プロローグ 双子
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第1章はトライア到着→ギルド設立→初層攻略→そして祭の最中に起きる『異変』が主な流れです。
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用語解説:センツ=cm
さして広くもない、暗い室内。
そこに設置されたベッドに、1人の女性が横たわっていた。
口元は笑みを描いているが、生気が感じられない。
まさに死の淵にあり、間もなく息を引き取るのだろうと察せられる。
対するは、傍に佇んだ絶世の――と付けても良いほどの美少年。
歳の頃は、20歳に達していないくらい。
身長は180センツほどで、線は細いが引き締まって見えた。
肩より少し長い銀髪と、知性を感じさせる翠眼。
黒のパンツに白のカットソー、黒のロングコートを身に纏っている。
直立不動で立ち、その顔には完全なる無表情が浮かんでいた。
互いに無言の時間が続いていたが、やがて女性が力を振り絞るように口を開く。
「ライム」
「はい、メジス様」
「貴方に、最後の命令を与えるわ」
「かしこまりました」
「良い子ね。 ……あの子たちを育てなさい」
そこで初めて動いた女性――メジスは、部屋の隅のベビーベッドで寝ている、2人の赤ん坊を見やった。
今はスヤスヤと寝息を立てているが、そのうち大声で泣き出すことを知っている。
煩わしいと思っていたその騒がしさを、もう感じることが出来ないと悟ったメジスは、寂しさから思わず苦笑した。
しかし、少年――ライムは一切取り乱すこともなく、直立不動のまま淡々と言葉を発する。
「申し訳ありません。 それは、戦闘用ホムンクルスである、わたしの専門外です」
「そう言うと思ったけど、貴方なら大丈夫よ。 わたしの最高傑作、究極のホムンクルスである貴方ならね」
「わたしに、子育ての能力は備わっていません」
「でも、知識はあるでしょう? そう言う風に作ったんだから。 あとは実際に試行錯誤して、きちんと育ててあげて。 あの子たちの父親は、貴方なのよ」
「……かしこまりました」
「有難う。 これで、心置きなく逝けるわ。 疲れたから、少し休むわね」
「お休みなさいませ」
そう言い残して、メジスは眠りに就いた。
二度と目覚めることのない、永遠の眠りに。
ライムはそのことをわかっていたが、涙1つ流すことなく踵を返す。
向かった先は、ベビーベッド。
先ほどまでは天使の寝顔だった2人が、今は泣き喚いている。
それを受けてもライムの表情は変わらなかったが、どことなく困ったように見えるのは、気のせいだろうか。
その後、彼はメジスに与えられた知識を基に、子育てに奮闘することになる。
愛情のようなものはなく、命令だからこなすに過ぎない。
当初は上手く行かないことも多く、頭を悩ます日々だった。
だが、学習能力の高いライムは徐々に順応して行き、赤ん坊たちが何を訴えているか、言葉を話せなくても把握出来るようになる。
そうして、いつしか暇さえあれば、赤ん坊を見守るようになっていたが――
「……名前を決めていなかったな」
今更過ぎることに気付いた。
本来ならメジスに決めてもらうべきだと思ったライムだが、彼女はもう他界している。
仕方なく自分で考えることにした彼は、2人の顔をジッと見つめた。
紅髪と蒼髪の、双子の女の子。
今のところそれくらいしか情報がなく、ライムはどうしたものか迷う。
そのとき視界に映ったのは、メジスが生前集めていた宝石の数々。
そこからインスピレーションを得たライムは、我ながら安直だと思いながら名前を決めた。
「キミがルビーで、キミはアクアマリン……は長いから、マリンだ」
両手を差し出して2人の頬に触れながら、はっきりと告げる。
すると赤ん坊は、まるで気に入ったとばかりに笑った。
都合の良い解釈だと思いつつ、ホッとしたライム。
このとき彼は、初めて父親としての自覚を持った。
そうして、少しずつ愛情が芽生えて来たライムは、全身全霊を持ってルビーとマリンの育児に力を注ぐ。
これが、今から約17年前の出来事。
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