第8話 初収穫
ライムたちがトライアで一夜を明かし、2日目がやって来る。
環境の変化は、人によっては大きなストレスになるが、彼らは特に問題なさそうだ。
以前からの家具や寝具を使っているのも、プラスに働いているのかもしれない。
予定通り早朝に起床して、身支度を整える。
ルビーとマリンが、楽しそうに互いの髪を整え合っている――などと言うことはなく、それぞれ自分で行っていた。
幼い頃はそのような光景も見られたが、最近はそんな素振りは一切ない。
そのことをライムは少し寂しく思いつつ、彼女たちが深い部分では繋がっていると知っている。
世の中の兄弟や姉妹には様々な関係性があるが、表面上はともかく、2人の相性は決して悪くないとライムは考えていた。
性格は全然違うが、波長が合っているのは間違いない。
何はともあれ、準備を終えた3人は家を出て、早速とばかりに魔塔へ向かう――その前に――
「ライムくん、ルビーちゃん、マリンちゃん、行ってらっしゃい! 気を付けてね!」
「行って来ます、パメラさん」
「また夜に来てあげるわ!」
「お弁当は、後ほど頂きます」
『月夜の歌声』で朝食を摂った3人は、店先でパメラに見送られた。
マリンの言った通り、弁当まで用意してもらっている。
まだ少しの付き合いながら、すっかりお得意様のような扱いになっていた。
当初はパメラに良い印象を持っていなかったルビーたちも、彼女がさほどライムに迫る気配がないことで、ひとまず許している。
その上で美味しい料理を提供してくれる為、昨夜のパーティを切っ掛けに、かなり打ち解けていた。
娘たちが胃袋を掴まれているように感じたライムだが、むやみに敵対するよりはよほど良い。
パメラに向かって、ルビーは元気いっぱいに、マリンは上品に手を振りながら歩を進め、彼女もそれに応えている。
ライムは肩越しに顔だけで振り向き、微笑を浮かべて軽く頭を下げた。
それを受けたパメラは、若干顔を赤らめていたが、辛うじて態度には出さずに済んでいる。
そうして北区画から中央区画に入り、魔塔の傍までやって来た3人だが、今日は昨日と様子が違っていた。
具体的に言うと、50人ほどの集団の姿がある。
ギルドの総人数ならともかく、1度に魔塔に潜るにしては多い。
しかも、かなり強力な挑塔者が集まっているようだ。
全員が闘志を剥き出しにしており、遠目からでも戦意に満ちているのがわかる。
双子は何事かと驚いており、ライムもそれとなく状況を窺っていた。
すると、集団の先頭に立っていた青年が振り返り、全員に向かって声を上げる。
「皆の者、遂にこのときが来た! 我ら『太陽の剣』が、歴史を塗り替えるときが!」
『おぉぉぉぉぉッ!!!』
青年の言葉に対して、集団――4大ギルドの1つ、『太陽の剣』のメンバーが興奮した声を返した。
あまりの迫力に、ルビーとマリンはビクリと肩を震わせたが、ライムに頭を撫でられて落ち着いている。
そんな彼らに構わず、青年は尚も声を張り上げた。
「目指すは80階層! 最低でも、記録更新を狙う! その為の準備はして来た! 上層に行けるのは限られた者だけだが、そこに至るまでには全員の力が必要だ! 長い旅路になるだろう! 覚悟は出来ているか!?」
『おぉぉぉぉぉッ!!!』
「良し! それでは手筈通りに、第1部隊から出発しろ! 『太陽の剣』に栄光あれ!」
『栄光あれッ!!!』
空気が震えるほどの大音声が響き、『太陽の剣』が魔塔に入って行く。
かなりの大荷物で、長期的な挑戦を視野に入れているようだ。
荷物持ちは、何人ものホムンクルスが担当しており、無機質な表情で足を動かし続けている。
その様子を双子は、少し悲しそうに眺めていたが、ライムの意識は別のところにあった。
メンバーを鼓舞していた青年が、一旦後方に下がって来る。
歳はヒサツグと同じか、少し下に見えた。
爽やかな白金の髪に、強い光を宿した金眼。
身長は190センツ近く、逞しい体付き。
白金の全身甲冑に、白金の盾。
そして腰に佩いた、明らかに異様な雰囲気の細剣。
ほぼ間違いないと思いつつ、ライムが注意を向けていると、そこに1人の女性が歩み寄る。
