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第23話 約束その4

 ライムの働きを肌で感じながら、ルビーとマリンはトロールと相対した。

 近くで見ると相当大きく、見上げるほど。

 口の端から涎を垂らし、獰猛な気配を撒き散らしている。

 明らかに双子を狙っており、ライムには見向きもしていない。

 望むところだと考えた彼女たちは、横目で一瞬視線を交換し、一気に戦端を開いた。


「行くわよ! マリン!」

「えぇ。 お父様に勝利を捧げましょう」


 強気な笑みを浮かべたルビーと、静かに熱いマリンが左右から突貫する。

 対するトロールは、棍棒を尋常ではない速度で、マリンに振り下ろした。


『ガァッ!』


 パワーファイターかと思われていたが、攻撃速度は途轍もない。

 しかし、それくらいはして来ると予見していた彼女は、直前で急停止して、右に跳ぶことで避ける。

 空振りに終わった棍棒が地面を叩き、大きく陥没させた。

 まともに受けるのは危険だと、マリンが気を引き締め直していた一方で、ルビーは止まらない。


「がら空きよッ!」


 トロールがマリンを狙った隙に、懐に潜り込んだルビー。

 常の彼女なら、いきなり勝負を決めに掛かったかもしれないが、マリンに細心の注意を払うように言われていたことで、慎重な行動を選択する。

 具体的には、まずは相手の機動力を奪いに行った。

 丸太のように太い右脚を、双剣を交差させるように斬り裂く。

 これで多少は、有利に戦えると考えていたが――


『ゲゲゲ!』

「固ッ!?」


 弾かれた。

 厳密に言うと、全く通用していない訳ではない。

 だが、これまで一撃必殺だった攻撃が、肌を少し傷付けただけに留まっている。

 悔しく思ったルビーだが、そのような暇はなかった。

 怒り狂ったように唾を飛ばしたトロールが、今度は棍棒をルビーに叩き付ける。

 バックステップを踏むことで躱した彼女の前で、地面が粉砕され、轟音を奏でた。

 ルビーは相手の攻撃を受け流す技術に長けているが、これは流石に難しいと感じている。

 だからと言って彼女が諦めることはなく、再度突撃しようとしたが、その目に信じられないものが映った。


「ちょっと!? トロールに自己再生能力なんかあった!?」

「だから言ったでしょう。 変異種には常識が通じないのよ」


 叫喚を上げるルビーと、冷静ながら硬い面持ちのマリン。

 2人が見る先では、トロールがルビーに傷付けられた傷を修復していた。

 大した傷ではなかったが、だとしても厄介な事実。

 ルビーはどう攻めるべきか迷い、悔しそうに歯噛みしていたが、そこに冷ややかな声が聞こえた。


「あれだけ大口を叩いておいて、それなの? そのようなことなら、大人しくお父様にお任せすれば良かったでしょう」

「うっさいわね! 今、考えてるんだから、黙ってて!」

「馬鹿が考え過ぎても、ろくなことにならないわ」

「何ですって!? あんた、この期に及んで喧嘩売ってんの!?」


 マリンのあまりと言えばあんまりな言い草に、ルビーは半泣きで噛み付いた。

 だが、彼女は意に返すことなく、あくまでも淡々と告げる。


「好きに戦いなさい。 わたくしがフォローするから」

「え?」

「何度も言わせないで。 わたくしがフォローするから、貴女は好きに戦いなさい」

「……ふん、良いわ。 付いて来れるものなら、付いて来なさい!」


 マリンによって余計な思考を削ぎ落としたルビーが、一気呵成にトロールを攻め立てる。

 迫り来る棍棒を紙一重で回避して、懐に到達すると同時に左脚を袈裟斬りにした。

 やはり大したダメージにはならず、傷も浅いが――


「どうと言うこともないわ」


 修復が始まる前に、マリンが傷口に長槍で刺突を放つ。

 突破するには至らないものの、若干ながら傷が深くなった。

 それを見たルビーはマリンの狙いを悟り、ニヤリと笑って間髪入れずに双剣を繰り出す。

 マリンが広げた傷口にヒットさせ、またしても被害を拡大させた。

 煩わしく思ったのか、トロールは棍棒を両手で握り、遮二無二振り回す。


『グガァ!』

「おっと!」

「野蛮ね」


 双子は退避せざるを得なかったが、いつまでも攻撃は続かない。

 トロールの動きが止まったのを見逃さず、彼女たちは時間差で動き出した。

 ルビーとマリンが交互に傷口を痛め付け続け、互いに敵の攻撃を引き付ける役目も果たす。

 攻撃を仕掛ける、棍棒を避けつつ交代、チャンスを見付けて再度突撃。

 これを僅かなズレもなく、完璧なコンビネーションで続けていた。

 双子ならではの連携で、本人たちは認めたくないかもしれないが、見事と言うほかない。

