レイセルの冒険
レイセルに冷たいエイルには黙って、過去の同僚でレイセルに想いを寄せるベルセルクとともにクエストを受けるレイセル。思いがけない強敵を前に奮闘するが深手を負ってしまう。さて、エイルもいないなか無事に帰還出来るのか?
「ベルク?ギルドに来るなんて珍しいですね。」
ベルセルク・フィンレイ伯爵であった。ベルクは王宮聖騎士団長であり、レイセルが宮廷白魔導士をやっている時の同僚であり、ベルクは何より密かにレイセルに好意を持っていた1人であった。
「久しぶりですね、今日はエイルとは一緒ではないのですか?」
「また、おいてきぼりなんです。いつになったら私を見てくれるのか・・・少し落ち込んでます。」俯きながら愚痴をこぼす。
「仕方ない奴だなぁ、こんなに想いを寄せてくれる女性を放って置くなんて・・・」ベルクは続ける。
「どうかな、今日は前みたいに僕の依頼の手伝いをしてくれないかい?」
「宮廷聖騎士がギルドの依頼を受けるなんて、ただごとでは無いですね。」
「そうなんだ、ギルドでも誰も受けてくれない、特殊な魔物の討伐を頼まれてしまって・・・確かに放置出来ないから仕方なくねぇ・・・」ベルクも困り顔である。
「大変ですね、ギルドの尻拭いをさせられる聖騎士長なんてそうはいないですよ。」レイセルはフワリと笑って揶揄う。
「他人事じゃないよ。君は手伝ってくれないの?国からの依頼だよ。」
「・・・でもエイルに相談しないと・・・」
「こんなに可愛い彼女を放っておく彼氏の顔を立てる必要ないでしょう?」冗談まじりに茶化すベルク。
「可愛いなんて、誰も言ってくれないよ・・・」頬を少し紅潮させて俯く。
「今回は精鋭の聖騎士10名を連れてくから補助だけやってくれたらいいよ。君は僕が護るから安心して。」如何してもレイセルを誘いたいらしい。
「分かりました。お供します聖騎士様。」少し呆れた様に柔らかく微笑むとレイセルは魔獣討伐の同行に快諾していた。
「さぁ聖女様、参りましょう。」ベルクは悪戯っぽくレイセルを誘なう。
ベルクは21歳の若者で、背が高く痩せている割にはかなり引き締まった筋肉質な身体をしている。
顔はやや童顔とも言えるイケメンであまり精悍なイメージは全く無いが、その腕前は剣聖を凌ぎ剣帝のレベルに達する達人なのである。
貴族の綺麗な令嬢達にもモテない筈は無いのだが、何故か彼氏持ちのレイセルを何時も気に掛けていたのだった。
まさかあのままクエストに連れ出されるとは思わなかったレイセルは、心の準備もないままベルクの操る馬に相乗り。ベルクとレイセルは密着した状況で目的の魔物の居るエリアに入って行く。
「ところで今回の特殊な魔物ってどんな魔物なんですか?」少し照れ臭そうにベルクの顔を見上げ覗き込む。
「うん・・・スケイルキマイラと言うキマイラ亜種らしいんだが、前に戦った事があるのは誰もいないんだ。」レイセルは俯くと小さな声で話し出す。
「ベルク・・・私その魔物に殺されかけた事があるの・・・兎に角外皮の鱗が硬くて、魔法も反射してしまうから攻撃はほぼ無効なの・・・だから今は引き返した方が良いと思うの。」ベルクは驚いた様にレイセルの顔を見る。
「君はどうやって助かったの?」
「助けてもらいました。」
「誰にですか?」
「私の師匠でありエイルの想い女であるルーナ魔導師長です。」レイセルは俯きながら答える。
「ルーナ様は、強かったです。戦聖女にして魔法剣士で、使う魔法やスキルは全てユニーク魔法やユニークスキルなの。それでもこのキマイラ亜種は、無傷で倒せなかった魔物なんです。
やっぱり街に戻ってエイルの力を借りましょう。エイルの絶対切断なら有効な可能性があると思います。」