「お疲れ様、ホープ。 しっかりと、リーダーとしての役割を果たしたわね」
年の頃は、20代半ば前後。
三つ編みにした水色の髪に、優し気な空色の瞳。
身長は女性にしては高い方で、160センツ台後半。
胸元はルビーやマリンよりも、一回り大きい。
足元まである白いドレスに、金の腕輪を装備している。
彼女の言葉から、やはり青年――ホープがリーダーだったと、改めて確認したライム。
だが、声を掛けられたホープは若干憮然として、女性に言い返した。
「茶化さないでくれ、ミュール。 まだ何も始まっていない。 それに、わたしがこう言うことを苦手にしていると、知っているだろう?」
「えぇ、知っているわ。 だからこそ、労っているのよ。 貴方にとっては魔物と戦う方が、よほど楽なんでしょうね」
「わかっているなら、代わってくれないか? キミがリーダーでも、誰も文句など言わないさ」
「それは無理よ。 『太陽の剣』のリーダーは、ホープ=ガルシアにしか務まらないの。 これまでも、これからもね」
「……フルネームで呼ばないでくれないか、ミュール=アスタ?」
「あら、ごめんなさい。 さぁ、そろそろ行きましょう。 ネスとヨルダンに前線は任せてあるから、わたしたちは最後尾を務めるわよ」
「わかっている」
ミュールにからかわれたホープだが、すぐに気持ちを切り替えて魔塔に向かって行った。
その背中を見つめながら、ライムは少しばかり驚いた声を発する。
「ホープ=ガルシアとミュール=アスタ……ガルシア家とアスタ家の人間か」
「ご存知なのですか、お父様?」
「直接面識がある訳じゃない。 ただ、ガルシア家とアスタ家は世界的に有名な家系で、古くから親交があったようだ。 家柄を考えれば、挑塔者などにならなくても、生活に困ることはないはず。 そのことを思えば、ここにいるのは意外だ」
「そうかな? あたしは、ちょっと気持ちがわかる気がするけど」
「どう言うことだ、ルビー?」
「だってパパ、あたしたちも普通に暮らすだけなら、挑塔者になる必要なんかなかったもん。 でも、それじゃあつまんないって思ったから、トライアに来たでしょ? だから、あの人たちもそうなのかなって」
「確かに、そうかもしれないわね。 本当のところはわからないけれど、彼らには彼らの事情があるのでしょう」
「……その通りだな。 わたしは、表面的なことしか見ていなかったらしい。 2人とも、良い着眼点だ」
「えへへ~、褒められちゃった!」
「こ、この程度のこと、褒められるほどではありません……」
「何よ、マリン! ホントは嬉しいくせに~」
「う、うるさいわね。 そのようなことより、わたくしたちも行くわよ」
「まったく、相変わらず素直じゃないんだから。 パパ、行こう!」
ライムからすればちょっとしたことだったが、やる気を滾らせた娘たちが、魔塔の入口へと足を踏み出す。
単純ながら頼もしい背中に、苦笑を漏らした彼も続き、昨日で見慣れた大森林を視界に捉えた。
まだ『太陽の剣』とはそれほど離れておらず、彼らを追い掛ければ安全に攻略出来るが――
「マリン、こっちからにしない?」
「そうね。 その方が訓練になるし、ジェニムも稼げるから」
「じゃあ、決まり!」
「行きましょう」
迷わず別のルートを選ぶ双子。
どこまでも貪欲に成長を望む娘たちを、ライムは誇らしく思った。
ゴブリンなど、最早彼女たちの敵ではないが、これは心構えの問題だ。
真紅の双剣と蒼い長槍を顕現させた2人は、真剣な面持ちで大森林に侵入する。
頻繁に襲い来るゴブリンを蹴散らし、魔石を回収しながら歩み続けた。
2度目と言うこともあり、昨日よりも圧倒的に速く階段に到着する。
ここから先は初めての領域で、ルビーたちも微かに緊張していたが、決して怯んでいる訳ではない。
ライムに振り返った双子の目には、やる気が漲っていた。
そのことを察した彼は大きく頷き、端的に告げる。
「行こう」
「うん!」
「はい……!」
ライムの言葉に力強く答え、ルビーとマリンが階段に足を掛けた。
1段1段、ゆっくりと踏み締めて、2階層へと上がって行く。
この時点で『太陽の剣』とは大きく離れていたが、だから何だと言うのか。
