王太子妃 ~なりたくなかった候補者~
「ふざけんじゃねーわよ!!」
これが、深窓の姫と呼ばれた侯爵令嬢シアニー・リア=フロスティの第一声だった。
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侯爵家当主クレイトス=フロスティは、家族思いで愛妻家、そして、歴代の当主の中でも領民思いの優れた当主と評判だが、決して驕らずひっそりと暮らす当主である。
本人曰く『私たちが暮らす分だけあれば良い。それ以外は争いを生む。』
(というが、妻シルヴィアは『要するに、自分を王都に呼ばないで。面倒くさいから、と言いたいのよ。』と代弁した。後世に残る記録である。)
父に習うかのごとく育った長男リーガル=フロスティ、次男エルンスト=フロスティもまた、家族第一・領地思いで欲がないと知られる人物であった。
しかし、この兄弟は当主を上回った面倒くさがりで王都の面倒事に巻き込まれないためならどこまでも尽くす、とてつもなく楽したがりであった。
兄弟は、『トランシルバニア王国』王都トランドールにある王立学院エスターニャに通っているため、普段はいなかったのだが、長期休暇に入ったので帰郷したのだ。
この休暇こそがシアニー・リア=フロスティにとっての人生最大の転機であり、人生最大の不幸となるのだった。が、決して兄弟が企んでいたことではない。兄弟にとってもまたある意味不幸にしかならないことであり、生涯の悩みの種である。
兄弟を知る人々は語る。
『あいつらがあれほど苦渋の顔をするのはあれきりだろう。この顔を見る機会に出会わせてくれてありがとう。神様』
まさに『類は友を呼ぶ』を体現する兄弟と周囲だった。薄情だ。
さて、ずいぶんと話はずれてしまったが、兄弟が王立学院に通っていた時、リーガルは15歳、エルンストは10歳、シアニー・リアは14歳であった。
3人そろって勉強好きで経済学は当たり前であったが、それぞれ特技があった。リーガルは世界史等の歴史全般、エルンストは食物育成に、シアニー・リアは言語学と見事に家業を誰がついでもよいといった具合に両親に都合よく、育ったが、決して強要したわけではない。現に、誰か次ぎたいと言ってくれないかと、3人が3人とも思っていて、従兄弟あたりが言ってこようものならいつでも押し付けてやると思っていた。そして、補佐には就くが自分の研究に力を入れようと、決意していた。決して、家を潰したいわけではない。現にもしもの時はいついかなる時でも家を継ぐ気ではいた。ただ、研究だけは取り上げないで、と当人たち曰く『ささやかな願い』なのだった。
王立学院の長期休暇期間に帰郷した兄弟は珍しく、友人を連れていた。シンフォニア公爵家ラス・リ・エール=ラ=シンフォニア、アズラール・ディ・オール=ラ=シンフォニア、クーセル=レ=ディングルの3人は、兄弟と学院で仲が良く、実は幼馴染であった。
「ようこそお越しくださいました。私、シアニー・リアと申します。ラス・リ・エール様、アズラール・ディ・オール様、クーセル様、いつも兄たちがお世話になっております。私とも是非、親しくしてくださいませ。」
香水をつけ、上目使いで派手なドレスを身に着け、シアニー・リアは自分をアピールしていた。兄弟は同じ両親から生まれたもう一人の子を見て、思いっきり顔をそらした。3人の友人は(なんだ、この女は…)と友人の身内にも関わらず、心の底から関わりたくないリストに登録した。
こうして深窓の令嬢と言われた娘は、どこにでもいるケバイ女と評価された。
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「おまえの妹はなんなんだ」
うんざりとした顔でラスは、リーガルに第一声を浴びせた。
「うん?とても可愛いだろう?」
リーガルはそう言い、エルンストは当たり前だと言わんばかりにうなずいている。
「や、顔は可愛いと思いますが、あの行動は本当にあなた達の御兄弟なんですか?」
アズラールもうんざりした顔で素直な気持ちを語った。
兄弟が下がるよう伝えるまで、シアニー・リアはひたすらアピールしていたのだ。香水がきついだけでも嫌だったのだが、兄弟のことを持ち出すので3人が3人とも断ることが出来なかったのだ。
なぜ、自分の評価を貶めているのに気付かない!!
3人はそう思っていた。それと同時に気づいていて、娘のフォローをするわけでもなく、かといって、友人である自分たちを助けることもないこの兄弟にも何とも言いようがない。
はっきりと言わせてもらえば、どちらの立場においてもこの兄弟は鬼畜としか言いようがない。友人というには薄情で、兄姉弟というには冷たすぎるのではないだろうか。
あれ?友達だよね?・・・でもって兄姉弟だよね?
友人たちは改めて、自身の心の中で問いかけをしていた
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「ふう、つ・か・れ・た♪」
シアニー・リアは別れてから速攻ドレスを脱いで、お風呂に入り、香水を落として、ニコニコとしていた。ご機嫌真っ只中♪といった感じだった。
「何が悲しくて、公爵家やそれに関わりありそうな人たちによく思われないといけないのよ。はっはー」
シアニー・リアは知っていたのだ。彼らのもっとも嫌がる女性がどんなタイプなのか。ならば、徹底的に演じてみようと決めていたのだ。
兄弟も両親も決して結婚しろとは言わないし、シアニー・リアは結婚をしたくない。ならばどうしたらよいかを考えた結果がこの行動だった。
このことが王都で広がるならばそれでも良い。広がらず、もし、万が一後宮に挙げられてしまったとき、このことは必ず耳に入るはず。その時また、同じようにしたら王族とも関わらずに済む!と考えているシアニー・リアだった。
ちなみに、兄弟も家族も決してシアニー・リアに賛成しているわけではない。ただ、面倒なことをとことん押し付けられるという報復が待っていることを知っているため、シアニー・リアに任せておこう、だって、家や領地を潰したりはしない子だから。と考えているからだ。
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こうして、シアニー・リアの願い(企み)道理に事が進み、1月もの間、会わずに済んだ。決してシアニー・リアが避けていたわけではない。向こうが勝手に避けていてくれてたのだ。
だからだった、気が緩んだのよ・・・くっ!!
