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 どうしても気にかかるその声に、呼ばれているような気がする。

「アトラ、どうした?」

「魔獣の声が……聞こえる気がするのです。呼ばれているような……」

「…………」

 モーリスは考えるように眉を寄せた。イーラに向かって問いかける。

「イーラ……可能性があると思うか?」

『我もその可能性を考えておった』

 モーリスはイーラの声が聞こえないが、頷く仕草――魔獣本来の仕草ではないが、人間に伝わるように合わせている――に答えを察したようだった。いちおうアトラが通訳するが、意味が分からない。

 首を傾げるアトラにモーリスは言った。

「その声はもしかしたら、王獣殿の魔珠のところへ導いてくれるものかもしれん。賭けるしかない。イーラ、アトラの護衛を頼んでいいか」

『言われずとも』

 自分の頭越しに話が進んでいく。アトラは驚いて言葉を挟んだ。

「ちょっと待ってください!? 何がなんだか……そもそも、この声って何なんです!?」

「それは……」

 モーリスが言いかけたが、なぜかイーラがそれを妨害した。足を思いきり踏んづけて睨みを利かせている。ますます訳が分からない。

 この状況でイーラの機嫌を損ねるのは得策ではないと判断したらしく、モーリスは口をつぐんだ。それでいい、というようにイーラが鼻を鳴らす。

 モーリスはアトラに言った。

「後で説明する。というか、うまくいけば行った先で分かる。とにかくそちらへ向かってほしい。ここは私が何とかするから」

 混乱を極める聖堂で、しかし国王陛下が第一王子側ではない状況なら、協力して事態を少しでもましな方向に持っていけるという判断だろう。王獣のことを考えても、モーリスはここを離れられない。アトラがここにいても出来ることは少ないから、それならモーリスとイーラが言うようにこの声を辿るのがよさそうだ。

「何が何だか分かりませんが……分かりました。この声の先に王獣様の魔珠がある可能性が高いのなら、行きます」

「頼んだ。逃げた男がいるだろうし、危ないから心配だが……イーラがいれば少しは安心できる」

『少しとは何だ、失礼な若造め。守ってみせるわ』

 そう言いながら、イーラは足踏みをしてそわそわと落ち着かない。気が逸っている様子だ。

(そういえば……イーラにはこの声が聞こえていないみたい。魔獣の声みたいなのに……)

 不思議に思ったが、これ以上ここで長々と問答している場合ではない。これも行ってみれば分かることなのだろう。アトラは疑問を呑み込んで声に耳を澄ませた。

(……何と言っているのか……そもそも言葉になっているのかも分からないし、薄いけれど……)

「こっち……?」

 アトラの足は聖堂の外に向いた。一緒に行けないことを歯痒そうにするモーリスの視線を振り切るように、聖堂の外へ出る。実際の音ではないから人々の悲鳴や怒号に紛れずに聞こえるのはいいのだが、それにしても聞きづらい。本当にこの声は、何なのだろう。

 外へ出たアトラは、思わず足を止めた。声が聞こえなくなったわけではなく、あたりの惨状に驚いたのだ。

 聖堂が歴史のある建築物――言ってしまえば、古い建物――ということもあるのだろうが、それにしても崩れ方がひどい。人々が集まっているあたりは列柱のおかげか形を保っているが、両翼の建物が無残に崩れてところどころが黒く焦げている。これでも王獣は力を制御していたというのだから恐ろしい。

 怪我人も出ているようだが、今のところ手遅れになった人はいないようで幸いだ。事態をこれ以上悪化させないために、アトラはイーラを伴って王城の中へと向かった。

『お主を疑うわけではないが……こちらで合っているのか? 重要なものを持って逃げるなら城の中心部からは遠ざかりそうなものだが……』

 イーラが言う。確かにと思う反面、協力者がいたり、あまり遠くへ逃げられない場合、かえって城の中の方が身を隠しやすそうだとも思う。

「こっちで合っている……と思う。私は小さい頃、畏れ多くもお城を遊び場にしていたことがあるから分かるのだけど、隠し通路とか、仕掛けのある調度品とか、そういうものが結構あるの。第一王子に近しい人なら知っていそうだとも思うわ」

 混乱の中、誰にも誰何されたり止められたりすることなく玄関ホールを抜けながらアトラはイーラに答えた。アトラは非力そうな娘に見えるだろうし――事実その通りなのだが――、それが何故か魔獣を伴っていて、関わったら面倒そうだと思われているのかもしれない。通常時なら衛兵に止められただろうが、今は魔獣を連れた妙な娘に人手を割いている場合ではないということだろう。国王をはじめ重要な人物は聖堂に集まっているから、そちらと反対方向に行こうとするアトラにかかずらう余裕などなさそうだ。

 それをいいことに、アトラはイーラを連れてどんどん先へ進む。まさかこんなふうに、小さい頃の冒険が生きてくるなんて思ってもみなかった。

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