表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第1章完結】最強ホムンクルスは娘を守り抜く――過保護は止まらない。父と双子の魔塔都市トライア攻略  作者: YY


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/25

第7話 予知

 月明かりの差し込む、石造りの寝室。

 清らかかつ静かで、非常に神聖な空気が満ちている。

 ただし、様々な資料や魔道具が散乱しており、若干台無しになっていた。

 そんな中、清潔に保たれている豪華なベッドの上で、1人の少女が眠っている。

 暫くは、穏やかな寝息が聞こえて来ていたが――


「……ッ!」


 突然、跳び起きた。

 明らかに自然の覚醒ではなく、何か原因がある。

 胸に手を当てて深呼吸した少女は、数秒で落ち着きを取り戻した。

 ベッドから下りて窓に歩み寄り、月を見上げる。

 歳は10代半ばくらいに見えるが、どことなくミステリアスな雰囲気。

 薄紫のウェーブロングヘアーに、眠たげな銀の瞳。

 これは、寝起きだからと言う訳ではなく、彼女の特徴。

 身長は140センツ台半ば程度にもかかわらず、胸元は意外と育っていた。

 今は寝間着姿で、紛れもなく美少女だが、何を考えているかはわからない。

 するとそのとき、寝室のドアがやや乱暴に開かれる。

 夜中に少女の部屋に入るにしては、控えめに言っても不作法に思えるが、当人はそれどころではなかった。


「シャル!? 何かあったの!?」

「も、物音がしたけど、大丈夫……?」


 大慌てでシャル――本名シャルロット=ミニオに駆け寄ったのは、オレンジの髪をワンサイドアップにした少女。

 歳はシャルロットより、若干上に見える。

 身長は160センツほどで、胸元は平均的。

 彼女も美少女だが、敵襲を警戒しているのか、赤い瞳を険しくしていた。

 身に付けているのは、白いノースリーブの軽装。

 名前はアンと言い、シャルロットが作ったホムンクルスだ。

 かなり人間的で、ライムと同様に特殊な個体だと言える。

 その後ろから、怯えたように歩み寄って来たのは、アンと良く似た美少女。

 違う点を挙げるなら、ワンサイドアップの向きが彼女と逆なことと、目の色が青いこと。

 物憂げに瞳が揺れており、大きな不安を感じていると察せられる。

 名前はドゥーで、シャルロットに作られた2体目のホムンクルス。

 2人から呼び掛けられたシャルロットだが、返事もせずに窓の外を眺め続けていた。

 そのことを訝しく思いつつ、アンとドゥーはひとまず危険がないことに、ホッと息をついている。

 すると、それまで沈黙を保っていたシャルロットが、唐突に口を開いた。


「トライアで何かが起きる」

「え?」

「な、何かって……何……?」

「それはまだわからない。 良いことか悪いことかも、はっきりしない」

「何よそれ? 【至神の書(ウラノス)】で見える未来は、もっとはっきりわかるんじゃないの?」


 そう言ってアンが目を向けたのは、シャルロットのベッドの枕元に置かれた、1冊の分厚い本。

 色は白く、表紙に複雑な紋様が描かれている。

 これは【至神の書】と呼ばれる、魔道具――ではなく、魔塔武装(バベル・ギア)

