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 そうして一連の騒動は終わった。

 アトラもラクス伯爵家の一員として罪を問われることを覚悟したが、結局お咎めは無しだった。王家としてもアトラに非を問うのはできないという判断だったらしい。

 第一王子の結婚式は流れ、王位継承権も剥奪され、代わりに第二王子が継承権一位に繰り上がった。まだ幼いと言っていい年齢だが、兄のようにはならないでほしい。今回のことを受けて国王もいろいろと方針を見直すそうなので、良い方向に変わると思いたい。不祥事が続けば王家にとっての死活問題なので、これ以上のことは起こさないよう必死になって努めるだろう、というのがモーリスの見立てだ。アトラも同意見だ。

 そのモーリスはといえば、叔父をきっちり断罪して足元を固めた。下手をすればテネブレ公爵家そのものも揺るぎかねない事態だったが、叔父と第一王子の個人間でのことと扱って――それは王家の側も望む扱いだった――、公爵家に累を及ぼされることは回避した。

 それだけでなく、王獣をめぐる約定違反を盾にとって、王獣を自由にし――魔珠から幼獣が孵ったことで質としての魔珠はなくなったが、代わりにイーラの魔珠を渡せという話にもなりかけて、それをモーリスが潰したかたちだ――、テネブレ領の権限を大幅に取り戻した。独立を取り戻すことも出来なくはないようだったが、そこまですると遺恨を生むという判断で実利を取り、クラーウィス王家に逆に貸しを作って王国内での立場を強めた。

 王家やテネブレ公爵家ほどではないが、もちろんラクス伯爵家にも変化があった。色々な問題が明るみになり、アトラも打診されたラクス伯爵家の相続を望まなかったので、領地や爵位が国の預かりになったのだ。そうした権利を保持しつつアトラがモーリスのところへ嫁ぐこともできたわけで、その権利を放棄する代わりにテネブレ領の得になるように取り計らった。モーリスが王家に対して強気の交渉をまとめられたのはこのあたりの理由もある。

 アトラはラクス伯爵家に関するほとんど一切を手放したが、母のものに関してだけは守った。母が実家から持ってきたものや愛用していたものなどの一部を形見として貰い、大部分はメリディ侯爵家が引き取った。母とは関係がよくなかったようだが、現当主もさすがに色々と思うところがあったらしい。ラクス伯爵家がなくなる時という最後の最後ではあったが、和解できて何よりだった。

 全てを失った父や継母やウィリディスの処遇だが、国からの沙汰を待っている状態だ。爵位や財産などの没収があったからその分は考慮されるだろうが、そうした一切を失った後のことは控えめに言っても大変だろう。それでも、アトラがしてきたように労働に従事すれば生きていくことはできるはずだ。それができるかどうかは彼ら次第と言うしかない。

 そんな状況にある三人を、モーリスはなんと王家に掛け合って王城の地下牢に放り込んだ。アトラやイーラにしてきたこと、イーラを地下牢に押し込んだことを許していなかったらしい。

「あの夜会で私は言っただろう? この話はいったんここまでにしておこうと」

 モーリスの言葉にアトラもようやく思い出した。そういえばそんなことを言っていた気がする。そのいったんの続きが今というわけで、忘れていなかったというわけだ。

(モーリス様だけは敵に回したくないものだわ……)

 しみじみ思うアトラに、モーリスはさらに言った。

「今だから言えるのだが、私があの頃に王都にいたのも、王城で魔獣がらみの怪しい取引があるらしいことを掴んでいたからだ」

「もしかして、イーラのこと……?」

 ラクス伯爵家にイーラを連れてきた業者らしき人、その人が今回の事件の黒幕でもあったのだが、アトラが魔獣を連れ帰ってほしいと言うと難色を示していた。一度まとめた取引をひっくり返したくないからだろうと納得したのだが、実はそうではなく、予定外の動きをすることで王城に来ていたテネブレ公爵に協定違反の取引が露見することを避けたかったからだったのだ。単に顔を合わせることですら危険だっただろう。彼は公爵に顔が割れていたのだから。魔獣のずさんな飼い方に反対していたのも、責任が及ぶからというより、そこから追及されて事が明るみに出るのを避けたいということだったのだ。

 いろいろと知った今になって思い返せば、いろいろなものが見えてくる。

 モーリスの話を聞きつつ納得するアトラに、王獣が言った。もうすっかりいつもの様子に戻っているが、狂いかけていたときの迫力は背筋が寒くなるものだった。

『じつは、クラーウィス王国で黒髪が嫌われるようになった原因は儂にあるのだ。昔の戦でいろいろあってな、それからクラーウィスの上層部はしばらく黒い影を夢に見ては怯えていたらしい。そこが始まりだったらしいな』

「そうなんですか……!?」

 思わず声に出してアトラは驚いた。思わぬところで思わぬことを知ってしまった。黒髪は悪いものと刷り込まれてしまってきたが、その理由がそんなところにあったとは。こじれてこうなってしまったというわけだ。いったい王獣は当時どれだけの力をふるったのか。

 イーラも言った。

『しょせん人間の愚かな価値観よ。我は主のその色が好きだぞ。自分の色も気に入ってはいるが、こともあろうにラクスの当主は我の毛並みを己の妻と娘にたとえおった。腹立たしくて仕方なかったわ。こうなって当然の報いよ』

「…………みんな、前のことをよく覚えているのね……」

 長く生きる魔獣も、魔獣にかかわるモーリスも、過去のことをよく覚えている。ここへきていろいろと疑問が解消されるのはありがたいのだが、身を正していかないと自分に跳ね返ってきそうだ。

『まあそれでも、過去のことは過去のことよ。我の魔珠からもいずれ子が生まれるであろうし、物事は新しくなっていく』

 イーラの言葉を通訳するまでもなく、モーリスは察したように進み出てアトラの手を取った。

「改めて、テネブレへようこそ、アトラ。これから先の未来も私の隣にいてくれるか?」

「喜んで、モーリス様!」

 アトラも手を預け、彼と魔獣たちに微笑みかけた。

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