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ペクトラ  作者: KEN
ジーク•ウルド 第二幕 〜欺瞞〜
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化かし合い

「……で、俺を足止めしとかないとドカンだって、脅されたわけか」


 ダイナマイトを繋ぐ紐を切り終え、床に爆弾が落ちると同時に、ウィルの盛大な溜息が暗がりに消えた。


「ったく、状況把握の為にとことん付き合ってやろうとしたら、そんな話を聞かされるとはね」


ーーぴたり。


 突如、アイザックの喉元に鋭利な刃が当てられる。直ぐに喉を掻っ切るとでも言わんばかりに、全開にされたハサミの刃がきらりと光った。


「何の真似だ?」


 眉ひとつ動かさないアイザックの耳元へ、背後の少年は唇を近づけ囁いた。


「こっちの台詞。私の大事な時間を使わせた挙句、嘘だらけの茶番説明なんかされて、私が納得すると思う?」


 無表情だったアイザックの眼が、その突然変わった声色に驚くかのように一瞬見開かれ、そして静かに閉じられた。


「リリィか。始めからウィルと交替してた……ってわけか」


 ハサミを動かさず、リリィはゆっくりと立ち上がった。


「ええ、私の方が少しだけ速く走れるからね。話し方も声も、そっくりだったでしょう?」

「あぁ、今まで本当に気づかなかったよ」


 閉眼し軽く俯くアイザックの後頭部を左手で鷲掴みにし、リリィは緩やかに掌に力を入れ始めた。


「そんな事より、本物は何処?」


 閉眼していたアイザックは薄目を開け、背後のリリィをちらりと見た。


「何の話だ?」

「しらばっくれるなら、私のビッグバン級のイライラがこの子の頭を吹っ飛ばすまでよ? アイザック‼︎」


 リリィはぎりりと奥歯を噛みしめ、はさみをアイザックの首元へ強く押し当てながらクレッシェンドのかかった怒声をあげた。リリィの怒りに満ちた声がトンネル内の配管や配線を震わせた。カタカタという軽い振動音と微かな金属音の後、トンネル内はしんと静まり返った。

 ほうと一息つき、リリィは周囲の気配に変化がない事を確認すると静かに呟いた。


「……いいのね? 貴方の大事なヒトの頭が、千切れて粉々に潰れても」


 首元へ押し当てた刃と左手の掌に力を込めようとしたその時。


「やめろリリィ‼︎」


 暗がりからの声は、リリィの予想通りの人間のものだった。

 暗がりからおずおずと現れた眼鏡の少年へ、リリィは親の仇でも見るかの様な憎悪に満ちた視線を向けた。


「……今度は本物のようね、アイザック。人形遊びなんていい趣味してるわ」


 にこりともせず皮肉るリリィの言い方にムッとしながらも、アイザックは丸腰をアピールするかのように両手を上げてリリィへと歩み寄ろうとした。しかしリリィからの敵意剥き出しの視線に阻まれ、仕方なくその場に立ち尽くした。


「……確かに、いい趣味してるかもな」


 眼前の暗闇から現れたアイザックは嘲笑ともとれる笑みを浮かべてぼそりと呟くと、眼鏡をくいと上げ直した。


「言っておくが、さっきの話はほぼ事実だ。爆弾を括り付けられていた訳ではなく、爆弾を括り付けられた自分そっくりのヒトを紹介されたってだけ。俺だって今日まで知らなかった、自分そっくりの人間を造られているなんて」


 アイザックの言い訳がましい態度にリリィは更に逆上する。


「見え透いた嘘は止めなさい‼︎ さっきまでこの可哀想な人形を操っていたでしょうが‼︎」


 リリィのハサミと左掌に同時に力がかかるのが分かり、慌てたアイザックはリリィを押しとどめようとするかのように両手を前へ広げた。


「落ち着けって。君が昔教えてくれた知識があったからね。ぶっつけ本番でここまで出来るとは正直思わなかったよ」


 ずれた眼鏡を微調整し、アイザックは頬を僅かに紅潮させながら続ける。


「先生も喜んで下さるだろう。先生の仮説が証明された事になるんだから」

「『ある一定の条件下において、エクストラは外部の人間の意思、行動を操作出来る』なんて馬鹿げた仮説の事?」


少しだけ誇らしげなアイザックに、リリィは酷く冷ややかな怒声を向けた。


「言っておくわ。ジークも貴方も、何も分かってない。そんな仮説は正しくないし、正しくあるべきじゃないっ‼︎」


 リリィが叫んだ刹那。

 頭を押さえつけていたリリィの左手が空をかき、同時に両手首を握られたかと思う間も無く、リリィの身体は軽やかに宙に舞う。


 信じがたい事に、今までリリィが頭を押さえつけていた少年の手で、リリィは一本背負い投げ、いや、寧ろ鰹の一本釣りの様に清々しく投げ飛ばされていた。


ーードォォォォン‼︎

 リリィの背中と両足がコンクリートの地面へ叩きつけられ、その振動がトンネル内に鈍く反響した。


「これでも正しくないって言い張るかい?」


 両腕を拘束したままリリィを見下ろす少年は、ゆっくりと立ち上がり堅い微笑みを浮かべて言った。

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