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ペクトラ  作者: KEN
アンネ・シーベルト 第二幕 〜脱兎〜
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小銃と少女

「フィンさん危ないっ‼︎」


 しんしんと降り続く雪の中、唐突に響き渡ったその高い声に三人ははっとした。共用語を理解出来ないフィンですら、自分の本名を呼ばれた事に気付き意識を外へ向けた。そこで初めて頭上から迫る雪塊の影と音を認識し顔を上げたフィンだったが、もう遅かった。滝壺へ落ちる水の如く迫る雪を目前に、フィンは眼を見開いたまま一歩も動けなかった。


ーードンッ‼︎

ーーズザザァァァ……


 しかし、フィンは埋まらなかった。

 尻もちをついている自分の姿と自分へ馬乗りになっているアンネの姿を視認して初めて、アンネが自分を突き飛ばしたおかげで再埋没を免れた事にフィンは気付いた。


『もうっ‼︎ また埋まりたかったの⁉︎』


 怒っているような口調ではあったが、アンネの表情は少なからず安堵を含んでいた。フィンは自らのヘタレっぷりを痛感し項垂れた。


『いや、その……ごめん』

『謝る必要なんかないでしょ、ほら』


 膝の雪を払って立ち上がり無愛想な表情で右手を差し出すアンネをフィンは眩しそうに見上げた。アンネの立ち姿に微かに感じた既視感は、自らの不甲斐なさに恥じ入っていたせいで霧散した。


『……ありがとう』


 弱々しい声と共に差し出されたフィンの右手を掴んで立ち上がらせ、フィンが大した怪我をしていない事を確認するとアンネは女の方へ向き直った。


「今の声、お連れさんね?」


 アンネの質問に女が苦々しげに顔を歪めたのをアンネは見逃さなかった。図星だったようだ。大方近くの茂みに身を隠しているのだろう。アンネは顔を動かさずに視線を周囲へ巡らせた。


「……随分幼い印象の声だけど、なぜ彼の名を知ってるのか、教えて貰えないかしら?」


 アンネの視線が女を捉えた時、女の後方からごそごそと動く音がした。女は狼狽を隠せずに振り返った。


「ちょっと、合図するまで出てきちゃ駄目だって言……」


 茂みから現れた少女は女の言葉を遮った。


「その人はウィルお兄さんの友達です。連れの女性もフィンさんを助けました。お二人は私達の敵じゃありませんよ」


 少女の声に聞き覚えのあったフィンはアンネの後ろから首を伸ばすように少女の姿を確認し、そして驚きの声を上げた。


『……オリーブ‼︎』


 名前を呼ばれた少女は可愛らしく微笑んだ。


「知り合いなのですね?」


 銃口をアンネへ向けたまま、女はオリーブの顔を見据えて言った。その厳格な声にオリーブは一瞬怯え顔を見せたが、直ぐに唇をきゅっと結び、ぎこちないながらもはっきりと答えた。


「えっと、正確にはフィンさんだけ、です……。女性の方はちょっと……」


 オリーブの答えに女は不満そうに眉を寄せたが、フィンとアンネへちらりと視線を移し、大きく長い吐息を漏らすと同時に銃口を下ろした。女の警戒が少しだけ緩んだ事がわかり、アンネとフィンはそっと目配せし合い安堵した。


「……まぁ良いでしょう」


 手際よく銃の安全装置セーフティロックをかけた後、スリングを右肩に掛け銃を背負ったところで、女は二人へ向き直って言った。


「一応言っておきますけど。さっきバイクの前輪を撃ったのはこの子です」

(……あの女の子が⁉︎)


 女の言葉にアンネは心底驚いていた。バイクが狙撃を受けた事、狙撃手が相当の腕前の持ち主である事は予想出来ていたが、その正体がまさか眼前のあどけない顔の少女だとは思いもしなかった。よく見ると、恥ずかしそうに微笑む少女の手には重厚感溢れる小銃が握られていた。


「彼女の持っている銃の射程距離はせいぜい500m程度。その銃で800m以上先を走るバイクの前輪へほぼ狙い通り当てました。勿論肉眼です。この意味は、分かりますね?」


 女の眼は鋭かった。女とアンネの睨み合いに感化されるかのように風雪は勢いを増していった。しばれゆく空気が頬を刺すのも構わず、アンネは皮肉っぽく笑って言った。


「その子がパンクさせてくれたお陰で、私達は雪まみれになる程度で済んだって言いたいわけね 」

「……そうではありません」


 女は苛立たしげに否定した。眉間に皺を寄せたのが覆面越しにもよく分かった。明らかに気分を害された様子の女にフィンは気が気ではなかった。


「この子や私が引き金を引かねばならない事態になった場合、貴女方の安全は保証しかねる。貴女方が理解すべきはその一点のみです」


 女の声は淡々としていたが、苛立ちを拭いきれてはいなかった。この僅かの会話の中で、女とアンネは互いを相容れない種類の人間だと認識していた。


「……本当に腹の立つ言い方」


 諦めたようにふうと溜息をつくと、アンネは今度は所在無げに縮こまっていたオリーブの方へにこやかな顔を向けた。


「でも、命を助けて貰ったのは事実だし、そこは感謝してるわ、実際」


 ざくざくと雪を踏みしめてオリーブに歩み寄り、アンネは手袋を外して右手を差し出した。


「良い腕をしてるわね。ありがとう、オリーブ……と呼んで良いかしら?」

「は、はい」


 オリーブは小銃を左腕で抱えるように持ち直し、空けた右手をおずおずと差し出した。その手をアンネはしっかと握って言った。


「私はアンネ。アンと呼んで頂戴」

「えと、その…わ、私の方こそ、宜しくお願いします‼︎」


 オリーブは頬を赤らめ、軽く会釈した。

裏ペクトラ劇場:番外編〜pale


ウィル(以下W)&ミーチャ(以下D):「「えええぇぇぇぇぇ⁉︎」」

オリーブ(以下O):あ、あの…朝早くからどうしました?

W:お、お前…俺達に先駆けて出番が…‼︎

D:…もしや、僕と同じく、主役の座を狙っているのでは…⁉︎

W:オリーブ…お前って奴は…‼︎

D:おそろしい子!(白目蒼白)

W:いやそれ、元ネタは蒼白じゃないらしいぜ?

D:えっ‼︎本当ですか⁉︎

O:…あの…?

W:本当だよっ。ガ○スの仮○見直して来い。

D:調べてきます‼︎(退室。)

W:…ふっ、ライバルを一人蹴落としたぜ…。(微笑)

O:…えっと…ウィルお兄さん?

W:…あとはオリーブを牽制しとけば主役の座は安泰…(ゲス顔)

O:…もしもーし?

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