 そして遂に、そのときが訪れる。

 左脚に細かなダメージを蓄積させたトロールが、巨体を支え切れなくなり、地面に片膝を突いた。

 最大のチャンスを得たと思ったルビーは、柳眉を逆立ててトロールの眼前に跳躍する。

 ずっと考えていた標的、それは眼球だ。

 いくら耐久力が高いとは言え、そこだけは別のはず。

 腕を引き絞った彼女は、全力で右の剣を突き出し――


「なッ!?」

『ギギギッ!』


 口で防がれた。

 ルビーの剣を噛んで止め、彼女の体を空中に固定する。

 トロールはニヤリとした笑みを浮かべており、このときになってルビーは思い知った。

 自分が、罠にはまったのだと。

 通常のトロールにそのような知性はないが、この個体は別である。

 それでもすぐに武器から手を離せば、体の自由を取り戻すことは出来たが、判断が一手遅かった。

 棍棒を振り上げたトロールが、コンパクトにルビーに叩き付ける。

 次いでやって来るだろう激痛を、彼女はなんとか堪えようとしたが、そうはならなかった。


「くッ……!」

「マリン!?」


 ルビーと棍棒の間に割って入ったマリンが、辛うじて長槍でガードする。

 しかし、完全に勢いを殺すことは出来ず、ボールのように吹き飛んで地面を何度もバウンドした。

 パニック寸前ながらも辛うじて立ち直ったルビーは、一旦武器を収納し、大急ぎでマリンの元に駆け寄る。

 その顔には、いつもの快活さはなく、涙でクシャクシャになっていた。

 マリンは痛みに顔を顰めているものの、命に別状はない。

 僅かにふら付きながらも立ち上がり、額に手を当てている。

 ホッとしたルビーだが、次の瞬間には喚き始めた。


「あんた、なんて無茶すんのよ!? 下手したら死んでたかもしれないのよ!?」

「大声を出さないで……。 まだ、頭が痛むのよ……」

「あ……ご、ごめん……。 じゃなくて! なんであんな馬鹿なことしたのよ!? あたしには、散々慎重に行動しろって言ったくせに!」


 涙ながらに叫ぶルビーを、マリンはジッと見据えたかと思えば、唐突に視線を外した。

 そんな彼女をルビーが訝しく思っていると、マリンはたどたどしく言葉を紡ぐ。


「……わからないわ」

「は?」

「気付いたら、体が動いていたの。 だから、何故と言われてもわからないわ」

「な……何よそれ!? あたしより、よっぽど考えなしじゃない! 馬鹿なの!?」

「うるさいわね! 仕方ないでしょう!? わたくしだって、わからないこともあるわよ!」

「バーカ! バーカ! マリンのバーカ!」

「この……! いい加減に――」


 瞬間、マリンの声が途切れる。

 今、彼女が感じているのは、片割れの体温。

 ルビーに強く抱き締められたマリンは、彼女の体が震えていることに気付いた。

 嗚咽も漏れており、よほど怖い思いをさせてしまったらしい。

 声を詰まらせたマリンは次いで溜息をついて、ルビーの頭をゆっくり撫でながら告げる。


「甘えん坊ね。 そのようなことでは、お父様に笑われてしまうわよ?」

「ぐす……うっさい……」

「まったく、仕方ないわね。 体は痛むけれど、わたくしは無事よ。 だから、もう心配しないで」

「別に……心配なんかしてないもん」

「そう。 だったら、そろそろ離れてくれるかしら? まだ戦いは終わっていないわよ」

「わかってるわよ……」


 言葉に反して、名残惜しそうに抱擁を解くルビー。

 一方のマリンも、多少なりとも寂しさを感じていたが、それを正直に言うことはしない。

 その代わりに彼女が口にしたのは、厄介な現実について。


「傷は完全に塞がったようね」

「うん。 同じ手は通用しないと思ってる方が良いかな」

「そうね。 さて、どうしたものかしら……」

「魔法を使えば、もしかしたらなんとかなるかもしれないけど……」

「あまり賛同出来ないわね。 わたくしたちにとって魔法は、補助的なものよ。 メイン火力として使うには、心許ないわ」

「まぁ、確かにね。 でも、じゃあどうするの? 何か良い方法でもある?」

「それは……」


 完全復活したトロールを前にして、ルビーとマリンは頭を悩ませた。

 トロールは嘲るように笑っており、ゆっくりとした足取りで2人に向かっている。

 悔しく思った双子は、止む無く当初の作戦を繰り返そうとして――


「ルビー、マリン、使え」


 いつの間にか近くまで来ていたライムが、泰然と佇みながら指示を出した。

 辺りからは魔物が消えており、新手が現れる気配もない。

 そのことに気付いた双子は驚いていたが、今はもっと大事なことがある。


「い、良いの、パパ?」

「や、約束その4は、『実力が不足している間の使用を禁ずる』……だったはずですが……」

