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維月

光りが収まった後、その眩しさから慣れない目をこすって見ると、将維は維月を腕に立っていた。維心のホッとしたような気が横から伝わって来る。十六夜は言った。

「…よかった、どうやった?」

将維は維月を褥に寝かしながら言った。

「我にも陰の月の力がある。」将維は、こちらを見た。「ゆえに、抑えて跳ね返した。気を失っておるだけよ。」

そして、将維は自分の龍の力で十六夜の籠を出て来た。十六夜はホッとして将維を見た。

「そうだったな。お前は月の命と維心の子。力を継いでたっけ。」

将維は頷いて、籠の中を見た。

「これで母上と話し合いをするでしょう。あれはただ、十六夜や父上に気付いてもらいたかったのですよ…自分がここに居て、そして自分も維月なのだということを。そして愛されたかった…父上や十六夜に。我を愛しているのではありませぬ。我はただの逃げ場に過ぎない。それに気付いてくれるかと思うたのですが、ダメであった。母上がどうにかしてくれればよいのですが。」

維心と十六夜は驚いて将維を見た。

「それは…では主は始めから?」

将維は頷いた。

「わかっておりました。別に我を選らぶとかそうではないと思っていた。心の持って行く場所を探しておるようだったので、それを与えておとなしくさせていただけです。あれだけ長い間体を繋いでおれば、心も時に繋がりまする。なので、あれの心は何度か読めました。言っておったように、ただ寂しかったのですよ。母上は、それは悲しげにそれを見ておる状態でした。無理にあれの意識を破ろうと思えば出来るはず。しかし、それでは相手を殺してしまうと、共に幸福になる道を模索しておられました。」

十六夜は将維を、感慨深げに見た。

「将維…お前って出来たヤツだよなあ。オレ、維月が戻って来たら、維月に言ってお前にしてもらおうかな。オレから見たら、維心でもお前でもどっちでも一緒なんでぇ。姿はそっくりだし、気もそっくりだしよ。だがお前は素直だし妬みもしねぇ。やりやすそうじゃねぇか。」

将維はびっくりしたように目を見開いた。維心が険しい表情で十六夜を睨んだ。

「あのな、将維は我が維月を愛したゆえに出来た子よ。こやつは維月が育てたゆえに神らしゅうない。しかも龍らしくもない。主から見たら良いのであろうが、王になる身であるのに。これでは神経がもたぬわ。もっとわがままで良いのよ。」

炎嘉が口をはさんだ。

「王はワガママが神の世界の通例であるからの。何しろ、責務が重い。確かに維心の言う通り、将維はもう少し自分勝手に生きた方が良いな。人の世界で言う、ストレスがたまってしまうわ。まして継ぐのは龍王位ぞ。我でも嫌であるわ、そのような重いもの。」

将維は困った。そうは言っても、我はこのままで充分であるし。ワガママを言って、母を何度か我がものにしたのは、自分勝手ではないのだろうか。

「その…我は、このままで良いと思う。本来なら聞いてはもらえぬようなワガママを言って、聞いていただいたこともあるし。」

炎嘉は遠い目をした。

「確かにのう…我には許さぬのに将維には許したのだから、やはりこの男も息子はかわいいのだろうな。」

維心はフンと鼻を鳴らした。

「当たり前であろうが。それに将維は我の分身のようなもの。主に対するよりは、妬む気持ちも少ないよの。」

十六夜はそんな三人の話に呆れたように聞き入りながら、維月を見た。維月は、自分の中で、一体何を話しているのだろう…。


黒髪の維月は、赤い金髪の維月と並んで座っていた。金髪の維月は泣きじゃくっている。

「将維が、あんなことを言うのよ。」金髪の維月は言った。「結局皆維月がいいんじゃない。」

黒髪の維月は遠くを見るような目で言った。

「あの子は母が大事なのよ。」穏やかな声だ。「だから言ったじゃないの、あの子は息子なのよ。何を置いても母が大事なの。私が育てたんだもの。」

金髪の維月はしゃくりあげて言った。

「でも、あなたを求めたでしょ?」と、黒髪の維月を見る。「女として好きなんじゃないの。だって、でなければあんなこと出来ないでしょう。蒼はあなたに指一本触れようとしないのに。」

