二人の見た夢
「「うわぁっ⁉︎」」
隣同士のベッドで眠っていたウィルとミーチャは、同時に叫んで飛び起きた。二人は暗い部屋の中で黙って真っ青な顔を見合わせた。
「今……首を捻じ切られる夢を見た……」
額にじっとりと汗を滲ませながら首に手をやるウィルにミーチャは瞠目した。
「ウィルもですか?」
「……お前もか? ミーシャ」
「はい……夢にしては、すごくリアルでした」
ウィルはミーチャの顔を見た後、くるりと周りを見回した。そして自分の居る場所に見覚えがない事に気がついた。
「……そう言えば、此処は?」
「知り合いの診療所です。大丈夫、信用出来る場所ですよ。近くに此処がある事に気付いて良かったです」
「どうして俺達は此処に居るんだ?」
立て続けに繰り出されるウィルの質問に、ミーチャは困ったように頬を人差し指でかいた。
「えーと、何処から話せばいいでしょう……?」
ウィルはこめかみに指を当てて目を閉じ、天井を見上げながら自分の記憶を辿った。
「トンネル内の出来事はさっぱり分からんが、リリィがアイザックを半殺しにしようとしてたのは覚えてる」
「あぁ、そうですね。アイザックとの戦いに決着をつけた後、リリィはウィルの身体で僕を此処まで運んでくれたんです」
ミーチャの話によると、副作用でまともに歩けなくなったミーチャに肩を貸し、リリィは足を引きずりながらトンネル内を移動し地上へ脱出した後、ミーチャの記憶を頼りにこの病院へ辿り着いたとの事だった。
「その後、リリィはアイザックと共に人形を動かし、先生を救出に行ったんですよ」
「そうだったのか……」
リリィが何故ジークの造った人形を動かせるのかが疑問ではあったが、現状把握をウィルは優先させる事にした。思考をまとめようと腕組みしたウィルの右腕に激痛が走り、ウィルは蹲るようにベッドへ倒れ込んだ。
「くそ、全身痛てぇ……」
苦痛に顔を歪めるウィルを気遣うようにミーチャは顔を覗き込んだ。
「鎮痛薬が切れたんですね。看護師さんを……」
ナースコールに手を伸ばすミーチャをウィルは左手で制した。
「待て待て。それよりさっきの夢だ」
左腕で掴んだベッド柵を支えにして右手を庇いながら起き上がり直し、ウィルは顔を上げた。
「……十中八九、彼奴らに何かあったとみるべきだ。早く、助けに行かないと……‼︎」
「ちょ、そんな身体じゃ動けませんって‼︎」
ミーチャはおろおろしながらもウィルを押し留めようとした。その時、ミーチャの頭の中で声が響いた。
〈……戻った〉
「アイザック‼︎」
ミーチャは慌ててベッド脇のスタンドミラーを引っ掴んだ。
「良かった! 全然戻ってこないから心配したじゃないですか‼︎」
鏡を覗くミーチャの眼に涙が滲む。それをウィルは少し複雑そうに見つめた。少なくとも自分の中にリリィが戻ってきた感じはしていなかった。その意味を知ることにウィルは少しだけ怖れを感じた。
〈……ベッドに横になってから、俺と交替してくれ〉
重々しいアイザックの声に切迫した空気を感じ取ったミーチャは珍しく素直に頷いた。
「分かりました」
鏡を枕の横に置き、ミーチャはベッドに横になった。
「……すまないウィル、しくじった」
開口一番そう呟くアイザックにウィルは一瞬目を泳がせた。
「……リリィは、どうした?」
腹から声を振り絞り、ウィルはそれだけ口にした。アイザックは疲労困憊の表情を浮かべ目を閉じた。
「……結論から言えば、俺にも分からない」
静かに発せられるアイザックの声が病室に重く広がった。
「俺達は先生の造った人形を動かして先生の元へ向かった。初めはリリィが自分の身体で行くつもりだったんだが、お前の身体もミーチャの身体も手当てが必要な状態だったし、リリィ一人ではあの人形は動かせなかった。だから俺の意識の一部を貸したんだ」
