序
初めての投稿です。見苦しい部分も多々ありますが、よろしくお願いします。とにかく最後まで書けるよう頑張りたいです。
少年は満天の星空を見上げた。
重い瞼を僅かに開け、何処にともなく呟く。
「ごめんな、リリィ」
〈……私、諦めないから。どこまでもね〉
凛とした声が響く。
そして崩壊寸前の世界は、赤い黒と青い白に包まれた。
*
〈今日は珍しく、能力を有意義に使えたわね〉
(この世界じゃ殆ど意味ないからな。仕方ないけど)
頭の中で響く声へぼやき返し、ウィルは馴染みの街を歩く。
今日の仕事は通訳だった。通訳が唯一の特技である彼にとって、今日の仕事は非常にラッキーだった。
閉鎖的すぎて、国どころか惑星という概念すら希薄になった世界。そんな中で、通訳業はなかなか発生しない。それでも彼が暮らしていけるのは、彼が割と器用であることと、この世界の豊かさゆえのことだろう。
惑星ギガは、尽きることのない豊富な資源に恵まれていた。戦争、紛争、内乱などの諍いもなく、「生者生きるべし」の大前提のもと、生きている者を優先にした理想を突き詰めたこの世界。それをある人は「理想郷」と呼び、ある人は「清澄地」と呼んだ。
ただ、この世界には奇妙な謎があった。いつから人間が存在していたのか。それを示す資料が何一つなかったのだ。それなりの文明を繁栄させていたにも関わらず、である。
素直に生命の進化の結果だと考える者もいれば、他惑星からの移住民が繁栄に尽力したのだと主張する者もいた。しかし誰一人、その真実を語れるものはいなかった。そして、命をかけて明らかにしようとする人間もいなかった。皆、今の生活が満ち足りていることに納得してしまっていたのだ。
そういう類の人々は、争い事に慣れていないものだ。街中に人だかりが出来ていれば、大体それは些事からの口喧嘩が元だった。ウィルが遭遇した人だかりも、そんな感じだった。
ウィルにとっては本来どうでも良い、つまらないものでしかなかった。しかし、それが自分の通行を妨げるならば、話は別だ。今日の収入で好物を買いに青果店へやってきたウィルは、その店先に群がる人だかりに閉口した。
中心からはゴロツキらしい男達の野太い声が聴こえた。騒つく人々を遠巻きに眺め、ウィルは内心毒吐いた。
(どうせ商売人の言い争いだろ? どこだって血の気の多い業界だからな。そこまで珍しくもないっての……)
ただでさえ仕事明けで疲れてる時に、面倒事には関わりたくない。それがウィルの本音だった。だが好物を買わずに帰るのは何だか癪に障った。とにかく状況を把握するべく、ウィルは足早に人だかりに駆け寄った。