平安貴族とオレ2
グダクダな研究室。勉強してる奴、本読んでる、飯食ってる奴、寝てる奴。
研究室とはいっても、学生の溜り場みたいなもの。テーブルの隅には、カップ麺の空容器が転がっている。
「少しくらい、片付けろってーの」
手近な所を片付けて、自分のスペースは確保する。
俺は今、貴族の日記を読んでいる。
なかなか、細かく記録していて、面白い。
『今日は、阿弥陀修正会だった』
そんな記述が出て来る。
もちろん、もとは漢文。
ああ、法成寺か。まったく、運営の記録を残すのも、大変だよな。
なんてことを思いつつ、この日記を残した貴族の、人格について、想いを馳せる。
「どんな人間だったんだろうな。これだけじゃ、ちっともわからない。」
―私だって、好きで好んでそんな事、儀式や行事の事ばかり書いてるわけじゃありません。もっと、自分の事だって書きたかった―
ふと、そんな声が聞こえた気がした。
辺りを見回して、ふむふむ、と読み返す。
ー残したくても、残せなかったんです。自分のことを書けるほど、偉くは無いし、必要とされていませんし―
「残らないてのも、寂しいもんだな。俺が、その文字には残らない、お前の姿を探し出してみせるよ」
俺はそう、本に語りかける。
自分が知らなかった、自分とは思えない程優しい声をしていた。
それに少し驚く。
「とはいえ、取り掛かるのは、明日からな。今日はもう寝る」
―落ち着いてるんだか、怠け者なんだか。…でも、待ってますよ。すぐにできるとは、期待はしてませんけどね―
ウトウトとする中、ため息混じりの声と、優しい気持ちが、俺の中に流れてきた気がした。