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 モーリスと半分血がつながっているらしい男性を前に、アトラは記憶を掘り起こす。

(確かモーリス様は、この人について、叔父のマヌスお抱えの調教師だとしか仰っていなかったけれど……片親違いの兄弟だとは仰っていなかったけれど……そうではないとも仰っていないものね……)

 アトラの疑問に答えるように男性が続けた。

「別にテネブレに限らず、大貴族ならままある関係だろうとは思うが……どうして兄弟でこうも違うのか、そう思ってしまうよな」

 同意を求められるように視線を向けられるが、アトラには応える用意がない。ウィリディスに対して屈託がないとは言わないが、劣等感を持っているわけではないし、兄弟姉妹だからどうこうというより、彼女個人について色々と思うところがあるというだけだ。

 同意するのも白々しいので黙っていたが、男性はアトラの表情から内心を読み取ったようだった。白けたように言う。

「まあ、お前には分からないか。実家の伯爵家ではひどい扱いを受けていても、弟に気に入られて公爵家に迎え入れられるんだものな。姉妹間でのことなど気にならないよな。……だが、お前の妹は違うみたいだぞ?」

 男性の表情が仄暗いものに変わる。アトラは警戒した。いったいウィリディスについて何を言い出すのか。そもそも、彼女といつ面識を得たのか。……何を話したのか。

「いったい、ウィリディスと……」

 アトラが言いかけたときだった。聖堂の方から爆発音が聞こえた。

「…………!?」

 驚愕してアトラは思わず男性から視線を外し、そちらを振り返った。聖堂の一部が火を噴いている。先ほどから建物の一部が崩れたりしてはいたが、火柱など上がってはいなかった。アトラが離れていた間に状況が悪化したのだ。

(モーリス様は……!? 聖堂にいる人は……王獣様はどうなったの……!?)

「ああ、まだまだ小さいな」

 驚愕と焦燥と心配で頭の中がぐるぐるとしているアトラの横で、男性はのんきそうな声を出した。アトラはそちらを睨みつけた。

「どういうこと!? いったい何をしたの!?」

「お前の妹を焚きつけてやっただけだ。第一王子にもいちおう契約獣がいるが、魔珠を使ってそいつを狂わせてやったらどうだと」

「……!? ……なぜ、そんなことを……!?」

 なぜそんなことを焚きつけたのか。そしてウィリディスはなぜそんな話に乗ったのか。そもそも第一王子に契約獣がいたという話からして初耳だが、それはこの際どうでもいい。王族だからいても不思議ではない。テネブレから魔獣を献上させているのだから、王族は特権的に魔獣を選べる立場にある。

 前者の疑問への含みには気づかなかったのか、それとも敢えて答えなかったのか、男性はウィリディスのことについてだけ答えた。

「むしろなぜ、そうしないでいられると思う? 王子妃になる立場だから、王子が所有する魔珠に触れようと思えば触れられる。自分を裏切っているのに罪悪感なく自分を娶ろうとする相手に復讐し、式をめちゃくちゃにしてやりたいと思わないわけがないだろう?」

「…………!?」

 裏切って、というのはたぶん、他の女性と浮気をしているということだろう。それ自体は驚かないが、外部の者にまで知られてこうやって利用されている以上、足元が甘いと言わざるを得ない。もちろんそれ以上に、倫理的な問題もある。今回のことで彼は王位継承権を剥奪されたが、もしもこのまま彼が王位に就いていたら、きちんと敬えたかどうか……正直まったく自信がない。

 そういえばウィリディスは、王子の問題が明らかになった後、婚約者の立場を返上したいようなそぶりを見せていた。切り替えが早いというか薄情というか、ずいぶん現金なものだと思ったが……そもそもその前から、婚約者に見切りをつけていたのだろう。

(…………私から無理やり婚約者の座をもぎ取っていったのにね……)

 皮肉なものだ、と思う。ウィリディスがそうまでして欲しがった第一王子妃の座は泥船の座席と化し、アトラは自由になった。ラクス伯爵家の面々は勝手なことを色々言っていたが、今さら覆りはしないだろう。

 話を聞きつつ、アトラは少し心を落ち着かせた。

(ウィリディスの自分本位さを考えるに……自分を巻き込むようなことはしないはず。自棄になってみんなを巻き添えに、ということは考えにくいはず。だからモーリス様も王獣様もみんなも大丈夫なはず……)

「そういえば、私の動機を話していなかったな。なぜ、そんなことをしたのか、という。……めちゃくちゃになればいいと思ったんだ。テネブレ公爵家も、クラーウィス王家も。公爵家の一員が式典でしでかしたことの責任を当主たる弟は取らされるだろうし、王位継承権第一位の者の立場を剥奪したクラーウィス王家もがたがたになるだろう。――愉快じゃないか? 自分の上に立って、さも当然のような顔で特権を享受してきた者たちにやり返すのは」

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