答え合わせ
「ねえ真尋、今日こっくりさんやらない?」
全ての授業が終わり教室に西日が差し込む頃、同じクラスの鷹宮京香に私はまた誘われた。帰り支度をしていた私は鞄に教科書をしまう手を止めた。
「え、また? だってもう三回目だよ?」
「そ、三回目。何回やってもいいじゃない」
京香は人差し指を三本立てて、いたずらっぽく笑った。
京香は私がこの楠木高校の二年二組になってからできた友人だった。話しかけてくれたのは京香からで、引っ込み思案な私にとって彼女は少しばかり眩しい友人だった。誰に対しても物怖じせず、言いたいことをはっきり口にする。自分とは正反対で、そんなところが羨ましくもあり時々怖かった。
「またやるの? 京香も好きだねえ」
びたりと私に身体を寄せて今城渚が口を挟んだ。私の幼馴染で、パーソナルスペースなんて概念のない距離感はいまだに変わらない。
「二人はもう飽きちゃった? でも本物だったじゃない」
「まあ、確かに前の二回は本当に当たったもんね」
渚はそう言って、私の机に頬杖をついた。
こっくりさんが本当に存在しているかどうかについてはまだ半信半疑だった。だが事実、過去二回こっくりさんは真実を言い当てた。
初めての時は、渚が中学の時に本気で恋していたという先生の名前。二度目は、京香が幼い頃に飼っていた犬の名前。ちなみに私も小学校の時に密かに好きだったアニメのキャラクターをぴたりと当てられた。
正直、イカサマはいくらでもできると思っている。私の好きなキャラだって、口にしていないはずだが、実はどこかで渚にバレていた可能性だってあるし、実は二人が当てられたと言っていたものが嘘だった可能性もある。まあ、わざわざ嘘をつく理由もないと思うが。
それ以外の質問も全て当たっていたが、こっくりさんの存在を証明するには至らなかったと自分では思っている。
でもそんなことはどっちでも良かった。こうして放課後を共に過ごせる友人がいてくれることが私は嬉しかった。だから京香の誘いをもちろん断るつもりはなかった。
「でね、今回はちょっと私に付き合ってほしいんだ」
「今回はってかいつも付き合ってますけどね。と、言いますと?」
「こっくりさんへの質問は事前にこっちで用意してあるの。二人は何も考えなくていいから」
「何それ気になるー」
「じゃあ付き合ってくれるよね、なぎちゃん?」
「最初から断られないって分かってそうでむかつくー」
「真尋もいいよね?」
「うん、いいよ」
「決まりね」
京香が嬉しそうに笑った。
一体何をこっくりさんに尋ねるのだろう。気にはなるが、聞いても教えてくれる様子はなさそうだ。
ともかく、こっくりさんをすれば答えは分かるのだ。
そうなれば、なおさら断る理由はなくなった。
*
「さて、やりましょうか」
机と椅子を並べ、それぞれが席に着く。机の上には鳥居とはい・いいえの二択、五十音の書かれた紙と十円玉の準備が出来ていた。
「じゃあお二人。指を拝借」
気に入っているのか、毎度京香のこの掛け声がきっかけとなっている。彼女の声に私と渚は十円玉に人差し指を添える。ひんやりとした金属の感触が指先に伝わる。
「こっくりさん、こっくりさん。どうぞおいでください」
京香の声が、静かな教室に響いた。続けて三人で繰り返す。
「こっくりさん、こっくりさん。どうぞおいでください」
やがて、十円玉がずるずると紙の上を動きだした。初めこそ驚いたものの、さすがに慣れてしまった。いまだに誰かが動かしているんじゃないかと思いはするが、注視しても渚や京香の指に力が入っている様子は見られない。だとすれば、私達以外の力で動いているということになる。本来なら毎回でも驚くべき事象なのかもしれない。
くだらないことを思っている間に、十円玉は「はい」の文字の上で止まった。
「今日も来てくれたね」
「結構暇だよねこっくりさんも」
