第13話 あいこ
太陽が仕事を終え、完全に眠りに就く頃、ライムたちは魔塔を出た。
ギリギリではあったが、目標を達成出来たと言える。
ところが――
「まったく……。 誰かさんのお陰で、随分と遠回りしてしまったわ」
「し、しょうがないでしょ!? 地図で見たら、あっちの方が近道だったんだから!」
「だからと言って馬鹿正直に選ぶだなんて、馬鹿馬鹿しいほどの馬鹿ね」
「何回馬鹿って言ってんのよ!?」
「4回よ」
「数えてんじゃないわよ! 大体、あんただって最終的にはオッケーしたじゃない! あたしだけの責任じゃないでしょ!?」
「わ、わたくしは、本当は反対だったのよ? ただ、貴女があまりにもしつこかったから……」
「あ~! 今更そんなこと言うなんて、卑怯! 卑劣! 陰険! 陰湿! 胸小さい!」
「小さくないわよ!?」
「じゃあ、それ以外は認めるのね!?」
「そう言うことではないでしょう!?」
出入口で喚き合う、美少女双子。
尚、魔塔は常時開放されているので、今も多少なりとも人目はある。
そのこと自体は気にしないライムだが、娘たちの喧嘩を放置はしない。
「約束その1」
『……ッ!』
「元気なのは良いことだが、そろそろ行こう。 魔塔管理局で、換金や手続きをする必要があるからな」
「も、申し訳ありません、お父様……」
「ごめんね、パパ……」
「わかってくれたら、それで良い」
端的に告げたライムは、2人の頭をポンポンとしてから歩み出す。
魔塔内では基本的に娘たちに先を譲るが、外では彼が引っ張って行く立場だ。
もう幾度となく通った、巨大な白い建物に入る。
ちなみに、魔塔管理局も常に受け付けしている為、夜遅くても問題はない。
ただし、シフトの関係で誰が応対してくれるかは、その日によって違うが――
「お疲れ様です、ライムさん。 ついでに、ルビーさんとマリンさんも」
にこやかに出迎えてくれたのは、当初から世話になっているリーナ。
流石に毎日と言う訳ではないものの、彼女に当たる確率は今のところ高い。
ライムとしてはその程度の認識だったが、ルビーとマリンはそれで済ませられなかった。
「またあんたなの!? て言うか、ついでって何よ!?」
「やめなさい、ルビー。 この人に噛み付いたところで、無意味だとわかっているでしょう?」
わかり易く怒っているルビーに比して、マリンは至極落ち着いて見える。
もっとも、こめかみはヒクヒクしているが。
ミスリルの件を境に、リーナは2人をからかうようになり、こう言ったシーンは度々見掛ける。
とは言え、本当にちょっとしたおふざけ程度なので、ライムは黙認していた。
ただし、気苦労は絶えない。
これ見よがしに溜息をついた彼は、軽いジト目をリーナに向けて言葉を連ねる。
「お疲れ様です、リーナさん。 今日は換金のお願いと、報告があって来ました」
「換金と……ご報告ですか?」
「えぇ、これを見てもらったら早いかと」
そう言ってライムが差し出したのは、エルダートレントの小枝。
事情を把握したリーナは、一瞬だけ目を丸くして、笑顔に戻った。
「初層の踏破、おめでとうございます」
「有難うございます。 エルダートレントを倒したのは、ルビーとマリンですが」
「そーよ! わかったら、少しは褒めなさい!」
「わたくしは、褒められるほどのことではないと思っていますが、賛辞を贈りたいなら受け取ってあげますよ?」
「はいはい、良く頑張りました」
「適当過ぎじゃないッ!?」
「いい加減、腹が立ちますね……」
リーナからぞんざいな扱いを受けて、ルビーはまたしても吠え、マリンは視線の温度を下げている。
そんな彼女たちを、リーナは楽しそうに眺めていたが、ライムが無言で抗議していることに気付いて、対応を改めた。
「ふふ、冗談ですよ。 実際、素晴らしいと思います。 何せ、過去最速ですからね」
「え? 過去最速?」
「何の話ですか?」
「初層を踏破するまでの早さです、ルビーさん、マリンさん。 挑塔者になって、これほど短期間でクリアした人は、記録に残っていません」
「へ~! それって、凄くない!?」
「他人と比べるものではないけれど、1つの指標として大きいかもしれないわ」
過去最速で初層を突破したと知って、ルビーはガッツポーズを取り、マリンは得意そうに髪をかき上げた。
ライムも嬉しいのは間違いないが、同時にちょっとした懸念を持っている。
しかし、その思いに蓋をして、ひとまず話を進めることにした。
