第12話 変異体
それから、2週間が経つ。
ライムたちも、すっかりトライアでの生活に慣れて来た。
『宝石姫』としての、魔塔攻略も順調そのもの。
そこには、エステルに手入れされた魔塔武装の力も、大きく関わっていた。
以前とは比べ物にならないほど扱い易く、威力も増している。
双子は当初驚いていたが、今後も手入れはエステルに頼もうと決めた。
初層を攻略して行く過程で、ライムたちは大勢の挑塔者と出会ったが、15階層前後が最も多いと感じている。
安全を確保しつつ、なるべく収入を増やせるのが、その辺りのようだ。
ルビーやマリンからすれば、志が低いと言わざるを得ないものの、命を大切にしていると言う見方もある。
そんな彼らを尻目に、上を目指し続けた3人は、遂に辿り着いた。
「いよいよか」
朝食の準備をしながら、ライムがポツリと呟く。
今日で、魔塔に潜って3日目。
時刻はまだ早朝。
初層は常に明るいが、外では太陽が昇り始めたばかりのはず。
昨日の時点で彼らは19階層を突破し、石板の近くで野営した。
大きめのテントを張っており、中ではルビーとマリンが眠っている。
彼も少し前までは一緒にいたのだが、前述のように朝食の用意をする為に、こっそりと出て来た。
ちなみにライムは、魔塔では寝ない。
一般的なホムンクルスは睡眠を必要とするが、彼は特別製である。
だからと言って、娘たちはライムに見張りを任せっ放しにするのを渋っていたが、彼は頑として譲らなかった。
何はともあれ、野営にも少しずつ順応している。
朝食の準備を終えたライムは、テントに歩み寄って中を覗き込んだ。
そこには――
「ん~……パパ……むにゃむにゃ……」
「すぅ……すぅ……お父様……」
天使たちがいた。
勿論、そんな訳はない。
しかし、ライムには本当にそう見えた。
ルビーはピンク、マリンは水色の寝間着姿で、向かい合って寝息を立てている。
顔の前で、互いの手を軽く握り合っており、こうして見ている限りは仲良し双子。
事実として、かつてはそのような時期もあった。
思わず苦笑を浮かべたライムは、もう少し寝かせておきたい欲求に駆られたが、なんとか振り切って声を掛ける。
「ルビー、マリン、起きてくれ。 朝だぞ」
「ん……パパ……? おはよう~……」
「うぅん……あ……お、おはようございます、お父様……」
横になったまま、だらしない笑みを浮かべて、朝の挨拶をするルビー。
起きた瞬間、素早い動作で身を起こして、髪を整えながら恥ずかしそうに声を発するマリン。
対照的な両者に苦笑を深めたライムは、敢えて何でもないように告げる。
「おはよう。 朝食が出来たから、身支度を整えて食べよう」
「か、かしこまりました。 少々お待ち下さい」
「う~ん……もうちょっと~……」
「ルビー、起きなさい! お父様を、お待たせしてしまうでしょう!?」
「すぴー……」
「あぁ、もう! お、お父様、ルビーはわたくしがなんとかしますので、もう暫くお時間を頂けますか?」
「わかった、任せよう」
「あ、有難うございます。 ルビー、しゃんとしなさい!」
「んみゅ~……だっこ~……」
「ちょ……!?」
寝ぼけているのか、マリンに抱き着くルビー。
彼女の豊満な胸元に頬擦りしており、幸せそうに笑っている。
普段のマリンなら引っ叩いてもおかしくないが、戸惑うだけで手を出す素振りはない。
双子の仲睦まじい(?)様子を、ライムは眺めていたいと思いつつ、宣言通りマリンに任せて踵を返した。
それからも、しばしの間は騒がしい音がテントから漏れていたが、やがて静かになる。
すると2人が出て来たのだが、外見上は完璧に取り繕っているものの、頬を朱に染めて気まずそうにしていた。
胸中でまたしても苦笑したライムは、モジモジしている娘たちに声を掛ける。
「さぁ、食べようか。 座ってくれ」
「う、うん……」
「お、お待たせしました……」
尚もルビーたちの様子はおかしかったが、大人しくレジャーシートに腰を下ろす。
テントの中で何があったのか、ライムは詳細を知らないが、よほど恥ずかしかったらしい。