彼女たちが焦ることはなく、自分たちのペースで攻略して行こうと決めている。
そんな娘たちをライムが優しく見守っていると、やがて見えたのはまたしても大森林。
これに関してはわかっていたことで、初層は全て同じ構造だ。
ルビーとマリンは、それすらも初見で行こうとしていたが――
「ある程度、事前に調べる能力も必要だ。 リーナさんから資料をもらっただろう? 上手く活用するように」
と言うライムの指示を受けて、昨夜のうちに資料を、隅から隅まで読み込んでいる。
その結果、彼女たちは初層に関してかなり詳しくなっており、2階層に足を着けるなり周囲を注意深く探った。
「近くには、いなさそうね……」
「みたいね。 派手だから見落とすことはないと思うけど、注意して行きましょ!」
「言われるまでもないわ。 お父様は、ゆっくりなさって下さいね」
「あぁ。 2人とも、気を付けてな」
「うん、パパ!」
「頑張ります……!」
気合を入れ直して、双子が武器を握り直す。
これなら心配ないと思ったライムは、内心で微笑んでいた。
しかし、表面上は真剣な顔で、森の奥を見つめる。
この階層に出現する魔物は、ポイズンフラワー。
その名の通り、毒の花粉が厄介。
死に至るようなものではないが、数日寝込む程度には強力。
とは言え、油断さえしなければ、彼女たちが遅れを取ることはないだろう。
そう信じつつも、何かあれば介入する気満々なライム。
内心を悟られないように気を付けながら、彼は娘たちのあとに続いた。
集中しているらしく、しばし無言の時間が続いたが、やがてあるものが視界に映る。
「あ! あれって、資料に載ってた果物じゃない?」
「そのようね。 状態も良さそうだし、食べてみる?」
「うん! パパにも取ってあげようっと!」
「待ちなさい! 抜け駆けしないで! わたくしだって、お父様に食べて頂きたいわ!」
「何よ! 早い者勝ちでしょ!?」
「そんなこと、誰が決めたのよ!?」
「あたしよ!」
「なら却下ね!」
「なんでよ!?」
低次元なことで、ギャアギャアと言い合う双子。
今日はまだ1度目の喧嘩なので、取り敢えず放っておいたライムだが、いつまでもと言う訳には行かない。
ここは、魔塔なのだから。
「そこまでだ、2人とも。 両方とも食べるから、1つずつ取ってもらえるか?」
「う~! わかったよ、パパ!」
「止むを得ませんね……」
周囲への警戒は続けながら、果物採集を始めるルビーとマリン。
2つは多いと思ったライムだが、こうなったからには、食べないと言う選択肢はない。
思わず苦笑しつつ、改めて魔塔に関して考えを巡らせた。
1階層には特に何もなかったが、2階層からはちょっとした収穫がある。
上に行けば行くほど、得られるものの質も量も良くなるそうだが、初層に関しては似たり寄ったり。
果物や野菜がほとんどで、運が良ければ薬草なども見付かる。
挑塔者のほとんどが、このエリアで活動している訳だが、魔石の収入と合わせても、大金にはならないらしい。
反面で、一定水準以上の生活は可能。
強大な魔物と戦って命を落とすリスクを考えれば、それで良しとする者が多くても、ある程度は納得出来た。
もっとも、娘たちはそうではないが。
「はい、パパ!」
「どうぞ、召し上がって下さい」
ニコニコ笑ったルビーと、微笑を湛えたマリンから差し出された、2つの赤い果実。
受け取ったライムも微笑んで、礼を伝えた。
「有難う。 2人も食べてくれ」
「うん! 頂きます!」
「どのような味か、楽しみですね」
ワクワクを隠し切れない双子。
彼女たちにとっては、初めての収穫なのだから、それも致し方ないかもしれない。
そうして3人は、同時に果実を口にしたのだが――
「う~ん……」
「あまり美味しくないですね……」
眉根を寄せるルビーと、しょんぼりしているマリン。
2人の様子に苦笑したライムは、2口目を食べてから告げる。
「まだ2階層だからな、こんなものだろう。 上の階層になれば、もっと美味しいと思うぞ」
「む~。 ごめんね、パパ。 無理して食べなくても良いよ?」
