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維月は、眠ってしまった維心を見た。まだ力を吸収しようとする自分を、別の自分が止めた…ダメ!気がなくなったら、死んでしまう!

維月は起き上がって、ぼんやりと明るくなって来る空を見た。力が欲しい…でなければ誰も私を顧みてくれない。もっと力が…!

維月は焦燥感に駆られて、寝台を降りて居間から宮の中を歩いた。

しばらく歩くと、強い気を感じた…ここは、将維の対。将維…力を持つ龍…。

将維の対へ続く回廊を、維月はふらふらと歩いて行った。


将維は、まだ眠っていた。

元より月はどんな結界も通る。維月は将維に気付かれずに結界を通って、寝室へ足を踏み入れる。

そして、将維を見ると、微笑んだ。なんと気が充実しているのかしら…。まるで維心様のよう…。

将維が気配に気づいて、目を開けた。目を開ける前から、その気が母のものであることがわかっていた将維は、なぜこんなに早朝にここへ来たのか分からず、そちらを向いてすぐに言った。

「母上、なぜに…、」

将維は寝台から身を起こした状態で、固まった。そこに居たのは、赤みがかった金髪になった母。しかも、常の時と全く感じが違った。それでも、その独特の気は間違いなく母のもの。将維は言葉に詰まった。

「そのお姿は…?!なぜ、このような時間に、ここに…。」

維月は微笑んで、将維に近付いて来た。

「陰の月とつないだら、こんな風になってしまったの…。これは私の本来の姿なのね。」と、将維の頬に触れた。「将維…会いたかったわ…。ねぇ、いいでしょう…?」

将維は驚くのとためらうのとで、混乱した。母がこんなことを言うなんて。

しかし、維月は身を摺り寄せて将維に口付ける。強い催淫の気が将維を包み、将維は我を忘れて維月を寝台へ引き込んで組み敷いた。

「…理由など聞かぬ…維月…!」

将維はそのまま、あの日のように、維月を愛した。

朝日が昇り始めていた。


「将維!」

維心は叫んで、将維の結界を力で破って抜け、寝室へと急いだ。思った通り、維月の気がする…やはり、将維の所へ来ていたのか!

「維月!」

維心と十六夜が将維の寝室へ入ると、維月が着物を着崩した状態で窓辺に立っていた。将維は寝台で眠っている…思った通り、気はいつもの半分ぐらいだった。

維月がこちらを振り返る。十六夜がその姿に絶句した。金髪で赤い目…そう見えたからだ。

「維月…お前、どうした?力を求めてるのか?陰の月がそうさせるのか?」

維月の目は、維心のほうへ移った。そしてにっこりと微笑むと、維心に歩み寄った。

「まあ、維心様…お目が覚めましたの?では、こちらへ…私を抱いてくださいませ。」

維心はふらふらとそちらへ足を踏み出し掛けて、留まった。

「維月、駄目だ。主は今、常の主ではない。陰の月から何かおかしなことになっておるのだ…それを直さねばならぬ。さあ、戻るのだ。」

維月は横を向いた。

「…維心様は、私などそのようにしか思っておりませぬのね…」

維月は窓の方へ足を向けた。維心が慌てて維月を抱き寄せた。

「戻るのだ。我は主を想うておる。だからこそ、このままではいけないのだ。維月、さあ…」

維月から、強い気が維心に纏わりつく。維心は必死に正気を保とうとした。体が自然と反応する。このままでは、また…。

十六夜が手を差し出した。

「維月、こっちへ来い。何を求めているんだ。お前は何が欲しい。」

維月は言った。

「力よ!」激しい様子だ。「いつもあなたばかり!私も居るのに、あなたばかり!どうして同じ月なのに、私はこんなにも顧みられないの?あなたに力があるから?それが皆を助けるから?だったら私も力を集めるわ!この体があれば出来る!私は陰の月。全ての男の望む女に変わることが出来る。愛するかたのためだけに、そのかたの好みなるよう努力していたの。でも、力をくれないのならもう要らない!力をくれるかたの所へ行く!」