「レイセル嬢・・・すみません。もう戻る事も出来なそうですよ。」話をしている間に既に魔物の群れに囲まれしまっていた。
状況は最悪でオークロード10体にオークキング3体、さらに15匹以上のウイングサラマンダー亜種にすでに退路を断たれる戦況になっていた。現状ではキマイラ亜種の姿は無かった。
「まぁ、目的のキマイラ亜種もいないみたいだから取り敢えず、倒していこうか・・・」ベルクの聖騎士隊は上位種を中心に排除に取り掛かった。
「ホーリィアクセル!」
レイセルは防御・攻撃力強化、魔法耐性付加の総合魔法を聖騎士達に掛けると、聖騎士達から響めきが起こる。
『おい、こんな効果の高いブレスをかけてもらった事ないぞ』『知らないのか?流石は前主席聖女の祝福は伊達では無いと言うことだな。』『あんな幼い少女が信じられん。』『よく見ると大人しそうだけど可愛いよなぁ。』『駄目だよ。団長のお気に入りに手を出したら団長の聖槌が降り注ぐぜ。』精鋭の聖騎士団員は浮ついた会話をしている。
レイセルは、仲間の祝福をかけ終わると、数が多いサラマンダー亜種に対して聖属性多段攻撃に取り掛かる。
「セイクリッド・アローレイン!」敵の群れに一気に降り注ぐ。
『ずががががああぁ!!』
魔物の悲鳴とともに半数以上のウイングサラマンダーや数体のオークロードが生き絶えて行く。
『おいおい、俺たちの仕事無くなっちまうぜ。』
聖騎士たちが慌てて敵の群れに打ってかかる。
たちまちの間に敵は殲滅された。
魔物の骸が広がる大地の奥に銀色に輝く巨大な翼を持った三つ首の魔物が立ちはだかっていた。
「あいつです。スケイルキマイラです。逃げましょう!」恐ろしさを知るレイセルは聖騎士達を撤退を促す。
しかし、魔物を殲滅した聖騎士達は言うこと聴いてくれなかった。動きの敏捷な3人の聖騎士はかつて無い祝福を受けた力に酔いしれてキマイラ亜種に飛び掛かる・・・が。
『ギギンッ!』『カキィィ!』『キュイィン!』全ての攻撃は、弾かれ傷一つ付けられない。
返す刀でキマイラは毒を纏った硬く輝く尻尾が聖騎士太刀を打ち払う。
甲高い悲鳴をあげて聖騎士達が弾け飛ぶ。
「不味いです!」レイセルは、やられた3人の聖騎士に駆け寄る。
全身の骨を砕かれた一人、両脚を砕かれた物一人、残念ながら一名は首を飛ばされて即死であった。
「あぁもう!クリティカルヒール!!」ルーナ譲りの最強治癒魔法が2人に施され、二人は九死に一生を得た。
走り続けるレイセルは飛ばされた首を拾い抱えると直ぐに彼の胴体へと駆け寄る。
「お願い!ベルク時間を稼いで!!」
ベルセルクは速やかにキマイラの前に立ち塞がると巨大な光の大槌を振るう。
「セイクリッドハンマー!!」空間を揺るがす衝撃波がキマイラの動きを止める。
それを確認してレイセルは長い詠唱に入る。
暫くはベルクが衝撃波を放ってキマイラの足止めをしてくれている。
そして遂に最強魔法が放たれる。「セイクリッド・リザレクション!!」レイセルの振り絞った神聖力は光となって即死したはずの聖騎士を蘇生する。
「お願いだから皆んな逃げて!今はこの魔物と戦うのは無理よ!」
必死に叫ぶレイセルにキマイラの山羊の首から風刃が飛ぶ。
「きゃああぁっ!」
レイセルは悲鳴を上げてズタズタに引き裂かれ血飛沫と共に宙を舞う。
完全に意識を無くしたレイセルが地面に叩きつけられ転がる。
ベルセルクが叫ぶ!おのれ化け物!!
「セイクリッド・ノヴァアアア!!」ベルク最強のユニークスキルが火を吹く。
流石のキマイラ亜種も動けなくなるほどのダメージを受ける。
その隙にベルクはズタボロのレイセルを抱きかかえ部隊と共に辛くも撤退したのだった。
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