何度も後悔しましてよ、私。 ・・・おぼえていなさい。・・・御三方・・・復讐してやる!
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兄たちの休暇が三分の一過ぎ去った時のことだった。シアニー・リアの幼馴染であるアイス=エル=サーペンスが訪れたのは。
「お久しぶりね。今日はどうしたの?」
「ずいぶんな態度なんだな、シア。まあ、俺が突然だったのもあるんだろうが。その様子だと、嫌なんだな、兄弟が友人を連れてくるのは。いや、違うな。一緒の空間にいるのは、といったほうが正しいな。」
アイスのいうことももっともだ、シアニー・リアはそれはそれは、嫌そうな顔をしていたのだ。
けっして、この幼馴染が嫌いというわけではない。むしろ歓迎だ。しかし、友人を迎えるにはあまりにも疲れていたのだ。
「お茶にしない?付き合ってくれる?」
「ああ、助かるな。土産に菓子と茶葉を持って来ていたので、入れては貰えないか?」
聞いてほしいと、すがるような視線を送る一つ下の幼馴染にアイスは、ようやく息をつくことができたのだった。
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「なんだって、あんな男たちがいいのよ。関わりたくないっつーの。」
シアニー・リアはかなりの悪態をついていた。
「公爵家だからな、金も権力も見た目も持っているぞ。」
「だからって、私の好みとは限らないでしょ。あちらが気に入らなければ、私には何一つ関係ないわ。私は好きなように、本を読んで、うちで過ごすわよ。」
相当ストレスがたまっていたのだろう。シアニー・リアはかなりの勢いで言い始めた。それこそ、アイスは口を挿む勢いを亡くしてしまうくらいに。普段の彼女ならここまではない。
だから、アイスも気づくことが出来なかった。不穏が近づいてしまったことに。
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「やけに、にぎやかなお茶会だな。ところで君は、双子なのかい?」
シアニー・リアの聞き間違いでなければこの声は、客人の声だ。それも立場は一番厄介な人ではないだろうか。そう、この声は
「・・・ラス・リ・エール様、それに皆様。いつお帰りに?」
ギギギ…という音がしそうな様子でシアニー・リアは振り返るとそれはそれは晴れやかな顔をしたかの方がいた。他4人もいた。兄弟は、あちゃー・・・と天を仰ぎ、もう一人の幼馴染を見ていた。
シアニー・リアは、アイスを盗み見ると、顔を覆っていた。予期せぬ出来事だったのだろう。
「さっき帰ってきたんだ。ところで、姫。」
あいにく、アイスを見ている余裕はない。
「聞きたいことがあるんだけど」
「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!!」
「「「「「え、」」」」」
突如叫びたした侯爵令嬢に一同騒然とした。シアニー・リアはすべてをかなぐり捨てていたのだ。
「錯覚です。間違ってはいけません、物珍しいものを見たので錯覚を引き起こしているだけです。」
その一言にシアニー・リアは自身の能力の高さを露見してしまったのだ。
「うん、姫。私のことをよく理解してくれているようで良かったよ。
でも、今のままでは私のところに姫が来ることはないね。しっかりとした地位が必要だ。幸い私には継承権があることだし。頑張ってくるよ。
姫。、待っていて下さいね。」
「嫌、私の努力が・・・なんたること・・・」
翌日、彼らは意気揚々として、帰って行った。
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「くっ、・・・なんなのよ、これは。」
王太子妃候補として王都へ参るように、と回りくどく書いた通知が王都にいる兄リーガルを通し、アイス経由で届く。この遠回りの経由はシアニー・リアによって書簡がつぶされないための措置である。
通知には兄弟を人質にとったような文面であったため、シアニー・リアは逃れることが出来なかった。
「ふざけんじゃねーわよ!!!」
この一言を元に、シアニー・リアは王都に行くこととなったのだ。付添としていくアイスは溜息をつくしかなかったのだ。
読んで下さり、ありがとうございます。
シアニー・リアみたいな姫がいたら面白いだろうな、という思いから生まれた話ですが、初めに想像していた物語とは、どこかずれてしまった気がします。
・・・なぜだろう・・・不思議・・・ではありません。すべてわたくしの足りない文章能力のせいでございます。
3年前、イタリアに行って、いつか書いてみたいと思って書いた超、自己満足な物語でしたが、楽しかったので、「ま、いっか」というような気がしますが、読んで下さった方々にはかなり、意味不明なものに仕上がっている気がします…ごめんなさい。
こんな拙い文章でしたが、また、シアニー・リアを書くことが出来たらと思いますので、その時はまた、お付き合いいただけたらと思います。
最後になりましたが、まだまだ寒い冬は続きますが、お仕事や勉強などなど頑張っていきましょう。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。