「こっちからすれば好都合だわ。じゃあ始めるからちょっと待ってね」
言いながら京香はスマホを取り出した。
「こっくりさんへの質問?」
「そう」
私の質問に京香は微笑みながら答えた。一体彼女は何を聞くのだろうか。
「では一問目。井下真由の一番好きな食べ物は何ですか?」
十円玉が動き出す。
か、れ、ー
「カレー? お子ちゃまだね」
「そう? ラーメンが好きっていうのと同じぐらいじゃない?」
ーーいや、そこじゃないでしょ。
渚と京香の話を聞きながら、私の頭には疑問が浮かんでいた。京香は「カレーね」と言いながら、スマホに回答を打ち込んでいるようだった。
「二問目。添嶋啓子の一番好きな色は何ですか?」
く、ろ
「ねぇちょっと待って」
さすがに私はそこで口を挟んだ。
「何? どうしたの?」
「どうしたのって……だって、変でしょ」
「どこが?」
京香はいたずらっぽく首を傾げる。
”言いたいことがあるならはっきり言いなさい”
京香の口癖が頭に浮かぶ。
あぁ、だめだ。こんなもじもじしていたらいつか京香に嫌われる。
「ってかさっきから誰のこと聞いてんの?」
友達なのに何を遠慮することがあるのか。そう思い口を開こうとしたところを見事に渚に遮られた。あぁ、どうして私はいつもこうなんだろう。
「まぁいいじゃない。次いくね。天童遥の一番好きな趣味は何ですか?」
ど、く、し、よ
「え?」
思わず声が漏れた。出てきた名前も意外な趣味も、私の頭に混乱を招いた。
「これマジなの?」
これには渚も少々驚いているようだったが、京香は気にせず質問を続けた。
四問目:「添嶋啓子の一番好きな季節は何ですか?」
答え:「ふゆ」
五問目:「井下真由の一番好きな動物は何ですか?」
答え:「ねこ」
六問目:「天童遥の一番好きな教科は何ですか?」
答え:「こくご」
七問目:「添嶋啓子の一番好きなスポーツは何ですか?」
答え:「てにす」
八問目:「井下真由の一番好きな飲み物は何ですか?」
答え:「こーら」
私達と別の三人に向けられた普遍的な質問が続く。
誰のことを言っているのかと思ったが、天童遥の名前が出たところで、残り二人が誰かというのも自ずと導かれた。フルネームだとピンと来なかったが、そういえばそんな名前だった。ただ、なぜこの三人に質問するのかという京香の意図は分からないままだった。
「九問目。天童遥に好きな人はいますか?」
渚が顔を上げた。
「え、急になに?」
「いいじゃない。ただの質問よ」
十円玉は迷うことなく「はい」へと向かった。
「へぇーあの子にもちゃんとそういうのいるんだ」
渚がにやにやする。もし彼女に今の言葉を聞かれたらただでは済まないだろう。
「ま、なぎちゃんだったら許されそうだけどね」
京香と渚が友達になったのも私とほぼ同じタイミングだったが、京香は渚のことを結構気に入っているようだった。マイペースな彼女は時折空気を読まない発言で周りをひやっとさせるところはあるが、思ったことを遠慮なく素直に口にするという点で評価されているのかもしれない。
「十問目。天童遥の一番好きな人の名前は何ですか?」
京香の声がほんの少し弾んだように聞こえた。
ま、な、へ 〃 ゆ う し 〃
思わず息が止まった。頭の中でこっくりさんの文字が正しい漢字に変換される。
眞鍋優次。
鼓動が速くなる。この答えが示す意味はなんだ。
「ますます意外なんだけど。眞鍋君って同じクラスのあの暗い感じの子だよね?」
そうだ。私達と同じクラスの生徒。文芸部所属で、休み時間も本を読んでいることが多く、物静かでいつもどこか憂いを帯びたような雰囲気を漂わせている男子だ。
「そうね、全然キャラじゃないよね」
笑いながら京香が私の方を見た。
「そう、だね」
私は今、自然に喋れていただろうか。
「はい、質問は以上です。これにておしまい。こっくりさん、こっくりさん。どうぞお戻りください」
