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 挙式の舞台となる聖堂には、多くの貴族が集まっていた。家格によってある程度の席次が決められているが、アトラはなぜかモーリスに準じるかたちで前の方に案内してもらえた。それか、もしかすると新婦の身内という扱いをされているのかもしれない。どちらにせよ都合がいいのは確かなので、アトラは余計なことを言わずにモーリスの後に続いた。

 広く古めかしく荘厳な聖堂だが、今日ばかりは華やかな装いの人々が列席し、抑えきれないざわめきが辺りを満たしている。そのざわめきに紛らせて、アトラはそっとモーリスに囁いた。

「叔父君もいらっしゃいますね。王族のどなたかとお話しされているようですが……」

 テネブレの公爵邸で少しだけ見たことのあるマヌス、モーリスの叔父にあたる人物を注意深く見つめる。魔獣を不正に売っており、しかもその相手が第一王子だという問題人物だ。モーリスは元を断つつもりらしく彼を泳がせていたが、元を断つということは取りも直さず、第一王子を指すということだ。

 大丈夫なのだろうかと今更ながらに思うが、逆に考えると、今しか機会はないのだと思う。第一王子がウィリディスという伴侶を得て王位継承者としての立場を固めようとする、今しか。これよりも遅らせて第一王子が立場を固めた後だと周囲への影響が大きいし、かといって拙速に動くと王子まで届かない。

 聖堂の席は通路を挟んで大きく二列に分かれている。半円形の説教壇に沿う形で、席も円の一部を割ったようなかたちになっている。層を重ねて焼き上げたケーキの一部を切り出したような感じだ。最前列には王族たちが並び、その後ろに公爵位を持つ人々などが並ぶ。アトラもここだ。通路を挟んだ向こう側にマヌスがおり、ラクス伯爵家の面々――とは言っても父と継母だけだが――も近くにいる。アトラが彼らから離れたこちら側の席に案内されたのは、無用な揉め事を起こさせないためかもしれない。

 最前列にいる王族の誰かが振り向いてマヌスと話をしている、その様子を見ながらモーリスは応えた。

「国王陛下の従兄に当たる方だな。確か第一王子派だと記憶しているが。まあ、取り立てて理由がなければ年長の第一王子につくだろうな。……人柄が問題だという理由は大きいと思うが」

 現王の正妃の子は三人おり、年齢順に第一王子、第二王子、第一王女だ。それぞれ王位継承権の第一位、第二位、第三位を持っているが、第二王子は兄よりも五歳も年下だという理由で、第一王女は女性だという理由で――クラーウィス王国ではここ数十年のあいだ女王が立っておらず、なんとなく女性を王にするのを躊躇う意識がある――、それぞれあまり支持を集めていない。

 第一王子のひどさを知っているアトラとしては第二王子や第一王女の順位を繰り上げた方がいいのではとも思うが、そもそも第二王子や第一王女のことをよく知らない。アトラが正妃に可愛がられていた頃はまだ年少だったし、なんならアトラだって幼かった。一応は第一王子の婚約者だったから、他の王子王女に近づいていいのか躊躇ったのもある。

「第一王子殿下に関しては直接存じていますが、第二王子殿下や第一王女殿下についてはお会いする機会も少なくて、お噂を聞く機会もなくて……お人柄など、モーリス様はご存じですか?」

「少しお話をする機会があったくらいだが、そうだな。第二王子は頭のいい方で、第一王女は大人しい方だと思ったくらいだな。少なくとも第一王子のように目に見えて問題があるわけではない。まあ、問題が見えたらそこを突けば何とでもなりそうだが」

 モーリスは軽く答える。アトラは恐々としながら思った。

(これはやっぱり、第一王子を排して第二王子以下に継承権を回すおつもりみたい……。で、第二王子以下に問題があったらそれはその時だと。王位継承のごたごたでクラーウィス王国が揺らいでもテネブレ領は困らない、むしろ混乱に乗じていくらかの権利を取り戻すとか、そういうお考えもありそう……)

 アトラはこれでもクラーウィス王国民だから、王国が揺らぐかもしれない可能性を前にすると焦ってしまう。それでも、意識の半ばはテネブレに染まっているから、そうなったらそうなったでモーリスを利するように動こうとするかもしれないと自分で思う。

 問題は、ウィリディスのことだ。

 第一王子という泥船に乗って共に沈もうとしているウィリディスだが、アトラは彼女のことをどう思っていいのか分からない。仲のいい姉妹であれば心配して引き離そうとして妹だけは守ろうとするだろうが、お世辞にも仲がよくなかったどころか殺されかけた関係だ。同情心は湧かないが、かといって他の人に彼女の処遇をすべて委ねるのも違う気がする。

 モーリスが叔父の問題を片づける必要があるように、アトラも妹と決着をつけなければならない。そう思った。

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