黒髪の維月は、ため息を付いた。

「確かにそうなのよねー…」と空を見上げた。「私にもよく分からないわ。ただ、維心様にそっくりだから、私もあの子は愛してるわよ。血が繋がっていないから、微妙な空気になるのもだから分かるのよね。あなた、私の記憶を見て知ってるだけで、まだ共有までは行ってないわ。だから実感出来ないんじゃないの?」

金髪の維月はじっと考え込んだ。

「…私、あなたになったらどうなると思う?」

黒髪の維月は顔をしかめた。

「さあ…経験ないからわからない。私だってあなたを吸収したらどうなるのかわからないじゃないの。もしかして、来る者拒まずになったらどうしようかって思ったりもする。」

金髪の維月は同じように顔をしかめた。

「嫌だわ、私だって誰でもいい訳じゃないのよ。ただ、利用させてもらう時は好みなんて考えないものだと思うけど。だから…ほんとは維心様だって、利用したくなかった。ただ月から見ていて、愛されるってどんな感じかなとは思ったの。それだけよ。」

黒髪の維月は笑った。

「維心様はねえ…あれで困ったところがおありだったから、あれで少しは懲りてくださったかな、なんて思ったりしているのよ。ああいう時、いつも無理ばっかり言って。」

金髪の維月も笑った。

「ああ、なんだか分かるわ。ほんとにそうよね。でも維月…あなたはとても皆に愛されてるわね。」

黒髪の維月は複雑な顔をした。

「あなたのおかげでね。でも、私は十六夜と維心様さえ居ればよかったのよ。でも、なんだかいくらでも寄って来るから…あなたの気のせいでしょう?私達、きっと既に一つなのよね。あなたのおかげで、私は愛されてるんだわ。」

「十六夜だけは違うわよ?」と金髪の維月は言った。「あれは全然この気の影響受けないの。見ててわかるでしょ?それに、維心様だって最初から維月を愛してたじゃない。それを確実にするためにって思って、私がその気を成長させたのだもの。気に寄って来たのは、その後の人達よ。」

黒髪の維月はうーんと唸った。

「そうねえ…。」

しばらく、二人は黙ってそこで、維月の記憶の中の景色を眺めていた。

ふいに、金髪の維月が言った。

「…きっと、一緒に愛されるのが一番よね。これで、あなたも完全に陰の月になれるし。私の意識はあなたと同化して、同じ「私」になる。あなたの幸せは私の幸せ。意識が二つから一つになるから。愛されたいなら、そうして一つになるのが一番よ。」

