能力(一)
「あんたも含め他のペクトラに会ったことはあるが、一括りにするには違和感が拭えない。その辺りの事を教えてほしい」
ミーチャと揃ってソファに行儀よく腰掛け、ウィルは一息で言い切った。
「違和感か。どんな?」
対して答えるテレサはというと、ネクタイを崩し、向かいの椅子で頬杖をついていた。不遜な態度に、ウィルはもう反発を示しはしなかった。
「おかしな能力だって思う奴と、普通な奴がいるっていうか……うまく言えないな。ミーシャはどうだ?」
発音への指摘は一時保留し、ミーチャも頷いた。
「僕も似た事を考えていました。人間業じゃないなーって思う能力持ちと、頑張れば出来るって思えるレベルの能力持ち。この二種類は少なくとも存在するんじゃないかと」
「そう、そういう事」
頷きあう二人の言葉に、テレサは腕を組み唸った。二分ほどの逡巡の間、テレサの眉間には小さく皺が寄っていた。しかしそれも終わると、テレサの表情は諦めの混じったものになっていた。
「そこに気づいているなら、話そうか」
*
テレサの希望により、新たに紅茶が並べられた。淹れてきたのは勿論ミーチャである。テレサはスティックシュガーを三本一気に入れ、くるくるりとかき混ぜた。
「お前達がペクトラの能力と考えているものは、大別して二種類ある。それは確かだ。厳密に言えば、片方はただのおまけだけどね」
アールグレイの独特な香りが三人を包む。
いよいよ核心に迫れるのかと、ミーチャは高揚する気持ちを抑え切れずにいた。一方のウィルはと言うと、それ程興味深いという顔ではなかった。だがその眼は闇の中で佇む一等星の如く、小さく強い光を宿していた。
「今更かもしれないが、ペクトラはそもそも、魂の記憶を重ね、何度も生と死を繰り返す性質を持つ生命なんだ」
テレサは淡々と語った。そこに余計な感情は全くなかった。
その情報はミーチャにとって既知――いや、変だ。付加された情報が変だ。
生まれ変わりなのは聞いていたが、何度も生と死を繰り返す? そんな事、アイザックは言ってたっけ?
奇妙で不安な動揺を紛らわせようと、ウィルを見る。ウィルは驚いてはいなかった。何だそんな事か、とでも言いたげな眼は、光すら揺らめかぬ不動。
(何故だ? リリィから聞いていた? いや……)
突然、ミーチャの背筋に怖気が走った。ウィルの反応はおかしい。驚いていない事が、じゃない。その眼に映っているものを見ていないと言いたげな眼が、だ。
怖気は数秒で消えた。もう一度、そっとウィルの顔を伺う。気だるげだが、ちゃんとテレサを見ていた。そこにいるのはいつも通りのウィルだ。テレサは感じただろうか、今の怖気を。
(何だったんだろう、今のは)
動悸は治まらなかった。ウィルのあんな眼を見たのは初めてだった。
(いや、僕の考えすぎですよね、きっと。気にしない、気にしない……)
空元気で不安をごまかし、ミーチャはテレサに尋ねる事にした。
「死ぬ前の記憶を完全に保持した生まれ変わりって事、ですか? でも僕は、産まれる前のことなんて覚えてないんですが」
「完全に記憶を保持できるのは、エクストラの機能みたいなもの。だからオリジナルは普通、過去の記憶は少ししか覚えてないものなのさ」
値踏みするかのように二人の顔を見比べ、テレサは答えた。
「お前達が『普通の能力』ととらえているものは、この潜在的な記憶が元になっているわけだね。だから人間が実現可能な範囲に留まっている。だが、本来なら一生かけて培うものなのだから、異能と呼ぶには十分だ」
「ああ、俺達は確かに、そういう意味で普通のペクトラだな」
ウィルは不満そうに頷いた。ウィルは特別なペクトラを羨んでいるのだろうか。少し違う気がする。何故かはわからないが、ミーチャにはそう思えた。
「そしてもう一つの方はちとややこしいんだが、魂の記憶蓄積とは別に、エクストラがおかしな能力を持っている事がある。私の『目』がこれだ」
右側のこめかみを指で叩き、テレサは言った。