 魔塔武装は名称のままで、魔塔で入手出来る特殊な武器などの装備だ。

 途轍もなく貴重で、持っている者は数えるほどしかいない。

 そして、【至神の書】の能力の1つは、受動的な未来予知。

 自分から知ろうとするのではなく、強制的に予知夢と言う形で、所有者に伝えられる。

 タイミングや条件は不明だが、的中率は脅威の100%。

 自由自在と言う訳ではないとは言え、確実な未来が予見出来るのは、大きなアドバンテージ。

 しかし今回、シャルロットが見た予知夢は、酷く曖昧なものだった。

 それゆえに言葉を濁した彼女だが、黙り込むことはしない。


「何が起きるかはわからないけど、その中心になる人が誰かはわかってる」

「そ、そうなの……? じゃあ、その人に関わらないようにすれば……」

「ドゥー、そうじゃない。 わたしは、その人たちに接触しようと思う。 面白そうだから」

「でも、危なくないの? 『導きの乙女』は、リーダーであるあんたの予知があってこそなんだからね? 無茶はして欲しくないんだけど」


 そう、シャルロットは『導きの乙女』のリーダー。

 少し特殊なこのギルドのメンバーは、奇跡とも言える彼女の予知を崇拝している、信者が大部分を占めている。

 その規模は南区画の住人、ほぼ全員。

 アンとドゥーは違うが。

 何より、本人にその気がない。


「そんなこと知らない。 わたしは、わたしの好奇心に従って行動する。 リーダーを引き受けてるのだって、研究資金をくれるって言うから、仕方なくだし」

「まぁ、あんたならそう言うと思ってたけど……。 ドゥーはどう思う?」

「わ、わたしは出来れば、やめて欲しいけど……。 シャルが言っても聞かないのは、わかってるし……」

「だよね。 はぁ……仕方ないから、あたしたちも付き合ってあげる。 それで? 中心になる人って誰なのよ?」


 煩わしそうにしつつ、内心ではシャルを案じているアン。

 そんな彼女に視線を移したシャルロットは、床に落ちていた水晶型の魔道具を拾って起動させる。

 同時に、3人の人物が空中に映し出された。

 それを見たアンとドゥーは、驚いたように声を発する。


「これ、『宝石姫』ってギルドじゃない? 確か、今日設立したばかりの。 ホムンクルスがリーダーだって、話題になってたから覚えてる」

「わ、わたしも知ってる……。 なんか、『影狼』さんと揉めたって聞いたけど……」

「揉めたと言うよりは、一方的に絡まれただけっぽいけどね。 それよりシャル、本当にこいつらが何かを起こすって言うの? 1階層の攻略速度は凄かったけど、今のところ正直そこまでとは思えないわね」


 半信半疑なアンは、遠慮なく疑問をぶつけた。

 ドゥーは黙っていたものの、気持ち的には彼女と大差ない。

 だが、シャルロットは全くぶれることなく言い切る。


「この人たちが何かするとは限らないけど、関わって来るのは間違いない。 仮にそうじゃなくても、ギルドを設立したホムンクルスには興味がある」

「ふーん。 あたしたちだって、やろうと思えばそれくらい出来るわよ」

「アン、わたしはそう言うのはちょっと……」

「それは性格の問題でしょ? 機能的には、負けてないと思うわよ」

「別に、2人が彼に劣ってるなんて思ってない。 だから拗ねないで」

「拗ねてないし!」

「わかったから、静かにして。 近所迷惑」

「この辺りにいる奴らは、皆あんたを崇拝してるんだから大丈夫よ!」

「アン、そう言う問題じゃないと思う……」

「う、うるさいわよ、ドゥー! とにかく! あたしたちは、そんなぽっと出のホムンクルスなんかに負けないんだから!」

「喧嘩しに行く訳じゃない。 ちょっと会いに行くだけ。 すぐには動けないかもしれないけど」

「……良いわ。 あたしが直々に品定めしてあげるから、絶対連れて行きなさいよね!」

「わかった。 じゃあ、そろそろ寝る。 お休み」

「お、お休みなさい、シャル……。 アン、行こう……?」

「ふん! どんな奴か、会うのが楽しみね!」


 マイペースにシャルロットはベッドに戻り、アンは鼻息荒く、ドゥーは静かに寝室を出て行く。

 こうしてライムたちは、知らないところで大物から注目されるのだった。

ここまで有難うございます。

面白かったら、押せるところだけ(ブックマーク/☆評価/リアクション)で充分に嬉しいです。

気に入ったセリフがあれば一言感想だけでも、とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