「構わない。 緊急事態だからな。 折角の機会だ、思い切りやれ」

「パパ……。 わかった! やっちゃうから!」

「かしこまりました、お父様。 使わせて頂きます」


 父親の許しを得た娘たちは、魔塔武装を握り直した。

 2人の様子が変わったことに勘付いたトロールだが、どちらにせよ自分に通用することはないと思って笑っている。

 しかし、それは驕りと言うもの。

 双剣を構えたルビーが数舜瞑目し、目を見開いて声を上げた。


「出番よ、【プラーミャ】ッ!」


 瞬間、双剣が馬鹿げた熱量の炎を纏う。

 いや、それは正しくない。

 双剣そのものが、炎と化していた。

 普通に考えれば大火傷を負うところだが、ルビーはむしろ勝気な笑みを浮かべている。

 思わぬ事態にトロールは驚愕していたが、もう1人を忘れてはならない。


「起きなさい、【ヒュドール】」


 マリンがポツリと呟くと同時に、長槍が水で形作られた。

 液体で出来た武器など不安定で仕方ないと思われるかもしれないが、そこに秘められた力は並々ならない。

 見た目の上ではルビーほど劇的な変化はないものの、実態としては全くの別物。

 本能的にそれを察したトロールは、無意識に1歩後退ったが、恐怖を振り払うかのように叫んだ。


『グガァッ!』


 ルビーに向かってジャンプしたトロールが、自由落下の勢いを乗せた一撃を繰り出す。

 今までなら、回避するしかなかったが――


「温過ぎるわよッ!」

『ギャッ!?』


 慌てることなく右の炎剣を振り上げたルビーが、腕ごと棍棒を斬り飛ばした。

 更に、腕と棍棒は燃え尽き、本体の傷口も未だに焼かれている。

 激痛に震えたトロールは、涎を垂らしながら動きを止め、そこにマリンが攻め入った。


「汚らわしいわね」

『ウガァッ!?』


 右脚に向かって放たれた彼女の刺突は、薄紙1枚ほどの抵抗もなく貫く。

 太い脚に風穴をあけられたトロールは絶叫し、前に倒れ込んだ。

 残った左腕で上体を支えているが、文字通り致命的な隙を晒している。

 そして、それを見過ごす彼女たちではない。


「マリン!」

「ルビー!」


 同時に呼び掛けた双子が、残った魔力を【プラーミャ】と【ヒュドール】に注ぎ込んだ。

 途轍もない力が、それぞれの武器に収束し――


「せーのッ!」

「滅びなさい!」


 交差するように振り切られた【プラーミャ】から極炎が迸り、突き出された【ヒュドール】から水の収束砲が放たれる。

 炎と水と言う相反する力が混ざり合い、光の奔流となった。

 地面を抉りながらトロールに迫り――飲み込む。

 あとには激戦の爪痕だけが残され、魔物の姿はない。

 全てを出し尽くしたルビーとマリンは、その場にへたり込んでいた。

 息を荒げており、これ以上の戦闘続行は不可能。

 とは言え、此度の戦いは彼女たちの勝利に終わる――かに思われたが、まだ決着は付いていなかった。


「……ッ! そんな……」

「ふざけんじゃないわよ……!」


 2人の見る先で、吹き飛んでいた肉片が集まり、次第にトロールとなって行った。

 しかも、先ほどとは様子が違う。

 肌の色が赤から紫に代わっており、サイズも500センツに達しようかと言うほど。

 疑いようもなくパワーアップしており、ルビーたちは絶望した。

 やがて完全に復活したトロールは、ギョロリとした目で双子を見下ろし――


「良くやった」


 爆散。

 娘たちを労いながら、ライムが繰り出したボディブローが、今度こそ戦いの幕を下ろす。

 トロールが完全に消滅し、巨大な魔石を落とした。

 何の気負いもなくそれを回収したライムは、双子に歩み寄って両手を差し伸べる。

 ルビーたちは呆然としていたが、ほぼ反射的に彼の手を掴み、引き上げられた。

 心ここにあらずと言った彼女たちに苦笑したライムは、優しく頭を撫でて告げる。


「2人とも、頑張ったな。 父親として誇らしいぞ」

「あ……。 パパ……ごめん……」

「お父様、申し訳ありません……」

「何を謝っているんだ? キミたちは、充分以上に戦った。 何も恥ずべきことなどない」

「でも……結局、パパに頼っちゃったし……」

「最後まで成し遂げられなくて、情けないです……」


 ライムに慰められても、俯いて瞳に涙を溜める双子。

 そんな娘たちを真っ直ぐに見つめた彼は、頭を撫で続けながら口を開く。


「安心した」

「へ……?」

「安心、ですか……?」

「【プラーミャ】と【ヒュドール】は、強力な魔塔武装だ。 ともすれば、その力に溺れてしまっても不思議はない。 だからこそ、わたしは2人に制限を掛けていたが……その必要はなかったかもしれないな。 キミたちは現状に満足せず、更なる高みを目指している。 それは、誰にでも出来ることじゃない」