維月は維心の腕を難なくすり抜けた。月の力を、初めて維心は実感した。

「維月!」

維心と十六夜は同時に叫んだ。維月はフッと消え、そしてその場から気配も無くなった。

騒ぎに、将維が気だるげに身を起こした。一気に気が補充されていくのが分かる。

「十六夜…?父上…?母上は…。」

十六夜は将維を見た。

「力を欲してやがる…陰の月が。」十六夜は言った。どうしたらいいのかわからないようだ。「おそらく維月の意識と混じっているんだろう。だが、陰の月の意識が強くて、維月が抗えないんだ。元は維月だけだったのに、あまりに離れているから、陰の月だけの意識ってのが出来てしまったんだろうな。そいつが…おそらく、表舞台へ出たいと思ってる。オレが月と呼ばれて全てのことをやってのけてたから…。」

将維は驚いて十六夜を見た。

「あれは…母上ではないのか?」

十六夜は首を振った。

「維月だよ。だが、違うのも混じってる。」十六夜は言った。「だが将維、お前もちょっと疲れたかもしれねぇが、すぐに気は元に戻ってるじゃねぇか。いい想いしたんだし、維月捕まえるのに力を貸しな。」

将維が罰が悪そうに維心を見た。維心は横を向いた。

「わかっておるわ。我もあれには抗えなかった。今回は仕方ないの。」

将維は急いで襦袢に腕を通すと、二人と共に維心の居間へと向かった。


維月は、南の砦に姿を現した。ここに強い気を感じる…力を集めなければ…。

気配に警備の軍神達が飛んできた。その二人を見て、維月はがっかりした…維心様と比べて、あまり力を感じない。身を重ねたりしたら、きっと死んでしまうだろう。

「止まれ!主は…」

軍神達が維月に刀を向ける。維月は振り返った。相手はその気にめまいを起こし、ふらついた。あまりにも艶めかしいので、二人はそこから近づけずに居た。

「いったい…ここへは何をしに…」

維月はフッと笑った。

「あちらに居られるかたに会いに。」

維月が指す先には、炎嘉の部屋があった。軍神達はためらって、言った。

「しばし待たれよ。聞いて参るゆえ…」

維月はふわっと飛び上がった。

「まあ、待てないわ。」と二人にスッと近づくと、頬を撫でた。「おやすみなさい…」

二人は気を失って地面に落ち、倒れた。維月はふふふと笑うと、強い気がする方向へ飛んで行った。


炎嘉は、目を開けた。

自分の結界を入った所で、何か軍神達の気が乱れたかと思うと、スッとその気が失せ、そして著しく気が失われたのを感じたからだ。しかし、結界に侵入したような感覚はなかった。そもそも、自分の結界を破れるものなど維心と将維ぐらいしか居ないが、破られればわかる。分からないのは月ぐらい…。

炎嘉は、警戒した。十六夜が来たのか。

窓からそちらの方角を見ようと近づくと、そこのバルコニーに、赤いような金髪の女がふんわりと降り立った。炎嘉はその気に息を飲んだ。これは、維月の気にそっくりだ。いや、維月そのものではないか!

慌てて窓を開けてそちらを見ると、その女はこちらへ歩いて来る。確かに維月。だが、髪の色も目の色も、そして漂わせる雰囲気も全く違って見えた。相手は炎嘉に気付いて手を差し伸べた。

「炎嘉様…。」

その気をもろに受け、炎嘉はふらふらとよろめいた。維月…だが、何があった。

「維月、どうした、その姿は…それに、維心はどこだ?」

こんな維月を維心が一人にするはずがない。しかし、維心の気はまったく感じられなかった。

維月はそれを聞いて悲しげに眉をひそめた。

「まあ炎嘉様…私がはるばるここまで参りましたのに、そのような仕打ち…。」と近寄って来て炎嘉を見上げた。「あのかたは力をくださいませんの…炎嘉様、このような私は嫌だとお思いですか?もう私をお望みではないのですか…?」