京香に続いて私と渚も唱えると、こっくりさんは素直に鳥居へと移動した。
十円玉から指を離すと、京香はスマホをさっとタップしてから十円玉と文字盤を回収した。そして私達は机と椅子を元に戻し、教室を後にした。
「二人ともありがとね」
校舎を出てからも京香は何も説明しなかった。まさか、種明かしをしないつもりだろうか。さすがにそれはと思い私は声を掛けた。
「ねえ、京香」
私は指先を擦り合わせながら尋ねた。
「今日やったこと、何だったの?」
「ん? 気になる?」
「それは……もちろん気になるよ」
だよねぇ、と京香は悪戯っぽく笑った。
「でも秘密」
「そりゃないよー。さすがにそれは京香のこれからの信用に関わるよ」
これにはさすがの渚も不満そうに口を尖らせた。
「嘘嘘。そこまでイジワルじゃないよ私も。でも、今日は駄目」
「お預けってこと?」
「そ、答え合わせは明日。だから、明日また放課後集合ね」
「んーりょーかーい」
不満げな表情を残しながらもしぶしぶ渚が了解のポーズをとる。
私は、何も言えなかった。
天童遥。眞鍋優次。
頭の中で二つの名前が、いつまでもぐるぐると回っていた。
*
「で、昨日のは何だったのよ?」
放課後、腰に手を当てながら渚が京香をじとっと睨みつけた。もちろん本気で怒っているわけではないが、今日集まったのは昨日の答え合わせが目的なので、渚と同じ気持ちではあった。
「まぁまぁちゃんと説明するからお待ちを」
京香の視線は渚にではなく自分のスマホに注がれていたが、ほどなくして渚の方へと顔を上げた。
「じゃあ、行きましょうか」
京香はそう言って教室を出て行ってしまう。
「え、ちょっとどこ行くのさ」
渚と私は慌てて廊下を歩く京香の後を追った。無言で歩く京香の背に続いてしばらくすると、彼女の足がある教室の前で止まった。
京香は扉の小窓から中を覗き込み、二年六組の教室の扉を躊躇いなく開いた。
「待ってたよー」
椅子の上にあぐらをかいてこちらを向いた女子が、私達に向かって気怠そうに腕を振った。
明るい金髪、着崩した制服、耳にはいくつかのピアスが光っている。当然全て校則違反だが、彼女にとっては何の効力もないようだった。そして彼女の周りには取り巻きのように二人の女子がこちらを威嚇するように睨みつけていた。井下真由と添嶋啓子だ。
そして中心にいるのが天童遥だ。
決して楠木は底辺校ではない。偏差値でいえば中の上程度で、所謂不良と呼ばれる存在はほとんど存在していない。だからこそ楠木において異端な存在で、校内で彼女を知らない者はいないだろう。
実際に私は見たことはないが、悪そうな他校の男子生徒と酒や煙草を楽しみ、単車で二人乗りで夜走り回っている姿などが目撃されている。どれもこれも真面目な私からすれば考えられない非行行為だ。それでいて成績優秀なのだからタチが悪い。
関わりたくない怖い女子。一言で言えば天童遥とはそういう存在だった。
そんな廊下を歩けば自然と相手が道を開けるような存在と今同じ空間にいる。私は今すぐにでも逃げ出したい気持ちだった。
「お待たせ」
しかし京香は一切怯えることなく天童の方へと近付く。
「わりぃね、京香。付き合わせちゃって」
「いいのよ全然」
京香と天童は親しげな様子だった。渚の方を見ると、不思議そうに首を傾げた。
「遥とは中学からの友達なの」
不思議がる私達を見て、京香は端的にその疑問に答えた。
「ほら、これがウチらの結果」
「それ送ってもらってもいい?」
「今送った」
「ありがと。そっちのも一応ちょうだいよ」
「あ、そうだね。送ったよ」
「おっけー」
二人がスマホで何かを送り合った後、京香が私達の方へと戻ってきた。
「さて、答え合わせといきましょうか」
そう言って京香は私達にスマホの画面を見せた。どうやら天童とのメッセージ画面のようだった。