正直なところ興味を抱きつつ、その好奇心には蓋をして、2人に朝食を提供した。
パンとベーコンエッグにサラダ、コーンスープ。
豪華と言うほどではないかもしれないが、野営にしては充分なメニュー。
ルビーたちも喜び、目を輝かせていた。
娘たちが立ち直ったのを察したライムは微笑を浮かべ、率先してサラダを口にする。
それを見た双子も、揃って朝食を食べ始めた。
調子を取り戻した彼女たちは、些細なことで時折口論しつつも、ライムに感謝しながら食事を続ける。
その後、片付けは自分たちがすると娘に主張されたライムは、テントの撤収作業に入った。
そうして、荷物を纏めた彼らは、改めて階段に向き直る。
「よーし! やっちゃうわよ!」
「えぇ、気を引き締めて行きましょう」
勝気な笑みを湛えたルビーと、静かに戦意を高めるマリン。
途轍もない闘志に満ちており、背後から見守っていたライムは、頼もしく感じている。
そんな彼に双子は振り返り、力強く宣言した。
「頑張るね、パパ!」
「必ずや、突破してみせます」
「あぁ、期待している。 だが、決して無理はしないように」
「うん、有難う! 行くわよ、マリン! 遅れないでよ!」
「こちらのセリフよ、ルビー。 足を引っ張らないで」
横目で視線を交換した2人は、魔塔武装を手に階段を上って行った。
初めて20階層に足を着けたが、見える景色自体は何ら変わりない。
ただし、雰囲気は下の階層とは違っており、かなり物々しい印象を受けた。
ライムはそのことを娘たちに伝えようとしたが、彼女たちは既にそれを悟っているらしく、厳しい眼差しを大森林に向けている。
これなら問題ないと判断したライムは、大人しく言葉を飲み込んだ。
再び視線を交換する、双剣を握ったルビーと、長槍を構えたマリン。
言葉にせずとも思いは共有出来たようで、毛ほどの油断もなく、大森林へと踏み入る。
すると、それと同時に、奥から多数の魔物が姿を見せた。
ゴブリンとポイズンフラワー、更に3階層から出現する、マンイーター。
ポイズンフラワーと同じく植物型の魔物ではあるものの、こちらは巨大な食虫植物のような見た目で、蔓の鞭が主戦力。
初層の敵はこの3種類だけだが、強さや出現頻度、1度に遭遇する数は上に行くほど増して行った。
今回はそれぞれ2体ずつの、計6体。
しかも、最初の方とは比べ物にならないほど、強くなっている。
だが、それでも――
「邪魔しないでッ!」
臆することなく駆け出したルビーが、1体のゴブリンを右の剣で袈裟斬りにした。
そのときにはもう1体のゴブリンが、彼女の後ろから木の棒を振り下ろし始めている。
やはり、当初よりも圧倒的に速く、背後を取る知能も兼ね備えていた。
しかし、ゴブリンは所詮ゴブリンに過ぎない。
超速で反転したルビーが、木の棒を紙一重で避けながら、左の剣を横に振り切る。
狙い違わずゴブリンの胴に吸い込まれ、上下に分割した。
彼女が華麗な戦いを展開していた一方、マリンも自身の役割を全うしている。
「甘いわ」
マンイーターが放った蔓の鞭を躱しつつ懐に入り、強烈な刺突を繰り出した。
中心部の本体を貫き、呆気なく塵と化す。
そこに別の1体が、またしても蔓の鞭を振り下ろしたが、マリンは余裕を持って長槍で薙ぎ払った。
苦し気に蠢くマンイーターに構わず、瞬く間に踏み込んで長槍を突き出す。
正確無比な一撃は、無慈悲に魔物の命を奪った。
その間に、残ったポイズンフラワーは、毒の花粉を準備している。
とは言え、彼女たちが魔法を使えばどうとでもなるはずだが、2人はその手段を取らない。
「マリン!」
「わかっているわ」
ルビーは双剣の片方をブーメランのように投げ放ち、マリンは長槍を投擲した。
凄まじい速度で飛来した武器を、ポイズンフラワーが避けることなど出来る訳もなく、花粉を噴出する間もなく撃破される。
本来なら武器を手放す行為は、基本的に褒められた戦法ではない。
ところが、彼女たちの魔塔武装は、腕輪を介して出し入れ自由だ。
その特性を利用して、既に手元に武器を戻している。
ライムに言われるでもなく、この手段を思い付いた2人は、魔力の消費を抑えた立ち回りが出来ていた。