「意識の一部を貸す……?」
理解し辛い言葉を反芻するウィルへアイザックは説明を補足した。
「俺にもきちんとした理屈は分からないんだが、エクストラ同士ならば意識の分離や分離した意識の共有が可能らしい。あまり無闇にやるもんじゃないみたいだけどな」
「意識の共有……」
聞き覚えのある言葉だった。ウィルの脳裏に桜舞う丘の風景が蘇った。だがそれをウィルは無理矢理頭の片隅へ押しやった。今はリリィの状況把握が最優先だ。
「とにかく、分離した俺の意識体と共に、リリィは先生の元へ向かった。だが遅かったようだ。先生を助けようとしたリリィの喉を敵の矢が貫き、それで首を……」
アイザックは唇を噛んだ。責任感の強い性格からして、自分の無力さを責めているのだろう。
「俺は意識の断片しか人形に置いていなかったからか、意識の核はこの通り無事だった。身体を動かす為の意識体は駄目になってしまったから、今の俺がこの身体を動かすのは不可能だけどな」
アイザックは苦々しげに呟いた。わざわざ横になってからミーシャと交替したのはそういう訳だったのか。ではリリィの存在自体は? ウィルは震え声で尋ねた。
「アイザック、お前の意識体の一部が戻っていないということは、リリィは……その『意識の核』ごと消えたのか⁉︎」
ウィルの言葉にアイザックは閉眼したまま暫く黙っていたが、細く長く息を吐き出し、ゆっくり眼を開けながら一言、噛みしめるように言った。
「分からない」
その言葉が裏付けなく無責任な発言をしないアイザックの性格によるものなのか、ウィルを絶望へ突き落とさないようにとの配慮だったのか、その時のウィルには判断しかねた。恐らくは両方だったのだろう。ウィルは何も言わず俯いた。肩を落とし眼を閉じるウィルを横目に、アイザックは慎重に言葉を選ぶように話しかけた。
「……ただ、俺の感じたものが正しいのならば、リリィの意識は四散し何処かを漂っているような気がする」
ウィルはアイザックの言葉には答えなかった。代わりに閉眼したまま、はっきりした声でウィルは質問を投げかけた。
「ジークはどうなった?」
ウィルの声から動揺が消えた事に少しばかり面食らいながらも、アイザックは精一杯記憶を手繰った。
「……首を撥ねられる直前、一瞬リリィと意識がリンクした。そこで見えたのは、瓦礫に埋もれた先生の姿と敵一人。その後の事は分からないが……」
ジークの状況を冷静に判断すれば明らかに絶望的だった。しかし二人は敢えてその言葉を口にはしなかった。
「……そうか」
ウィルは呟くとゆっくり両眼を開けた。
裏ペクトラ劇場(※本編とは無関係の茶番劇です。)
フィン(以下F):「…ウィル、俺とアンネの出番はまだかな?」
ウィル(以下W):「もう少し待ってくれ。」
アンネ(以下A):「もう待ちくたびれたぁ‼︎出番まだなら、一度家に帰っていいでしょ⁉︎」
W:「いやお前ら、この後バイクアクションして貰うからまだ待機。」
A:「もぉー‼︎さっさと本編進めなさいよねっ‼︎出番待ってるこっちの身にもなってよぅ‼︎」
F:「…俺もそろそろ、本編の伏線を回収していきたいんだけど…(汗)」
W:「安心しろ、作者が他にも伏線ばら撒き過ぎて回収が追いついてないから。」
リリィ:「伏線回収どころか、挿入話も終わってないじゃないの。」
A:「それ進めさせようとしたら本編止まるから‼︎シーッ‼︎」
〜半年以上経過〜
作者:「やっとこ挿入話書いたぜー‼︎…ってあれ?」
W:「あ、お疲れっすー。皆ならもう最新話の準備に行きましたよ?」
作者:「…(涙目)。」