炎嘉は身の内から突き上げて来る衝動を抑えながら、言った。

「力とはなんだ。主の望みは何ぞ。」

維月はふふと笑った。

「私に気をくださりませ。炎嘉様の気を私に…。」

「おお」炎嘉は維月を見てニッと笑った。「気などいくらでもやろうぞ。維月…来るが良い。我の腕の中へ。」

維月は炎嘉の胸に飛び込んだ。炎嘉は維月を抱き上げると、部屋へ連れて入った。これが何の企みあってのことか分からぬ。だが、そんなものどうでも良いわ。


「炎嘉か」十六夜が言った。「箔炎か、志心か。とにかくこの辺りへ行ってることは間違いねぇ。あいつらの気が他と比べて尋常でないぐらい多いのと、それから皆が皆維月を望んでるからだ。手っ取り早い。」

維心が深くため息を付いた。

「維月からあやつらの所へわざわざ乞いに出かけるなど。考えただけでも我が身が痛むようぞ。」

十六夜はそれを見て苦笑した。

「陰の月はこんな感じなんでぇ。人の欲望を逆手にとって己の思う通りにする。だから維月の性質と違うし、あまり繋いで来なかったんだろうけどよ。それがこんなことになっちまって。オレは抵抗するから思うように力が取れないから、維月を介して神達から取ろうと思ってるんだろうよ。神達はまた気を補充しやがるから、またそれをもらえばいい。簡単なこった。ただ、力のあるヤツでないと、非効率だからな。問題は、そんなに力を貯めて何をしようと思ってるのかってことだ。捕まえて話させなきゃならねぇ。」

将維は十六夜に問うた。

「どうやって?」

十六夜は険しい表情になった。

「本当はやりたくなかったが、陰の月を封じるやり方があるんでぇ。もちろん維月も陰の月だから、あのまま一緒に封じられるがな、檻のような形にして捕まえようと思ってる。気付かれたら逃げられるから、準備をしてある所におびき寄せて、じわじわ締めて行こうかと思ってるんだが…」と十六夜は将維と維心を見た。「維心…いや、将維。お前、囮になれ。」

維心も将維もびっくりした。

「囮?なんの?」

十六夜は手を振った。

「少しは察しろよ。オレが力を引き絞って檻を完成させるまでの間、お前が維月を同じ場所に惹きつけておけって言ってるんだ。」

将維は維心をチラッと見て、下を向いた。

「その…我は、己を保てる自信がない。なぜに父上でないのか。」

十六夜は鼻を鳴らした。

「どうせ維心だって我を忘れるに決まってる。一日ぐらいは掛かるからな。維心の方が気が強いが、将維の方が回復が早い。若いからな。気を吸い取られて一日だぞ?維月をその場に留めるには、将維の方がいい。回復を待たなくていい分、他へふらふら出て行ったりしないだろうが。」

将維は固い表情をした。つまりは絶対に留めなくてはならないのか。常に気を補充することに気を使って…。

十六夜がフッと頭を上げた。空を見上げて険しい顔をしている。

「どうした?何か見えたか?」

維心が言うのに、十六夜は頷いた。

「陰の月の力がどんどん補充されてるぞ。これは維月が誰かと…」

維心が耳を押さえた。

「やめてくれ、聞きとうない。」

将維が身を乗り出した。

「そこへ行けば母上がいる。どこか分かるか?!」

十六夜は頷いた。

「…炎嘉だな。」十六夜は言った。「南の砦。まああいつはちょっとやそっとじゃ死なねぇし、ちょっと面倒見ててもらって、こっちは作戦立てようや。」

維心が十六夜に怒鳴った。

「なんだって主はそんなに落ち着いてられるのよ!我は…我は耐えられぬ!」

十六夜は冷静に言った。

「あのな維心。作戦も立てないで連れて帰って来た所でまたすぐ消えちまうだろうが。確実に捕えなきゃならねぇんだよ。いいだろうが、炎嘉と維月は初めてじゃあるまいし。維月の意思じゃねぇんだから、早くあの状態から助けてやらなきゃ、それこそまだ触れたことのない箔炎も志心もってことになるぞ。いいのか?」

維心は苦しげに眉を寄せていたが、頷いた。

「わかった。手筈を早く話してくれ。」

十六夜は、陰の月を陽の月の力で捕える大変さを話し、作戦を話したのだった。

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