こうして20階層の初戦に完勝した双子だが、一切気を緩めることなく、慎重に足を進ませる。
娘たちの成長を感じたライムは、魔石を拾い集めながら、薄く笑みを浮かべていた。
その後も、過去に類を見ないほど頻繁に魔物と遭遇しつつ、ルビーたちは攻略を進めて行く。
元々のポテンシャルの高さと、今日までの経験値も相まって、初層の敵など大した脅威ではない。
確かに1階層と20階層では、魔物の強さに大きな開きはあるが、2人にとって格下なことに変わりはなかった。
ほとんど間隔を空けることもなく、襲い来る魔物を退け続ける双子。
温存している魔力は勿論、体力的にも問題はない。
万全の状態を保ちながら、どんどん奥へと侵入して行くと、徐々に魔物の数が減って行った。
そのことを怪訝に思ったルビーたちは、油断するどころが警戒を露わにする。
ライムも周囲に注意を払っており、いつでも娘たちを守れるように備えていた。
すると――
「あれって……」
「石板、ね……」
20階層の最深部の辺りで、階段と石板を発見する。
今までならこれでこの階層はクリアだが、2人はそうではないことを知っていた。
戦闘態勢を維持したまま、ゆっくりと歩みつつ、集中力を高めて行く。
そして、そのときが訪れた。
「……ッ! ルビー!」
「下ね!」
双子が左右に跳躍した直後、2人がそれまで立っていた場所から、木の根が槍のように突き上がる。
ライムも含めて3人とも、事前に情報は仕入れていたが、それにしても隠密性が高い。
知っていても反応がギリギリになったことに、ルビーとマリンは緊張感を高めた。
だが、深呼吸することで平静を取り戻し、背後で様子を窺っていたライムに、堂々と言い放つ。
「パパ、手を出さないでね!」
「初層くらい、わたくしたちだけで充分です」
目を向けることもなく告げられたライムは、万が一のときは介入するつもりであることを隠し、柔らかな声音で言い返した。
「わかった。 2人とも、気を付けてな」
「うん!」
「お任せ下さい」
ライムの言葉を受けて、双子は闘志を燃やした。
すると、彼女たちから離れた地面が盛り上がり、突き出た根が人型の魔物を形作る。
身長は200センツほどで、人間で言えば大柄ではあるが、極端に飛び抜けていると言うほどではない。
初層のボス、エルダートレント。
人型である為、植物型の魔物の中では素早く、高い再生能力を誇る。
これまでの魔物とは隔絶した力を感じ、ルビーとマリンは油断なく魔塔武装を構えた。
対するエルダートレントは、真っ直ぐに2人を見据え、静かに佇んでいる。
一見すると特におかしなところはないが、このときライムが抱いていたのは、僅かな違和感。
(わたしに対する意識が薄過ぎる。 こちらに攻め気がないからかもしれないが……)
娘たちの邪魔をしないように、内心で呟くライム。
気にするほどのことではないと言う思いと、何かが引っ掛かると言う考え。
綯い交ぜになった気持ちを胸にしつつ、ひとまずは様子を見ることに決めた。
そんな彼の決意が通じたとは言わないが、双子と魔物が同時に動き出す。
ルビーが左から、マリンが右から攻め入り、エルダートレントは――
「わ!?」
「これね……!」
左右の腕を2人に伸ばして、殴り掛かった。
かなりの速度だが、エルダートレントの特徴を覚えていたルビーたちは、驚きつつも余裕を持って回避する。
そしてセオリー通り、腕を伸ばしたことで空いた懐に入った。
今から腕を戻したところで、迎撃が間に合うタイミングではない。
先手を取れると確信した双子は、それぞれの魔塔武装を繰り出したが、そう簡単には行かなかった。
「ちょ!?」
「……ッ!」
彼女たちが攻撃しようとした瞬間、足元から根の槍が突き上がる。
間一髪、バックステップを踏んだことで、2人は事なきを得たが、先ほどよりもゆとりはない。
何故なら――
「ちょっと、マリン! 資料に書いてたより、反応速いんだけど!?」
「大声を出さないで。 わたくしに言われても、知らないわよ。 まさか、情報が間違っていたのかしら……」
「リーナの馬鹿! 今度会ったら、デコピンしてやるわ!」
