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第1話 魔塔都市トライア

 青い空、輝く太陽、広がる草原。

 天気が良いことに感謝しながら、ライムは街道を進む。

 背中には巨大なリュックサックを背負っているが、彼にとっては大した重さではない。

 ところが、それを良しと出来ない者たちがいた。


「パパ、重くない? 無理したら駄目だよ?」


 ライムの左隣を歩いていたのは、紅髪をツーサイドアップにしたルビー。

 この17年ですっかり成長し、誰もが振り返るほどの美少女になっていた。

 身長は150センツ台半ば程度で、胸元はかなり大きい。

 赤を基調として金の刺繍が施された、バトルドレスを身に纏っている。

 両手首には、赤い宝石が埋め込まれた、金の腕輪を装備していた。

 普段は勝気な橙黄色の瞳が、今は不安そうに揺らいでいる。

 そんな彼女に内心で苦笑したライムが、問題ないことを伝える前に、もう1人が口を開いた。


「お父様は、いつも頑張り過ぎなのです。 もっと、わたくしを頼って下さい」


 ルビーと反対の右隣を歩きつつ、やはり心配しているのは、大きくなったマリン。

 蒼髪をハーフアップにして、白いリボンで飾っている。

 双子らしく良く似ており、彼女も途轍もない美少女ながら、雰囲気はまるで違っていた。

 ルビーが陽性の美少女なら、マリンは深窓の令嬢を想起させる。

 身長と胸部の発育具合は、ほぼ同じ。

 バトルドレスのデザインも変わらないが、青が基調で銀の刺繍がアクセントになっている。

 両手首に腕輪を付けているのも共通しているものの、色は銀で埋め込まれている宝石は青い。

 薄い紫の瞳は、今にも泣き出しそうなほど潤んでいた。

 今度こそ苦笑を漏らしたライムは、言い聞かせるように言葉を紡ごうとしたが、またしても遮られる。


「ちょっと、マリン! あたしが先に心配してたんだから、引っ込んでなさいよ!」

「うるさいわね、むやみに喚かないで。 貴女のような野蛮人に、お父様を任せられる訳がないでしょう?」


 噛み付かんばかりの勢いのルビーと、冷ややかな眼差しを返すマリン。

 ライムを挟んで火花を散らしていたが、更に過熱して行った。


「誰が野蛮人よ!? あんたこそ、性悪女のくせに清楚っぽい雰囲気出してんじゃないわよ!」

「誰が性悪女ですって……?」

「あんたよ、あんた!」

「良い度胸ね。 こうなったら、どちらがお父様に相応しいか、白黒はっきりさせてあげるわ」

「ふん、望むところよ! 今度こそ、決着を付けてやろうじゃない!」


 いきなり互いに距離を取って、戦闘態勢に入る双子。

 あまりにも不毛な争いに嘆息したライムは、2人にジト目を向けて言い放った。


「約束その1」

『……ッ! 喧嘩は1日1度まで(です)!』

「その通り。 わたしの記憶が確かなら、朝食の席でパンの大きさで争っていたな? これで2度目になるが?」

「だ、だって、パパ! マリンがあたしを、野蛮人って言うんだもん!」

「あ、貴女だって、わたくしを性悪女と言ったでしょう!?」

「それは本当のことじゃない!」

「何ですって!?」

「何よ!?」

「約束その2」

『……ッ! 止められても喧嘩を続けたら、おやつ抜き(です)……』

「そうだな。 と言うことで、今日のおやつは無しだ。 美味しいクッキーを用意していたんだが、残念だ」


 わざとらしく肩を落として、溜息をつくライム。

 そんな彼の姿に、ルビーたちは大いに焦って言い募る。


「ご、ごめんなさい、パパ! もう喧嘩しないから、そんな顔しないで!」

「わたくしたちが間違っていました! お父様の娘として、恥ずかしく思います!」


 目尻に涙を溜めて、縋り付く美少女たち。

 ライムはしばし無言を貫いたが、唐突に2人を抱き締める。

 思わぬ事態に彼女たちは瞠目して、息を飲んでいた。

 しかし、ライムは気付かぬふりをして、淡々と言葉を紡ぐ。


「わたしにとっては、2人とも大事な娘だ。 ルビーは元気で前向きだし、マリンは真面目で思慮深い。 そんな2人が貶し合う姿は、あまり見たくない」

「パパ……」

「お父様……」

「全く喧嘩をするなとは言わないが、やり過ぎは駄目だ。 わたしたちは、旅の途中なんだしな」

