我こそが漆黒の覇者!
オレは周りの人間が大嫌いだ。
奴らは目に余る程の馬鹿だからだ、大馬鹿者なのだ。
ある日の路地裏では、派手なフードを被った男達が大量の麻薬の売買をしていた。偶然出くわしたオレは思わず奴らを睨み付けたが、男達はゲラゲラと下品な笑いをするばかりだった。
集団でしか行動出来ないこの餓鬼共が!ああいう奴らに限って、一人になった瞬間何も出来なくなる弱気な人間なんだろうよ。到底、オレの足元にも及ばない。
偶然レストランの喫煙コーナーに居た時の話だ。
オレは煙草が好きじゃない。しかし禁煙コーナーがぎゅうぎゅうに混み合っていたので、その時はたまたま喫煙コーナーに居た。見渡せばそこは分厚い煙りの王国で、それはそれは息苦しい。吸っている本人は体に毒であると自覚しているらしい。自覚しているなら何故始めたのか。疑問である。
自分の寿命を削って愚かだな、実に愚かだ!
クーラーガンガン、ストーブ焚き過ぎ!
エコを考えろ、エコを。
その上、最近のガキ共はやたらに食べ物の好き嫌いが多い。そのため残し物が多いのだ。それは毎日大量の食料が捨てられていくのを意味する。
しかしオレは食べ物を選ばない。多少の暑さや寒さにも堪えてみせる自信がある。
便利を追求するに留まらず、加減を知らない奴ら。擦れ違う人間全てがオレよりも欲深く、醜悪である。
あーあ、この国は終わりだな!
オレは今、学校の教室にいる。
授業中は上の空。難しい方程式を書き込む教師にガンをつける。そんなもん覚えたって、生きることには役立たない。勉強なんて、したい奴だけやればいい。
学校といえば、ここは典型的な馬鹿共の集まりだ。くだらない虐めが絶えないのさ。なんせ此処にいる奴ら皆、幼稚な野郎共だからな。
オレは一度、前の席に座っている男にホウキを振り回しながら追いかけられたことがある。
このクラスのリーダーには、ボロボロなバケツから水を思い切りかけられたことだってある。
黒板消しを投げられたり、「気持ち悪い」と言葉で罵られるだなんて日常茶飯事だ。
しかしオレはへこたれない。周りの奴らが餓鬼で、愚かで、醜悪な幼稚な野郎だと分かっているからな。馬鹿だ。人間共はどいつもこいつも馬鹿ばかりだ!
溜息をつく。
今日の天気は雨。ジメジメと体に纏わり付く湿気の感覚は、まあ悪くない。ふと時刻を確認すれば午後三時。眠気を誘う。
相変わらず教師は良く分からない公式をひたすら説明している。ユーモアのカケラもない。
よし、気分転換に体を動かそうか。
そうさ、夜行性のオレには昼間の授業なんて退屈窮まりない。
ニヤリと爪先を動かした。授業中だろうが関係なく、オレは女子の足下を全速力で駆け抜ける。無我夢中で目指す先は教室の扉である。玄関にでも、逃げてやる。
「キャアアア!!」
一人の女生徒が叫んだ。
クラスの視線は女子に向かう。チョークを持ったまま教師も彼女の方を振り返った。
「ゴキブリ!!ゴキブリがドアの扉に向かって走ってる!!」
周りも一気に騒ぎ出す。
サーと血の気が引いたように皆顔を青くする。
沢山の叫び声がクラスに響き、彼等は黒い触角を持った素早い虫を指差した。
「このやろ!また水をかけられたいのか!」
「いやー!こっちに来ないで気持ち悪い!」
「先生、ホウキ!ホウキで叩いていいですか!?」
混乱と騒音の中、カサカサという効果音が足元に響く。
とある男子がホウキを取り出した。勇敢な男子に拍手が沸き上がる。その拍手に調子に乗った彼の瞳は、まるでハンターのように光った。
気が付けば小さく黒いあの生物は、どこかに姿を消していた。
ゴキブリ思想物語。