黒髪の維月は金髪の維月を見た。

「それでいいの?私も覚悟が要るんだけど。」

金髪の維月は笑った。

「私もどうなるか分からないんだけど。でも、きっと大丈夫よ。だって、十六夜と維心様よ?でも、私は将維も好きだから、あなたもそうなるかも。」

黒髪の維月はため息を付いた。

「それは困ったわね。息子として見れなくなったら、維心様に気取られて大変なことになりそうよ。」

金髪の維月は立ち上がった。

「さあ、さっきから十六夜が穴が開くほど顔を見てるのよ。もう行かなきゃ。」

黒髪の維月も頷いて立ち上がった。

「これからはいつも一緒ね?というか、私なんだし。」

黒髪の維月は手を差し出した。金髪の維月はその手を取った。

「そうなのよ。私達は同じ維月。直に分かるわ…それを感じて。そして時々、月にも帰るのよ?あなた、分からないって帰って来ないんだから。」

「これからは分からないことはないでしょう?」維月は笑った。「あなたが私なんだもの。」

「そうね。」

二人は微笑み合った。姿が光になり、そして、その場から消えた。



維月は目を開けた。変な感じ…でも、私は私。

回りに目を向けると、十六夜が作った籠の外から、四人の男がこちらをじっと真剣に見ている。維月は眉を寄せた。

「なあに?動物園のパンダじゃあるまいし。」

十六夜が恐る恐る言った。

「維月か…?」

維月は眉をひそめた。

「当たり前じゃないの。さっきも維月だったのよ?これも維月よ。」と、維心を見た。「維心様…ご心配と気苦労をお掛け致しました。もう、大丈夫ですので。」

維心がぱあっと微笑んだ。

「維月だ!」と籠に手を突っ込んで髪を撫でた。「黒髪に戻ったから、きっとそうであろうと思うておった。」

維月はふふふと笑った。

「両方ですのよ?陰の月と混ざっておりますの。でも、私ですわ。」と将維を見て、ハッとした顔をした。「まあ!やっぱり!困ったわ!」

将維は驚いて維月に手を差し出した。

「どうしたのでしょうか…何か問題でも?」

維月はポッと赤くなった。将維はびっくりして眉を上げた。維月は胸を抑えた。駄目だわ、やっぱりドキドキする。

将維は訳が分からず十六夜と維心と炎嘉の方を見た。維心は眉を寄せ、十六夜は無表情で炎嘉がふーんと笑った。

「これは面白いの。二人が一人になるとは、こういうことなのか。」

維月は炎嘉に、め!と言う顔をした。

「まあ炎嘉様!しー!」

しかし維心は気付いた。

「…将維を?!許さぬぞ、維月!そこのところは無くすのだ!」と将維を見た。「主、しばらく維月に触れてはならぬ!」

将維はただびっくりしたように頷いた。それは、母があの陰の月と同化して、我を?

将維は確認しようと維月に近付いて籠へ入った。

「母上…。」

維月はますます赤くなった。なんだかとても将維が好きな気がする…陰の月と同化しているからなのね。

「許さぬと申すに!」維心も籠に足を踏み入れた。「主は我の妃ぞ!」

維心が半分激昂して維月の肩を抱くと、また維月はポッと赤くなった。維心はその反応に驚いた。

慣れておるはずであろう…?

「すみませぬ。すぐに慣れると思いますので。まだ、陰の月との調整がうまく行っておりませぬ…。」

維心は戸惑った。いったいどうしたと言うのだ。

十六夜が、手を振って籠を消した。

「陰の月が慣れてないことをすると、こうなるのさ。でも、あれだけあんなことやこんなことをして置いて、今更これぐらいで赤くなるってどういうことだ?そこは維月と連動してるからなのか?」

十六夜が維月の傍へ寄ると、維月はまた赤くなって下を向いた。十六夜はびっくりした。まさか、オレも?

「い、十六夜はいつも地上ばっかり見て、陰の月と交流なかったでしょう…でも、とても好きみたい…。」

十六夜は呆気に取られた。

「おいおい、気が多いな。困ったもんだ。」と、維月の顎を持って上げた。「早く慣れねぇと、オレにまでおどおどしてるんじゃ落ち着かねぇじゃねぇか。え?」

維月は耳まで真っ赤になった。十六夜はびっくりして手を離し、ため息を付いた。

「あ~どうなってんだよ全く…。」

維月は慌てて維心からも将維からも離れると、炎嘉の後ろに隠れた。炎嘉が複雑な表情でそれを見た。

「つまりは我は大丈夫ということであるな。喜んでいいのやらの。あれだけのことをしておいて、今更であるぞ、維月。少しは我も想わぬか。」

維月はふふっと笑った。

「炎嘉様も好きですわよ?」

炎嘉はお手上げだという顔をした。

「つまりはその程度であるな。ま、良いわ。さて、行こうぞ維月。我が龍の宮まで送ってやろう。」

維月は微笑んだ。

「はい、炎嘉様。」

維月は炎嘉に抱き上げられると、窓から飛び立った。ハッと我に返った維心が慌てて追い掛ける。

「なんだそれは!こら、待たぬか!」

炎嘉と話している維月の笑い声が聞こえる。十六夜と将維は、仕方なく後を追ったのだった。


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