ギャアギャアと喚くルビーと、思案顔のマリン。
エルダートレントは腕を元の長さに戻し、悠然と佇んでいる。
資料によると、エルダートレントは間断なく打撃を繰り返して来るはずだったので、この姿にも2人は不気味さを感じていた。
やはり情報が誤っていたのではないかと、ルビーたちは疑っていたが、離れた場所から見ていたライムは、別の可能性を思い付く。
「もしかしたら、変異体なのかもしれない」
「パパ? 変異体って?」
「そのようなことも知らないの? 同じ魔物でも、特殊な個体が生まれることがあって、それを変異体と呼ぶのよ」
「う、うっさいわね! それくらい、知ってるわよ! 偉そうに言わないで!」
「本当かしら。 それで、お父様はこのエルダートレントが、変異体ではないかとお考えなのですね?」
「確証はないが、あり得ると思う。 何にせよ、ここからは事前情報に頼ることなく、臨機応変に戦わなければならない」
「りょーかいだよ、パパ! どっちにしろ、すぐに片付けちゃうから!」
「気を抜かないで、ルビー。 一説によると、変異体の強さは通常の、数倍と言われているのだから」
「ふん! 数倍だろうが数十倍だろうが、初層のボスに変わりはないでしょ? あたしは絶対、負けないわよ!」
「はぁ……。 貴女はお気楽で良いわね。 でも……わたくしも、決して負けはしないわ」
双剣を握り締めて、獰猛な笑みを浮かべるルビー。
そんな彼女に呆れつつ、無意識のうちに前向きさを取り戻したマリン。
娘たちを見つめていたライムは、本人たちは否定するかもしれないが、相性が良いことを再認識して微笑んだ。
そうして、最警戒モードに移行した2人は、一瞬だけ視線を合わせてから駆け出す。
ルビーは正面から最短距離を突っ切り、マリンはエルダートレントの背後を取る動き。
一方のエルダートレントは、腕を伸ばして右の拳をルビーに撃ち出し、左腕は鞭のようにしてマリンに振るった。
植物だからこそ出来る、変則的な攻撃パターン。
しかし、双子が怯むことはなく、見事な対処を見せる。
ルビーは双剣を駆使して拳を受け流し、そのままの勢いで接近した。
マリンは横から襲い来る腕を長槍で跳ね上げ、左手を前に突き出して叫ぶ。
「ルビー!」
同時に放たれる、【スプラッシュ・カノン】。
強烈な水の砲撃が、エルダートレントを狙った。
だが、それに反応したエルダートレントは、跳躍するべく足に力を込め――
「させないわよッ!」
伏せるように沈み込んだルビーが、エルダートレントの両足首を断ち斬る。
すぐに再生が始まったが、その一瞬が命取り。
【スプラッシュ・カノン】がクリーンヒットして、エルダートレントを吹き飛ばした。
地面を滑ったエルダートレントは、直接的なダメージはなさそうだが、大きな隙を晒している。
ただし、足の再生は終わっており、このままでは繰り返しだ。
もっとも、それを許すほど彼女たちは弱くない。
「それそれそれそれッ!」
大木の枝にジャンプしたルビーが、エルダートレントの真上から、膨大な数の【ファイア・アロー】を射掛ける。
全身に風穴を開け、立ち上がることを許さない。
それでも、エルダートレントは再生し続けていたが――
「あった!」
エルダートレントの右肩に、丸い木の実が埋め込まれていた。
これこそがコアであり、再生能力の源。
個体によって場所が異なるので、それを探る作業が、この魔物と戦う上では必要不可欠。
足止めと同時にそれを成し遂げたルビーは、マリンに呼び掛けようとしたが、必要ない。
「上出来よ」
完璧に読んでいたマリンが跳び上がり、エルダートレントに向かって長槍を投擲した。
精確に穂先が木の実を穿ち、砕け散る。
『オォォォォォ……』
塵と消え行き、魔石と細い枝だけを残した、初層のボス。
この枝を持ち帰ることで、撃破した証となる。
結局、彼女たちの前では変異体と言えど、さほど障害にはならなかった。
とは言え、ライムからすれば想定の範囲内。
娘たちの実力なら、中層くらいまでは達せると考えている。
ポテンシャルだけで言えば、上層以上も視野に入るはずだ。