「これって……」
私は思わず口元を手で覆った。その内容はあまりに既視感のあるもので、それでいて私にとっては衝撃的なものだった。
一問目:「鷹宮京香の一番好きな食べ物は何ですか?」
二問目:「今城渚の一番好きな色は何ですか?」
三問目:「宮瀬真尋の一番好きな趣味は何ですか?」
四問目:「鷹宮京香の一番好きな季節は何ですか?」
五問目:「今城渚の一番好きな動物は何ですか?」
六問目:「宮瀬真尋の一番好きな教科は何ですか?」
七問目:「鷹宮京香の一番好きなスポーツは何ですか?」
八問目:「今城渚の一番好きな飲み物はなんですか?」
「……なに、これ」
昨日私たちがこっくりさんに尋ねた質問と同じ内容だ。
一つ違うのは、質問の相手が私達三人であることだ。
「昨日ウチらもやったんだよね。そっちがやってる同じタイミングで」
遥の言葉と今見せられた質問表で、昨日のこっくりさんの謎が少しだけ解けた。
「答え合わせしようよ。どっちのこっくりさんが優秀か」
何がおもしろいのか、天童はこちらを見てにやにやしている。
意味が分からない。天童の言葉通りなら、私達はこっくりさん対決をさせられていたことになる。
それならそれで構わない。だがそうだとしたら、最後の二つの質問は一体何だ。
「じゃ、上からいこうか」
九問目:「宮瀬真尋に好きな人はいますか?」
十問目:「宮瀬真尋の一番好きな人の名前は何ですか?」
私の疑念と困惑を無視して、京香は答え合わせを進めた。
*
「一問目、鷹宮京香の一番好きな食べ物は何ですか? 答えは、さばのみそに。すごいわ、ドンピシャで当たってる」
「日本人だねー」
京香が答えの横に〇を入力した。
「次はあたしだ。今城渚の一番好きな色は何ですか? 答えは、ぐんじょう。やるじゃん」
「当たってるって事でいいのよね?」
「うん、大正解」
同じく〇が記される。
「次が真尋ね。宮瀬真尋の一番好きな趣味は何ですか? 答えは、どくしょ。これはどう?」
「……あってるよ」
「じゃあ、〇と」
三問連続正解。こっくりさんであれば優秀だ。続けて他の回答も同様に確認していく。
四問目:鷹宮京香の一番好きな季節は何ですか?
答え:あき 〇
五問目:今城渚の一番好きな動物は何ですか?
答え:ぺんぎん 〇
六問目:宮瀬真尋の一番好きな教科は何ですか?
答え:こくご 〇
七問目:鷹宮京香の一番好きなスポーツは何ですか?
答え:きらい 〇
八問目:今城渚の一番好きな飲み物はなんですか?
答え:みず 〇
「すご、ここまで全問正解じゃん」
渚が嬉しそうにぱちぱちと手を叩く。ただ私の心にそんな余裕はなかった。
九問目:宮瀬真尋に好きな人はいますか?
答え:はい
「真尋、これは合ってる?」
「……うん」
顔が一瞬で熱くなる。恥ずかしさで思わず俯いた。
「真尋はほんと内に秘めるタイプだからなー。あたしも知らなかった」
渚の言葉に間違いはない。幼馴染ではあるが、昔から自分の想いを言葉にするのは苦手だった。言葉にした瞬間に世界が変わったり壊れたりしそうで、相手に対しての不平不満や、ましてや好意をはっきりと相手に伝えたことなど一度もない。それは今も変わらない。
「〇ね。ということはーー」
京香がスマホで文字を指差す。
十問目:宮瀬真尋の一番好きな人の名前は何ですか?
答え:まなべゆうじ
「これも、正解?」
京香が私の顔を覗き込む。
その笑顔には、何か意味があるのだろうか。
「それは……」
教室や図書室で読書に耽る眞鍋君の顔が浮かんだ。もちろん近寄ったり話しかけたりなんてしたこともない。ただ遠くからちらちらと窺う程度の淡く脆い臆病な恋心。自分の中だけに大切にしまっていた大事な想い。それが今、ないがしろにされている。しかもそれだけではない。
十問目。天童遥の一番好きな人の名前は何ですか?