「パパ……」

「お父様……」

「キミたちは、まだまだ強くなれる。 そうすれば、【プラーミャ】と【ヒュドール】を、もっと使いこなすことも出来るだろう。 そのときが楽しみだ」

「……うん! あたし、強くなる! それで、いつかパパを守ってあげるから!」

「落ち込んでいる時間などありませんね。 わたくしも、必ずやお父様のいらっしゃる高みまで、上り詰めてみせます」


 目を潤ませたまま、ルビーとマリンは花のような笑みを咲かせた。

 対するライムも柔らかな微笑を湛え、娘たちを抱き締める。

 腕の中で2人は、頬をだらしなく緩ませて幸せを噛み締めていたが、あることを思い出して声を上げた。


「お父様、他の魔物はどうされたのですか?」

「もしかして、パパが全部やっつけちゃったの?」

「あぁ、既に出現していた魔物は、全て始末した。 新手が止まったのは……」


 そこで言葉を切ったライムが、抱擁を解いて魔塔の入口を見やる。

 ルビーたちは微妙に残念に思いつつ、彼の視線を追った。

 すると――


「やれやれ……帰って来て早々、驚いたな」

「まさか、魔物が魔塔から出ようとするなんて……。 今までなかったわよね?」

「少なくとも、わたしの記憶にはない。 いきなり撤退し始めたことも含めて、謎が多過ぎる」

「でも、それほど長引かなくて良かったわ。 外がどうなっているかは、わからないけれど……」


 ホープとミュールを筆頭に、『太陽の剣』が姿を現した。

 思わぬ人物の登場に双子は目を丸くしたが、おおよその状況を察している。

 どうやら途中から魔物が出て来なくなったのは、遠征から帰還して来た『太陽の剣』が、入口で足止めしていたかららしい。

 そして彼らの発言が本当なら、もう新手がやって来る心配もなさそうだ。

 改めて戦いが終わったことを実感して、ルビーとマリンはホッと息をついている。

 一方のライムが苦笑していると、辺りに散らばった大量の魔石を見て、ホープが困惑した声を漏らした。


「これは……思った以上に、大変な状況だったようだな」

「そうね。 でも、いったい誰が……」


 ホープの言葉に答えたミュールが、ライムたちを視界に捉える。

 それにつられてホープも気付き、ミュールと揃って真っ直ぐに近寄って来た。

 双子はやや緊張していたが、ライムに頭を撫でられて落ち着きを取り戻す。

 少しばかり距離を開けて、立ち止まったホープたち。

 しばし沈黙が落ちたが、口火を切ったのは彼だった。


「わたしは『太陽の剣』のリーダー、ホープ=ガルシアだ。 こちらは、メンバーのミュール=アスタ。 すまないが、状況を教えてくれないか?」

「わたしは『宝石姫』のリーダー、ライム=ハワードです。 彼女たちは双子の娘、ルビーとマリンです。 状況ですが――」


 自己紹介を終えたライムは、端的に事情を説明した。

 突然、魔塔から魔物が溢れ出たこと。

 東区画が狙われたが、大きな被害は出ていないこと。

 この近辺の魔物は、自分たちが仕留めたこと。

 トロールの変異種まで現れ、謎の復活現象まで起きたこと。

 ホープとミュールは神妙な顔付きで話を聞き、何やら考え込んでいる様子。

 だが、一旦思考を止めた彼は、別の事柄に着手した。


「『宝石姫』と言ったか? 失礼ながら、聞き覚えがない。 最近出来たギルドなのか?」

「えぇ。 わたしたちは『太陽の剣』が遠征に向かうところを見ていますが、その前日に結成しました」

「それなら、知らなくて当然ね。 それにしても、これだけの数をたった3人で相手するなんて……。 新人なのに、凄いのね」

「ふふん! もっと褒めて良いわよ!」

