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ペクトラ  作者: KEN
断章 本部へ 〜迂回〜
122/131

能力(一)

「あんたも含め他のペクトラに会ったことはあるが、一括りにするには違和感が拭えない。その辺りの事を教えてほしい」


 ミーチャと揃ってソファに行儀よく腰掛け、ウィルは一息で言い切った。


「違和感か。どんな?」


 対して答えるテレサはというと、ネクタイを崩し、向かいの椅子で頬杖をついていた。不遜な態度に、ウィルはもう反発を示しはしなかった。


「おかしな能力だって思う奴と、普通な奴がいるっていうか……うまく言えないな。ミーシャはどうだ?」


 発音への指摘は一時保留し、ミーチャも頷いた。


「僕も似た事を考えていました。人間業じゃないなーって思う能力持ちと、頑張れば出来るって思えるレベルの能力持ち。この二種類は少なくとも存在するんじゃないかと」

「そう、そういう事」


 頷きあう二人の言葉に、テレサは腕を組み唸った。二分ほどの逡巡の間、テレサの眉間には小さく皺が寄っていた。しかしそれも終わると、テレサの表情は諦めの混じったものになっていた。


「そこに気づいているなら、話そうか」


 *


 テレサの希望により、新たに紅茶が並べられた。淹れてきたのは勿論ミーチャである。テレサはスティックシュガーを三本一気に入れ、くるくるりとかき混ぜた。


「お前達がペクトラの能力と考えているものは、大別して二種類ある。それは確かだ。厳密に言えば、片方はただのおまけだけどね」


 アールグレイの独特な香りが三人を包む。

 いよいよ核心に迫れるのかと、ミーチャは高揚する気持ちを抑え切れずにいた。一方のウィルはと言うと、それ程興味深いという顔ではなかった。だがその眼は闇の中で佇む一等星の如く、小さく強い光を宿していた。


「今更かもしれないが、ペクトラはそもそも、魂の記憶を重ね、何度も生と死を繰り返す性質を持つ生命なんだ」


 テレサは淡々と語った。そこに余計な感情は全くなかった。

 その情報はミーチャにとって既知――いや、変だ。付加された情報が変だ。

 生まれ変わりなのは聞いていたが、何度も生と死を繰り返す? そんな事、アイザックは言ってたっけ?


 奇妙で不安な動揺を紛らわせようと、ウィルを見る。ウィルは驚いてはいなかった。何だそんな事か、とでも言いたげな眼は、光すら揺らめかぬ不動。


(何故だ? リリィから聞いていた? いや……)


 突然、ミーチャの背筋に怖気が走った。ウィルの反応はおかしい。驚いていない事が、じゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()と言いたげな眼が、だ。


 怖気は数秒で消えた。もう一度、そっとウィルの顔を伺う。気だるげだが、ちゃんとテレサを見ていた。そこにいるのはいつも通りのウィルだ。テレサは感じただろうか、今の怖気を。


(何だったんだろう、今のは)


 動悸は治まらなかった。ウィルのあんな眼を見たのは初めてだった。


(いや、僕の考えすぎですよね、きっと。気にしない、気にしない……)


 空元気で不安をごまかし、ミーチャはテレサに尋ねる事にした。


「死ぬ前の記憶を完全に保持した生まれ変わりって事、ですか? でも僕は、産まれる前のことなんて覚えてないんですが」

「完全に記憶を保持できるのは、エクストラの機能みたいなもの。だからオリジナルは普通、過去の記憶は少ししか覚えてないものなのさ」


 値踏みするかのように二人の顔を見比べ、テレサは答えた。


「お前達が『普通の能力』ととらえているものは、この潜在的な記憶が元になっているわけだね。だから人間が実現可能な範囲に留まっている。だが、本来なら一生かけて培うものなのだから、異能と呼ぶには十分だ」

「ああ、俺達は確かに、そういう意味で普通のペクトラだな」


 ウィルは不満そうに頷いた。ウィルは特別なペクトラを羨んでいるのだろうか。少し違う気がする。何故かはわからないが、ミーチャにはそう思えた。


「そしてもう一つの方はちとややこしいんだが、魂の記憶蓄積とは別に、エクストラがおかしな能力を持っている事がある。私の『目』がこれだ」


 右側のこめかみを指で叩き、テレサは言った。

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