ーーどうして、よりにもよって……
「それは……違う」
私は絞り出すように答えた。
「え、違うの?」
「うん、違う」
渚が驚いた声を上げた。
「本当に?」
京香が私に確認する。いつになく真剣な声音だった。
今まで全て正解だった。これだけ不正解だなんて違和感を覚えるのも当然だ。例えそれがこっくりさんという超常的な存在がもたらしたものだったとしても。
顔は見えない。京香が今どんな顔で私を見ているか分からない。
見たくない。怖くて顔を上げられない。でも、はっきり言わないと。
「本当。眞鍋君じゃない」
しばらくの沈黙。まるで刑事が犯人の自首を待っているかのような苦痛の時間。
「そ」
やがて、京香が最後の問いの回答に×をつけた。そして天童の方へと報告に行った。
「終わったよ」
「どんな感じ?」
「一問間違いだった」
「あ? どこ違ったの?」
「最後の質問」
天童が同じ箇所で引っ掛かる。
無理か。見逃してくれないだろうか。心臓が破裂しそうになる。目をつむり、どうか一秒でも早くこの場所から解放してくれと願った。
「あっそ。じゃあウチらの勝ちだね」
天童の声と共に、ガタガタと椅子を引くような音がした。
「じゃ、あたしら帰るわ」
目を開けると、天童達が教室から出ていくところだった。
「私達も帰ろっか」
京香は何事もなかったかのように教室から出て行こうとする。その姿に渚が声を掛ける。
「ちょいちょい全然わっかんないんだけど、結局何だったの?」
「え、分からなかった? こっくりさん対こっくりさんをやりたかったってだけだよ」
「んーそれだけ? で、あたし達が負け?」
「そういうこと」
「なんそれーなんか全然色々納得いかないんだけど。第一こんなの運ゲーじゃん。全部こっくりさん任せとか」
「そうかもね。レベルの低いこっくりさんを引いてしまったか、もしくは誰かが嘘をついていなければね」
「なんか、つまんないゲーム。あたしもうこっくりさんいいかも」
「そ。残念」
二人の会話を聞きながら、私達は教室を後にした。
「真尋はどう?」
「え?」
「こっくりさん。もう飽きた?」
私にとって、こっくりさんがいるかいないかはどっちでもいい。ただ、楽しい友達との時間を過ごすことさえできれば、ただそれだけで良かった。
「私も、もういいかな」
「そっか」
それが叶わないなら、そんなものはもう不要だ。
*
翌日、トイレの個室から出ると京香と天童が二人でいるところにばったり出くわした。
一瞬で心に暗雲が立ち込めた。同じ高校に通う以上、いくらでもありえる場面ではあったが、今最も会いたくない組み合わせだった。
「あら、真尋」
京香が私に気づいて声をかける。私は何て言っていいか分からず、うんと小声で曖昧に答えるのが精一杯だった。私は逃げ出すように二人の横を潜り抜けようとした。
「眞鍋とウチら、中学一緒なんだよね」
すれ違いざま、制服の袖が触れそうになったその瞬間、天童の言葉が私を止めた。
眞鍋と天童の意外な繋がり。ということは、京香も。
「最後の質問、あれ本当に間違ってたの?」
息が止まった。
もう嫌だ。やめてくれ。どうして私がこんな思いをしなくちゃいけないんだ。
私は無言で頷いた。
「本当に?」
天童がしつこく問い質した。
いいじゃないか。私はあなたが怖くて、あなたの為に自分の想いを諦めると言ってるのだ。これは正式な敗北宣言だ。もともと告白する勇気もない臆病者なのだ。勝手にすればいい。
「本当だよ」
天童に背を向けたまま答える。
瞳が潤み、声は震えた。なんて、惨めなんだろう。
「じゃあ、大丈夫か」
そうだ。大丈夫なんだ。だから、勝手にしてくれ。
「こっくりさんって嘘ついたら駄目らしいからな。本当なら問題ないわ」
ーー……え?
なんだそれ。そんな話聞いたことない。
「大丈夫よ。私も再確認したもの。ね、真尋?」
“本当に?”
あの時の京香の声がよみがえる。
「今日ね、遥と私で一応最後の答え合わせをするの。もう一度こっくりさんを呼んで」
最後の答え合わせ。じゃあ結局、私はーー。
「真尋もよかったら来る? あでも、もう飽きちゃったもんね」
昨日からどこか不自然さはあった。声や表情はいつもの京香だが、どこか悪戯めいた悪意を忍ばせる瞬間が幾度もあった。
天童と私。本当の友達と、上辺の友達。なんとなくそんな言葉が浮かんだ。
恋か呪いか。
ただの遊びのはずだったのに、まさかそれが命運を分けるような大きな選択になるだなんて思うわけがない。
今がきっと最後のチャンスだろう。
呪われたくなければ、真実を告げればいい。
けどもし真実を告げたらーー。
”言いたいことがあるならはっきり言いなさい”
頭の中で、京香の口癖が何度も響いた。
ーー私は、眞鍋優次が……。