「うん……。 わかった……」

「わたくしも、反省します……」


 ライムの腕の中で俯く、ルビーとマリン。

 娘たちが落ち着いたと察した彼は、抱擁を解いて彼女たちの頭を撫でながら、微笑を湛えて告げる。


「偉いぞ、2人とも。 ご褒美に、おやつ無しは取り消そう」

「え!? 本当!?」

「お父様、よろしいのですか……?」

「構わない。 わたしとしても、キミたちに喜んで欲しいからな」

「わーい! パパ、大好き!」

「あ……! わ、わたくしも、大好きです……!」


 ルビーがライムの腕に抱き着いたのを見て、マリンも負けじと反対の腕を取る。

 はっきり言って非常に動き難いが、娘たちが幸せそうにしているのを見たライムは、苦笑を漏らしつつ声を発した。


「そろそろ行こう。 いつまでも、ここにいる訳には行かない」

「はーい!」

「かしこまりました」


 娘たちに腕を抱き抱えられたまま、ライムは1歩を踏み出す。

 ルビーたちも遅れず、体勢を維持したまま続いた。

 尚、街道であるこの場には他にも利用者がおり――


「パパ……?」

「お父様……?」

「お兄ちゃんとかじゃなくて……?」

「て言うか、あの距離感は恋人だろ……」

「でも1対2だし……。 どう言う関係なんだろ?」

「く! どっちにしろ、羨ましいぜ!」


 外見上はルビーたちと同い年くらいの彼が、父親扱いされていることに、不思議そうな視線が殺到している。

 しかし、ライムは無視を決め込んで、ルビーとマリンは気付かず、幸せそうに腕に頬擦りしていた。

 進行速度はのんびりしていたものの、ようやくして彼らは目的地に辿り着く。


「2人とも、トライアが見えて来たぞ」

「え? あ、ホントだ!」

「あれが魔塔ですか……。 聞いてはいましたが、凄いですね……」


 腕に抱き着いたまま、喜びの声を上げるルビー。

 同じ体勢で、やや呆然としているマリン。

 魔塔都市トライア。

 世界最大の都市で、四方を高い外壁に囲われている。

 何より特徴的なのは、そのままではあるが、天を衝くかのように聳え立つ魔塔。

 約1,000年前に、突如として出現した――と伝えられている。

 中には膨大な数の魔物と宝が眠っており、上の階層ほど敵が強く、宝の質や量が増すらしい。

 公式で上った最高記録は、72階層。

 外からの計算で、魔塔は恐らく100階層までとわかっている為、現時点で7割強をクリア済み。

 ただし、前述の理由から先に進むのは困難を極めており、ここ暫くは停滞している。

 それでも、世界中から魔塔を目当てに、人が集まって来ていた。

 そして、ライムたちも同様。


「うーん! どんなところなんだろ! 楽しみ!」

「ルビー、魔塔の魔物は外よりも格段に強いのだから、油断しないで」

「む、わかってるわよ。 でも、ずっと行ってみたかったんだもん!」

「それは、わたくしもそうだけれど……」


 目をキラキラさせているルビーに対して、マリンは少しばかり萎縮している。

 対照的な両者だが、興味津々なのは間違いない。

 2人の様子に苦笑したライムは、それぞれに釘を刺しておくことにした。


「確かに、魔塔の魔物には注意が必要だ。 お気楽ではいけない」

「う……。 はーい、パパ」

「だが、キミたちなら大丈夫だ。 無理せず少しずつ、ゆっくりと上を目指そう。 もしものときは、わたしがいるから心配ない」

「お父様……。 わかりました、頑張ります」


 娘たちが気を持ち直したのを悟ったライムは、満足そうに微笑んだ。

 同時に、自然な動作で2人の拘束から脱する。

 ルビーたちは不満そうだったが、敢えてスルーしてライムは告げた。


「さぁ、行こう。 着いたらいろいろやることがあるから、忙しくなるぞ」

「オッケーだよ! 行こう~!」

「待ちなさい、ルビー。 勝手に行動しないで」


 元気良く足を踏み出したルビーを、マリンが急いで追い掛けた。

 いがみ合って見えても、心の奥底では心配しているのだろう。

 そんな彼女たちに苦笑したライムも、遅れずあとに続いた。

ここまで有難うございます。

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