「ルビーの言う通りです。 お父様には、もっと美味しいものを食べて頂きたいですから」
「そうは行かない。 これはわたしが、大事な娘たちからもらったものだ。 有難く食べさせてもらう」
「パパ……!」
「そのようなことを言われては、頬が緩んでしまいます……」
ライムの言葉にルビーは目を輝かせて感激し、マリンは嬉しそうにモジモジしている。
そんな彼女たちにライムは苦笑しつつ、宣言通り果物を完食した。
双子も食べ終わっており、食べ物を粗末にすることはない。
味は良くなかったものの、3人にとっては楽しい時間だったが――
「……! ルビー」
「うん、来たわね。 正面から2体と、右方向から2体かな?」
「そのようね。 わたくしが正面を担当するから、貴女は右側を始末して」
「偉そうに命令しないで! ……って言いたいところだけど、喧嘩してる場合じゃないから引き受けてあげる」
「素直じゃないわね。 最初から言うことを聞きなさい」
「あんたに素直じゃないとか、絶対言われたくないんだけど!? もう良いから、集中してよね!」
喧しく言い合いながら、2人が一気に戦闘モードに移行する。
呆れと感心が綯交ぜになった気持ちを抱えつつ、ライムもいつでも割って入れる準備をした。
すると、森の奥から現れたのは、毒々しい花弁の真ん中に顎が付いた、植物型の魔物。
情報通り、ポイズンフラワーだ。
動きは遅く攻撃範囲はさほど広くないが、前述したように毒の花粉に注意が必要。
改めて気を引き締めた様子の双子は、ほぼ同時に駆け出した。
「はぁッ……!」
あっと言う間に距離を詰めたマリンが、ポイズンフラワーに反応させる間もなく、1体を長槍で貫く。
しかし、そのときにはもう1体が攻撃態勢を整えており、マリンに向かって毒の花粉を噴出した。
対するマリンは迷わずバックステップを踏み、大きく間合いを空ける。
それによって花粉を浴びずに済んだが、攻撃するには踏み込まなければならない。
その場合、未だに漂っている花粉から逃れる術はなく、効果が切れるまで待つかに思われたが――
「吹き飛びなさい……!」
マリンが掲げた左手に魔力が収束し、水の砲撃が放たれた。
凄まじい威力で、ポイズンフラワーを花粉ごと葬り去る。
水属性の初級魔法、【スプラッシュ・カノン】。
効果は単純で見たままだが、威力は使い手の力量に依存する。
その観点から見れば、マリンの【スプラッシュ・カノン】は相当なレベルだった。
そうして彼女が危なげなく魔物を処理していた間、ルビーも決して遊んでいた訳ではない。
「やぁッ!」
マリンと同等以上の速さで接近した彼女は、双剣を交差させるかのように振り切る。
それによって、眼前のポイズンフラワーを撃破し、残るは1体。
マリンのときと同様に花粉が吐き出され、ルビーを毒さんとした。
ところが、それを予見していた彼女は後方宙返りして範囲から逃れ、上空から魔法を繰り出す。
「それッ!」
ルビーの周囲に10本の炎の矢が生成され、一斉に射掛けられた。
全身を穴だらけにされた上に、燃やされたポイズンフラワーは、塵と消える。
火属性の初級魔法、【ファイア・アロー】。
こちらも性能は見たままではあるが、矢の本数は使用者の力量次第。
並の使い手なら多くても5本が良いところなので、ルビーが類稀なる才能を秘めている証左。
ちなみに、本来なら魔法を使用する際には、詠唱が必要となる。
何故なら、その属性に応じた精霊たちに、自分の意志を伝えなくてはならないからだ。
だが、正確にそれが可能なら、詠唱なしでも発動が可能。
ただし、実現するのは難しく、そう言う意味でも彼女たちは、飛び抜けた実力者だと言える。
尚、普通に詠唱するのは完全詠唱、魔法名だけで使うのは簡易詠唱、意志だけで発動するのは無詠唱。
詠唱を省略すればするほど難易度が跳ね上がり、威力を出すのも困難になる為、何でもかんでも無詠唱にすれば良いと言う問題でもない。
補足するなら、属性は地、水、火、風の4属性に分かれ、それぞれの人間に適性がある。
習得する魔法の種類にも得意不得意があるので、自分に合った魔法を選んで訓練するのが大事。
残念ながら、実戦で使えるほどの魔法を身に付けられるのは、限られた者だと言うのが現実だが。
