エイルとレイセル
エイルは冒険者としては珍しい魔剣士。その実力は、剣士としては剣聖の資格を有し魔法も転移魔法や空間魔法を含む全属性持ちであり他の追随を許さないS級冒険者である。
その昔、エイルは何の力も持たないか弱い少年に過ぎなかったのだが、異大陸から転移して来た美しい少女を助けた事から人生が大きく好転したと言う過去を持っていた。
少女は魔法大陸最強の皇女でありエイルが師事した最強の戦聖女であった。少女は最強であったが故に多くの強敵を作り神さえも敵に回し、そしてエイルの元を去って行った。
その少女がカーマイン大陸の軍事大国であるラグシャール帝国に身を寄せていた事から、エイル自ら仕官して近衛騎士団に所属、少女を護れる立場を必死に確保していたが、少女が旅立ってからは近衛騎士を辞退し冒険者に戻っていた。
そんなエイルにも慕ってくれる彼女がいてくれるのだが、エイルはいつも少女の事を話すので淋しそうな表情をしていた。
彼女の名前はレイセル。栗色の巻き髪に、濃いブラウンの瞳をした控えめで可愛らしい小柄な女の子であった。
レイセルは、エイルと同じ王宮で宮廷魔術師・・・戦聖女の称号をもつ優秀な白魔術師であったがエイルを追って宮仕を辞退して、今もエイルに付き従って居るのだ。
「エイル?もうルーナ様の事を追いかけるのは辞めませんか?」
「・・・うるさい!ルーナは僕の・・・僕の全てだった。諦められないのがわからないのか!」
「私はそのルーナ様から貴方と幸せになる様に頼まれたんですよ!貴方がそんな調子じゃルーナ様が悲しまれます。」レイセルもまた少女から師事を受けて成長したひとりであった。
だからこそその少女の美しさ、可愛らしさ・・・何よりもその卓越した剣術、魔法、人格に至るまで知っており、自分ではエイルの彼女として役不足と感じて涙していたのだ。
しかしながらエイルもレイセルを嫌っているわけではなく、それだけ少女ルーナを求めていたのだ。
レイセルもルーナのような誰もが一目で惹かれるほどの容姿では無いが、顔立ちは大人しいが整っており優しげで控えめな美人なのであった。
知り合いの冒険者達からは人気もあり、声が掛かる事も時々あった程だ。
そんなデコボコな二人は、同じパーティーのメンバーとして冒険依頼をこなしており、Sランクの冒険者が故にギルドや大貴族からの指名依頼を主に担当する事が多く、忙しく過ごしていた。
今日もまた大貴族からの依頼を受けるべくギルドに立ち寄るふたりだが大変な仕事を請け負う事となる。
「やぁ神速の魔剣士殿、待っていたよ。隣の大陸で凶悪な魔神が暴れているらしいんだが君たちを推薦したんだが、受けてくれるかなぁ・・・」待ち受けていたギルドマスターがエイルの肩に手をまわす。
「危険なのでだれも受けてくれないんだ。勿論指名料金は弾むよ。後は成功報酬も思うまま出すと先方も言っているがどうかな?」
レイセルは怪訝な顔をして、ギルマスに聞き返す。「詳しい説明も無しに、同意を取ろうとする自体かなり厳しい依頼なんですね?」
ギルマスはバツが悪そうに頭を掻く。「あぁ、今まで3組みのSランクパーティーが挑戦したが全て失敗。生きて帰った者がいないんだよ。君たちが最後のSランクパーティーになるんだ。」
「そんな、危険な依頼は受けられません。」レイセルは冷静に返答する。
「エイル君、どうかな?代わりと言ったらなんだが、君の探しているルーナ嬢の情報もあるのだが、依頼を受けてくれたら教えてあげるけど、どうだろうか?」
「分かりました。その情報は有用なんでしょうね。」
「勿論!ルーナのその後の足取りがかなりわかる筈だよ。」
「その依頼、やりましょう。」
「ねぇエイル、本当にこの得体の知れない依頼受けて大丈夫?危ないよ?」レイセルが止めに入るが、エイルはやる気だ。
「あぁあっエイル言い出したら聞かないからなぁ。」レイセルはため息をついて俯く。
「じゃあ、有り難くお願いするよ。」ギルマスは、予定を説明しだす。
エイルは、大陸をまたぐような長距離転移は出来ない。目的の大陸へは、船による定期便による移動になる。
次の出航は一月後になるようになっているため暫くは、このラグシャール帝国の首都ラグナゲートに滞在して待つしかなかった。
エイルはカウンターに背を向けて別の直近の依頼を探しにレイセルを置いてボードの前に進んでいく。
残されたレイセルに、話しかけてくる男性がいた。それは、過去に王城で良く一緒に仕事をした聖騎士の男性であった。
「久しぶりだね。レイセル!」