「わたくしたちに掛かれば、この程度は驚くほどではありません」


 すっかり調子を取り戻したルビーとマリンが、ミュールの賛辞を受けて得意げに言い返す。

 子どもっぽい娘たちの姿に、ライムだけではなく、ホープとミュールも苦笑していた。

 なんとも微笑ましい空間が広がっていたが――


「ライム」

「何でしょうか?」

「無理を承知で頼みたい。 『太陽の剣』に入らないか?」

『え!?』

「勿論、その場合はキミたちも一緒だ。 ルビー、マリン、その点は心配しなくて良い」

「ホープ……何を考えているの?」

「複雑なことなどないさ、ミュール。 魔塔攻略を掲げるわたしたちにとって、強力な仲間は1人でも多い方が良い。 それだけのことだ」

「でも、彼らは新人よ? いくらなんでも、早過ぎないかしら?」

「ギルド設立が最近だからと言って、彼らが強いことに変わりはない。 それはミュール、キミもわかっているんじゃないか?」

「それは、そうだけれど……」


 ホープの主張をミュールは認めつつ、やはり諸手を挙げて賛成は出来ない。

 もっとも、今回に関してはその必要もないが。


「すみません、ホープさん。 評価してもらったことは有難いですが、わたしたちは自分たちのペースで攻略を進めたいと思います」


 ルビーとマリンから不安そうな目を向けられたライムは、欠片も淀みなく返答した。

 それを受けたホープは苦笑し、すぐさま引き下がる。


「すまない、答えはわかってはいたが、どうしてもな。 だが、別のギルドでも協力出来ることはあるはずだ」

「そちらはともかく、わたしたちが『太陽の剣』の力になれるでしょうか?」

「謙遜するな、ライム。 わたしは確信している。 いつか必ず、わたしたちは肩を並べて戦うことになるだろう」

「無駄な戦いはない方が良いですが……そのときは、よろしくお願いします」

「こちらこそ。 では、そろそろ失礼する。 ミュール、行くぞ」

「もう、勝手なんだから……。 じゃあね、ライムくん、ルビーちゃん、マリンちゃん。 縁があったら、また会いましょう」


 颯爽と立ち去るホープにミュールはジト目を向け、ライムたちに断ってからあとを追った。

 図らずも4大ギルドのリーダー全員と、関わりを持った『宝石姫』だが、それが幸か不幸かは現時点では何とも言い難い。

 双子はホープの自由さにポカンとしていたが、ライムの声を聞いて現実復帰する。


「ルビー、マリン、全部は無理だろうが、魔石を拾おう」

「そ、そうだね! わーい! これだけあれば、何でも買えちゃうかも!」

「ルビー、どれだけお金があろうと、無駄遣いは駄目よ。 人間、1度上げた生活水準を下げるのは、難しいのだから」

「何よ、わかったようなこと言っちゃって。 お婆ちゃんみたい」

「だ、誰がお婆ちゃんよ!? わたくしがお婆ちゃんなら、貴女だってそうでしょう!」

「べ~だ! こう言うのは、精神的なことを言うのよ!」

「えぇ、そうね! 貴女とわたくしでは、精神年齢が違い過ぎたわ! このような幼い子どもを相手に、ムキになる方がどうかしているわね!」

「何ですって!? あたしは大人のレディーよ!」

「その言い方が、お子様過ぎると言うのよ!」

「む~! 胸小さいくせに!」

「1センツの差でしょう!?」


 顔を突き合わせて、言い争うルビーとマリン。

 そんな娘たちを放置して、ライムは無言で魔石を集め続けた。

 こうして彼らは、大きな戦いを乗り越える。

 だが、これは始まりに過ぎなかった。

ここまで有難うございます。

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