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ペクトラ  作者: KEN
アンネ・シーベルト 第二幕 〜脱兎〜
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手掛かり 〜side Will

 診療所でのウィルの一日は退屈そのものだった。

 ベッド上安静を強いられ食事と睡眠以外に出来ることのないウィルにとって、見舞いに来てくれるミーチャとの会話が唯一の気晴らしになっていた。


「例の奴らの事、何か分かったか?」


 ウィルの挨拶代わりの質問に、病室のカーテンを開けながらミーチャは力なく首を横に振った。


「出来る限りやったつもりなんですけど……さっぱりです」


 窓の外から差し込む日光にウィルは眼を瞬かせた。室内生活を強いられたウィルの身体にとって、陽の光は自由の象徴の一つと言えた。いつもと変わらず降り注ぐ光に憧れを抱く自分を発見し、ウィルは一瞬だけ奇妙な気持ちになったが、それ以上は気に留めなかった。


「参ったねこりゃ。敵の事が分かれば反撃のしようもあるかと思ったんだが」


 ミーチャは大袈裟に溜め息をつくウィルの傍らへ腰かけながら苦笑した。


「そっちは引き続き調査しますから、少し時間を下さい。それよりも……」


 窓の外へ視線を移し、ミーチャは考え込むように俯いた。


「僕達、早めにフィンさん達の行き先を探さないといけないんじゃないでしょうか?」

「それなら多分大丈夫だよ」


 予想外に気楽な返答をするウィルへミーチャはムッとしながら食いついた。


「何故そう言えるんです? 先生からは何も手掛かりを貰ってないんですよ?」

「……彼奴ジークからは、な」


 ウィルはにやりと笑い、ベッドの下からすっかり汚れた紙袋を取り出した。その紙袋にミーチャは見覚えがあった。


「それ、地下トンネルで抱えてたやつですよね?」


 ミーチャの言葉にウィルは頷く。


「ああ。アンネの置き土産だ」


 ウィルは紙袋を開いてミーチャへ見せた。その中身をミーチャは手に取り確認した。


「随分厚手の服ですね。それとニット帽に手袋、イヤーマフまであるじゃないですか」


 ミーチャが袋の中身を全て出した後、ウィルはミーチャの顔を上目遣いで見上げながら言った。


「何故アンネは、これをわざわざ置いて行ったと思う?」


 ミーチャは俯き気味に腕組みをし、自らの顎に曲げた人差し指の関節をゆっくり数回当てながら考え込んだ。彼が答えを導き出すまでにそう時間はかからなかった。


「次の目的地で使え、という意味ですね?」


 自身へ向けられたミーチャの視線を真っ向から受け止め、ウィルはベッド上で胡座座りになり力強く頷いた。


「恐らくな。アンネがこんな準備をしたって事を考えれば、行き先は自ずと絞られる筈だ。」


 ミーチャは一度唇をきゅっと締め、腕組みを解くと言った。


「十分防寒服を揃える必要がある位寒い地域で、恐らくはアンネさんに何らかの所縁がある地域、といったところでしょうか?」

「そういう事」


 ミーチャの言葉にウィルの眼が光った。


「流石ミーシャ。じゃ、後は調べられるよな? お前に任せたわ」


 重要な調べ物を丸投げで任された事に気付いたミーチャは、苦笑いを浮かべるしかなかった。

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