話が少し長くなったが、要するにルビーたちは、魔法の水準も高いと言うこと。
しかし、2階層に来ても危なげない勝利を飾ったにもかかわらず、2人は微妙に不満そうな顔をしている。
そのことを不思議に思ったライムは、歩み寄りながら問い掛けた。
「どうかしたか、2人とも? 見事な戦いだったと思うが」
「うぅん……。 何て言うか、この程度の相手に魔法を使ってちゃ、この先が思いやられるなと思って……」
「わたくしも、同じことを考えていました……。 もっと、魔力を温存した戦い方をしないと、先には進めないのではないかと……」
「なるほどな……」
娘たちの思いを知ったライムは、苦笑しながら頭を撫でた。
実際、魔塔において魔力は、貴重なエネルギーだと言える。
魔力は世界中に溢れており、人間はそれを取り込むことで回復することは出来るが、ハイレベルな使い手でも効率は良くない。
睡眠によって大きく回復出来るとは言え、言うまでもなく頻繁に取れる手段ではないだろう。
また、魔力を扱う技術そのものや、魔法の精度は訓練によって上達する一方で、魔力の総量は天性のもの。
つまり、保有出来る魔力が多いと言うことは、魔塔攻略において非常に有利な才能だ。
そしてルビーたちの魔力総量は、はっきり言って尋常ではないほど膨大な量。
もっとも、基本的に他人の魔力総量を調べる術はない為、本人たちはその事実を知らない。
唯一、事情を把握しているライムは手を動かし続け、それを受けた双子は驚いていたが、彼は構わず言い放った。
「まだ、そこまで考える必要はない。 勿論、魔法に頼り切った戦い方は良くないが、今のうちに実戦で慣らしておくのも悪くないだろう。 魔力を温存することも考えつつ、機会があれば練習感覚で使ってみれば良い。 わたしたちの攻略は、始まったばかりなんだからな」
「パパ……。 うん、わかった! じゃあ今日は、あまり先のことは考えずに行くね!」
「わたくしたちは、足元を疎かにしていたのかもしれません……。 有難うございます、お父様。 お陰で目が覚めました」
「わかってくれて良かった。 じゃあ、ここからも油断せずに行こう」
「はーい! 張り切って行くわよ!」
「元気だけは良いわね。 元気だけ、は」
「何を強調してんのよ!?」
「気にしないで、感心していただけだから。 ある意味ね」
「それ、絶対褒めてないわよね!? ホント陰湿なんだから! いつか、パパに愛想を尽かされるわよ!?」
「な……!? いい加減なことを言わないで! お父様は、わたくしを愛して下さっているのだから!」
「ふ~んだ! そう思っておけば良いんじゃない?」
「もう許せないわ……! 覚悟しなさい!」
「上等よ! 返り討ちにしてやるわ!」
至近距離で睨み合っていた双子が、死闘を始めようとした――が――
「約束その1」
『う……!』
「わたしは油断せずに行こうと言ったんだが、聞こえなかったか?」
「ごめん、パパ……」
「申し訳ありません……」
「謝る相手が違うだろう。 無駄に挑発したマリンも、酷いことを言ったルビーも、2人とも悪い」
ライムに冷たく窘められたルビーたちは、互いに憮然とした態度で相対した。
そのまましばしのときが経過したが、ほぼ同時に口を開く。
「ごめん……」
「悪かったわ……」
極めて小さな声だったが、確かに謝罪し合った。
それを確認したライムは苦笑し、改めて2人の頭を撫でる。
双子は不安そうにしていたが、彼は既に切り替えていた。
優しく彼女たちの背中を押して、声を掛ける。
「行こう」
「う、うん!」
「今度こそ……」
ライムに促されたルビーたちは、やる気に満ちた顔で前を歩き始めた。
コロコロと表情が変わる娘たちに、こっそりと苦笑を浮かべつつ、ライムもゆっくりとあとを追う。
その後、彼らは順調に2階層も踏破して行き、午前中には3階層への階段を発見した。
ここまで有難うございます。
面白かったら、押せるところだけ(ブックマーク/☆評価/リアクション)で充分に嬉しいです。
気に入ったセリフがあれば一言感想だけでも、とても励みになります。




