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ペクトラ  作者: KEN
メアリー・シーベルト 〜婀娜〜
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女達の談議

 アンネの家へ着くと、アンネとステラはオリーブをメアリーのお古のパジャマに着替えさせ、ベッドに寝かせた。幸い高熱を出している様子はなかったが、体力を消耗しきっていたオリーブは毛布の中で直ぐに寝息を立て始めた。


「本当に助かりました、ベッドや寝間着まで貸して頂き、ありがとうございます。アンネさん、メアリーさん」


 居間に戻り椅子に座るとステラは深々と二人へと頭を下げた。それを見てソファにだらしなく座っていたメアリーは慌てて居住まいを正した。


「私のことは呼び捨てでいいよ、ステラさん。多分私がこの中で一番年下だから」


 メアリーの言葉にステラは小さく首を傾げた。


「失礼ですが、貴女は何歳ですか? メアリーさん」

「私? 今年で十八だけど」

「ならば私と同い年ですよ」


 ステラの言葉に三拍程おいて。


「「ふぁっっっ⁉︎」」


 二人は声を合わせて叫んだ。メアリーは勿論、アンネすら自分より年上だと思っていたのだ。二人は咄嗟にステラへ背を向け声をひそめた。


「ね、姉ちゃん、私、てっきり二十代後半このくらいかと……」

「私もそう思ってたわよ、随分とその……うん、大人びた雰囲気だから……」


 老けている、という表現はステラの凛々しい姿には合わなかった。だが二人より年上に見えるというのも事実だった。「大人びた」という表現はその複雑な心情の現れだった。


「あぁ、気にしてませんので安心してください。同年代からは必ず年上に見られますので、慣れてます」


 ステラは屈託のない笑顔で答えた。二人は恐る恐る振り返り、ステラが銃を構えていないのを確認してからほっと胸を撫で下ろした。


「とはいえ、同年代と知り合うことが殆どないので、こういう機会自体が少ないんですけど」


 笑顔のままぼそりと付け足された抑揚のない言葉に、二人は声を出さずアイコンタクトで会話した。


(気にしてる!! あれ絶対気にしてるって!!)

(そんな事言われても、もう後の祭りでしょ!?)

(話題転換して誤魔化そう!)


 メアリーはすぐに提案を実行へと移した。こういう時はメアリーの行動力が重宝する。


「そ、そうだステラさん! この街には何の為に来ていたの!?」

「そ、そうそう! 何だっけ? 人を探してるって言ってたっけ!?」


 アンネもわたわたしながら相槌を打った。二人の態度は不審感丸出しではあったが、ステラはそれを気にする様子もなく、真面目な表情になった。


「……はい。人探しの為にまずは潜伏先を確保し、そののち情報収集しようと思っていました」


 無事話題転換できて少しだけ緊張が解れたメアリーは、いつもの人懐っこさ溢れる笑顔で身を乗り出した。


「良ければ手伝うよ? さっきも言ったけれど、今はよそ者ってだけで白い目で見られちゃう雰囲気が特に強いから、ただ聞き回るだけなら私達がやった方が効率良いかも。どんな特徴の人?」

「……説明が出来ません」


 ステラの答えは彼女らしく簡潔なものだった。しかしその返答自体はこの案件の面倒さを匂わせた。不穏な空気が三人の間に広がった。アンネは座ったままテーブルの下の脚を組み直し、考えこむように腕組みした。メアリーはソファの上で胡座座りに座り直した。


「外観の特徴は全く分からないのです。分かっているのは、その人が凄まじい力を持っているという事だけ。本気で発動すればおそらく、この街一つなど容易く消せるような力です」

「……そんな人間が、本当にこの街に?」


 黙って聞いていたアンネは、そこでようやくへの字になっていた口を開いた。ステラはアンネの顔を見て小さく頷いた。


「はい、この街の何処かにいる筈です」

「どうやって探すつもりだったわけ? 見た目も分からないのに」

「私がこの街にいれば力の発動は分かる筈です。勿論ただ待つだけでは時間がかかりすぎますので、各家の床下や天井裏に潜み、地道に情報収集しようと思っていました」


 ステラの「特殊部隊的な」返答に、アンネはこめかみに手をあて顔をしかめた。


「まず情報を得る手段が盗聴というのは、いかがなものかと……。それに、毎回埃だらけになって探すのも不衛生だし非効率的よ。あと、この家は比較的新しいからダクトは広めだけど、他は古い家が多くてダクトも狭い筈だから、少なくともダクト移動は止めといた方が良いでしょうね」

「そうですか。しかしメアリーさんの話を聞く限り、私達が街の中をうろつくのは目立ちすぎてまずいように思います。それならば身を隠して調べるしかありません」

「けどね、万が一家の人に見つかったら酷い目に遭うと思うわ。やはり無理があるんじゃ…」


 アンネとステラの議論は長引くように思われた。だが。


「あ、そんな事しなくても、情報収集する方法ならあったわ」


 突然メアリーが発した明るい声に、アンネもステラもきょとんとしてメアリーの顔をまじまじと見つめた。二人に意図が伝わっていない事に気がつくと、メアリーは可愛くウインクして付け足した。


「酒臭さと男臭さに目を瞑れるなら、の話だけどね」

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