贔屓目なしでライムがそう分析していると、2人は安堵からか笑顔を見せ合っていたが、我に返ったようにプイっと顔を背ける。
このようなときくらい、喜びを分かち合えば良いだろうとライムは苦笑しつつ、エルダートレントの魔石と小枝を拾って告げた。
「ルビー、マリン、見事だった。 初層のボスとは言え、変異体を相手に圧勝だったな」
「ふふん! パパの娘だからね! これくらい、朝飯前よ!」
「朝ご飯なら、先ほど食べたでしょう」
「そう言うことじゃないわよ! ホント、可愛くないわね!」
「貴女に可愛いだなんて、思われたくないわ。 わたくしは……お、お父様にさえ、思って頂けたら……」
「む~! そんなの、あたしだってそうよ! ねぇ、パパ! あたし可愛い!?」
物凄い剣幕でライムに迫るルビーと、モジモジしながら何かを期待しているマリン。
大多数の男性が、ノックアウトされそうなシチュエーションだが、ライムは彼女たちの頭を撫でながら、微笑を湛えて気持ちを伝える。
「勿論、ルビーもマリンも凄く可愛いぞ。 2人とも、自慢の娘だ」
「えへへ~! 有難う! パパもすっごくカッコイイし、大好きだよ!」
「わ、わたくしも、お父様は素晴らしい方だと思っていますし……あ、愛しています……」
喜びを全身で表して、ルビーはライムに抱き着いた。
対するマリンは、湯気が出そうなほど顔を赤くして、彼に寄り添っている。
双子の反応に苦笑したライムは、少しだけ好きにさせてから、言い聞かせるように言葉を並べた。
「さて、ひとまず石板に触れて帰ろう。 どうやら説明通り、今はこの先に進めないようだからな」
娘たちの背を優しく押しながら、ライムが視線を向けた先には、魔力で出来た壁のようなものがあった。
階段を上がるのを妨げているので、開拓者にならなければならない。
ライムからすれば、強引に突破しようと思えば可能だが、その必要はないと考えている。
魔塔攻略は、あくまでも娘たちがメインなのだから。
大人しく指示に従ったルビーとマリンは、石板に触れてから踵を返し、先頭に立ちながらライムに声を投げる。
「じゃあパパ、行こっか! まだ朝だし、下りるだけなら今日中に行けるよね?」
「急ぐ理由はありませんが、帰れるならその方が良いと思います。 今後のことを考えれば、素早く撤退するルートを確立するべきでしょうし」
「そうだな。 最適な帰り道を考えつつ、夜までに帰還するのを目標にしよう。 最悪もう1泊すれば良いから、慌てなくて良い」
「はーい! マリン、行くわよ!」
「適当に歩き出さないで。 最適な帰り道を考えながらだと、お父様が仰ったばかりでしょう?」
「わ、わかってるわよ! だからって、のんびりし過ぎるのも良くないでしょ!? あくまでも目標は、今日中の帰還なんだから!」
「それは、そうだけれど……。 仕方ないから、半分は受け入れてあげる。 慌てず、急いで行くわよ」
「今更だけど、ホント偉そうよね……。 もう良いから、行きましょ!」
不満は残っているようだが、ルビーは目標を優先して文句を飲み込んだ。
一方のマリンも真剣な面持ちになり、地図と睨めっこして帰り道を模索し始める。
そんな2人を見守っていたライムだが、頭の中では思考を巡らせていた。
(ボスの変異体……。 全くない訳じゃなさそうだが、確率的にはかなり低い。 そして最後まで、わたしを攻撃対象にしなかった。 いや……あれは、ルビーとマリンしか眼中になかったと言うべきか。 魔塔が震えたことと言い、どうにも普通じゃない事態が続いている。 考えても仕方ないかもしれないが、注意しておくに越したことはない)
表面上はいつも通りを装い、人知れず娘たちを案じるライム。
彼の目に映る双子は、地図を見ながら何やら言い合っていた。
一見すると仲が悪いが、2人が協力していることをライムは知っている。
大事な娘たちの微笑ましい姿に苦笑した彼は、ゆっくりとあとに付いて行った。
ここまで有難うございます。
面白かったら、押せるところだけ(ブックマーク/☆評価/リアクション)で充分に嬉しいです。
気に入ったセリフがあれば一言感想だけでも、とても励みになります。