「それではリーナさん、これでわたしたちは開拓者になれるんですね?」
ここはすんなりと、イエスの返事が欲しかったライムだが、早速懸念していたことが現実となる。
「それなのですが、すぐにはお返事出来かねます」
「ん? なんでよ?」
「ルビーさん、エルダートレントを撃破して20階層をクリアするのは、開拓者になる最低条件なのです。 厳密に言えば、素行の良し悪しなども審査の対象となり、総合的に判断されます」
「それでしたら、問題ありません。 わたくしとお父様は、素行が良いですから」
「ちょっと!? なんで、あたしを除け者にするのよ!?」
「自分の胸に聞いてみたら?」
「む~!」
「落ち着け、ルビー。 マリンも、あまり意地悪するな」
「パパ~、だって~!」
「も、申し訳ありません……」
涙目のルビーと、恥ずかしそうに俯くマリンの頭を優しく撫でつつ、ライムはリーナに目を向けた。
変わらず笑みを浮かべており、内心を探るのが難しいが、今はその必要もないと結論付ける。
双子の頭から手を離したライムは、真っ直ぐにリーナを見据えて尋ね掛けた。
「リーナさん、わたしたちの素行に問題があるとは思えませんが、それでも即答は出来ないんですね?」
「はい、その通りです」
「なるほど。 もしかして、攻略が早過ぎましたか?」
「……流石はライムさん、お見通しですか」
「え? 何? どう言うこと?」
「攻略が早いといけないのですか?」
「2人とも、先ほどリーナさんが、素行の良さも審査対象だと言っていただろう? わたしたちの活動期間が、まだその判断基準に達していないんじゃないかと思ってな。 更に言うなら、攻略が早過ぎたのには裏があると思われている可能性もある」
「何よそれ!? あたしたちは、ズルなんかしてないわよ!」
「わかっていますよ、ルビーさん。 ですが、魔塔管理局としては、他の挑塔者の目も少しは気にして頂きたいです。 あまりにも突出したギルドは、反感を買い易いですから」
「……つまり、あまり調子に乗らず、謙虚にしろと言うことでしょうか?」
「マリンさん、そう取って頂いても結構です。 心配せずとも、今だけですよ。 皆さんの実力が周知されればされるほど、常識外の早さで攻略しても、誰も疑いを持たないでしょう」
「う~、なんか納得出来ない!」
「わたくしも、今回ばかりは受け入れ難いです」
リーナの説明を聞いても、ルビーとマリンは不平を漏らした。
ライムとて心情的には似たようなものだが、ここで何を言っても仕方ない。
どうせならプラスに考えようと決めた彼は、娘たちの頭をもう1度撫でて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ルビー、マリン、今日のところは帰ろう」
「ですが、お父様……」
「マリン、気持ちはわかるが、リーナさんを責めても解決はしない。 ここは大人しく退いて、暫くのんびりしよう。 トライアに来てから、ずっと魔塔に挑んでいたからな」
「言われてみれば、そうかも……。 じゃあ、パパ! デートしよ!」
「待ちなさい! そう言うことなら、わたくしだってお父様とお出掛けしたいわ!」
「何よ! あとから割り込んで来ないでよね! あんたは、お留守番してなさい!」
「お断りよ! かくなる上は……」
「今日こそ、あれで決めるしかないわね!」
同時に向かい合った双子。
その様子をリーナは興味深そうに見ていたが、ライムは溜息を堪えられない。
すると、遂に開戦の火蓋が切られる。
「じゃん!」
「けん!」
『ぽん!』
「あい!」
「こで!」
『しょ!』
燃えるような闘志を秘めたルビーと、静かに熱いマリンによる、じゃんけん合戦。
単純な方法ではあるが、明確な勝敗が付くと言う点では間違っていない――が――
「リーナさん、換金をお願いします」
「え? 放っておいて良いのですか?」
「どうせ、決着は付きませんから。 時間が勿体ないので、その間に済ませてしまいましょう」
「あぁ……理解しました」
サッサと歩き出したライムに付いて行きながら、苦笑するリーナ。
その背後では双子によるあいこが続いており、いつしかギャラリーが出来るほど。
換金を終えたライムは娘たちの元に戻り、頃合いを見計らって切り上げる。
そうして最後まであいこが続き、結局のところ、後日3人で出掛けることになるのだった。
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