部品

 女はまずぎゅっと両目尻を吊り上げ憤慨を露わにしてオリーブを睨んだ。しかしその表情はきょとんとした顔のフィンへ視線を移しながら不審げなものへ変化し、最後にアンネへ向けたのは半ば呆れた困惑顔だった。


「……一先ず、貴女の洞察力がそこそこある事と、私達への警戒心のなさは認めましょう」


 肩の力を抜き、やれやれと言いたげに右耳の後ろを掻く女の態度が馬鹿にしているように見えて、アンネは少しむくれた。


「皮肉は止めて欲しいわ。けど、少なくとも此方が敵でないと分かって貰えたかしら」


 アンネの言葉に女は頷くと床に直接胡座座りをした。オリーブが慌てて敷毛布を出そうとしたが女はジェスチャーで制し、アンネにも座るよう促した。アンネは上着を一枚脱ぎ、くるくると丸めその上へ腰掛けた。


「今後の為に言っておきますが、今のようなカマかけをすべきではない。それが合っていてもいなくても、貴女の余命を縮めかねませんから」


 女は無表情で諭すように言った。女の語調に敵意は感じ取れなかった。然しアンネは女の態度にまだ不満を持っていた。


「あら、カマかけとは失礼じゃない?」


 アンネは手際良く自らのランプに火を灯した。ランプの頼りない炎では暖をとるに十分な暖かさは得られなかったが、それでもないよりは幾らかましだった。アンネは掌をランプの炎で暖めながら話し続けた。


「オリーブの発言にウィルの名前が出た時点で、二人はウィルの知り合いだと分かったわ。それにオリーブは貴女の名前を呼ぶ時、二回ともつっかえていた。だから何となくピンときたのよ。貴女自身の名前はステラではないってね」


 ランプの中で揺らめく炎と睨めっこしていたアンネの両眼が一瞬だけ女を捉えた。女は微動だにせず、アンネの話に相槌をうつ事もなく、ただ淡々と聞き流しているようだった。


「じゃあ何故わざわざ貴女は名前を偽ったか? 貴女の発言にあった『ちきゅう』という言葉……ウィルの口から聴いた覚えのあることを合わせて考えると、納得のいく理由は一つしか思いつかなかった」


 女の表情が僅かに歪んだ。自らの失言が正体を明かす決定打となった事に気付き、女は小さく唇を噛んだ。それを細目で確認しアンネは内心勝ち誇っていた。


「貴女はペクトラで、名前はオリジナルのもの。貴女自身は多分、エクストラなんじゃないかしら?」

「……惜しかったですね、私がオリジナルですよ」


 アンネが得意げな顔で出した結論に、女は小さく微笑んだ。


「私は少し特殊でして……」


 話をしながら背後の銃へ手を伸ばす女にアンネは身構えた。しかしそれは杞憂だった。女は銃と一緒に置かれていた布の切れ端で銃身全体を軽く磨くと、ごく自然に分解し始めてしまった。無骨な狙撃銃が女の細腕によってみるみる部品と化し床に並べられていくさまに、他の三人は呆然とした。


「……詳細は省きますが、私自身オリジナルの名を名乗ると色々と不都合な事態が想定されるので、呼び名は『ステラ』に統一しているんですよ。何年もそうしてきましたが、今まで会話に支障を来したことはありません」


 女は丹念に部品の細部を磨きながら語り続けた。


「私にとっては、オリジナルもエクストラもこの部品と同じです。部品が全て揃って『ステラ』になるんですよ。なので私がオリジナルだとかエクストラだとか一々気にせず、ただの『ステラ』だと認識して下さいね。まぁ、オリーブはまだ事情を知らないので仕方ないですが、私と共にいる以上は慣れて頂かないと」


 月のない夜よりも暗く深い黒色の銃身は既に磨く必要のない程輝いているように見えたが、それでも女は磨く手を止めなかった。フィンとオリーブが素直に見入っている側で、アンネは別の事を気にしていた。


(……ペクトラは考え方が独特な人ばかりだとは思ってたけど、それにしたって……)


 ランプの炎に視線を落としアンネは考え込んでいた。


(オリジナルの自分を『部品』と言い切るのも、わざわざエクストラの名で呼ばせるのも奇妙ね。余程、自分オリジナルの事が嫌いなのかしら?)


 自分の出した答えにアンネは納得出来ていなかった。

裏ペクトラ劇場


ウィル(以下W):流石に作者も四月は忙しいのな。

ミーチャ(以下D):ええ、お陰で僕らの出番がどんどん遅くなっていきます…(沈)

W:遅くなるどころか、前回の裏劇場の収録すっぽかされたぜ。

D:あぁ…あの時はもう作者が気の毒な程疲れ切ってましたねぇ…然し謝罪する僕らの立場にもなって頂きたいものですよぅ…(沈)

W:今日なんか随分沈んでね?

D:…オリーブのいない裏劇場なんて…。

W:(耳打ちで)来週は手作りクッキーを差し入れして貰うぞ。

D:本当ですか⁉︎俄然やる気出ました‼︎

W:お前が割と単純で良かったよ。

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