龍の恩返し
“いいから、アルはポータルへ行け!”
岩石の下敷きになったDPが叫ぶ
絶対にイヤ!!
ずっと一緒にいるって言ったでしょう!
アルは一か八か、ライラ星の頃の自分を思い出してストークを使った
カークトゥのアルになってからは、試したことがなかったけれど、テラでは実体の姿をしている
岩石が僅かに動いた
嵐が吹き荒れ、火山から噴出する火山灰や岩が降ってきて集中できない
落ち着いて、落ち着いて
もう一度、集中する
ライラ星のカイルのことが心に浮かぶ
こんな時に、何を思い出しているのか
私はもうあの時のアーリンじゃない
生まれ変わったアルなのだから
絶対に助ける
アルの心の奥の方で何かが光を放った
クリスタル?
そうだ、クリスタルを使えば…力を充填できる!
アルはクリスタルに心を一点に集中した
燃えるマグマよりも、赤く燃え上がったアルの全身から炎が揺らめいて、爆発したかのように、アルから光と炎が放たれて岩石を打ち砕いた
“行くぞ!!”
起き上がったDPにアルがつかまると、一気に上昇して飛び上がった
危機一髪、溶岩が辺り一面を覆い全てが流れて行った
ポータルまで戻ると、宇宙へと脱出した
その足で連合の艦隊へと飛び、ターガに会いに行った
「そんなことが…?有り得ないですね」
シリアスな顔をしてターガが考え込む
「テラの地表へのポータルは全て、星の欠片の衝突以前の歴史上の時間にセットしてあったはずです」
一旦席を外したターガが戻ってきた
「アルが先程通過したポータルの記録を調べたところ、衝突直後の時間に変更されていました」
あれは、星の欠片の衝突により起きた嵐だったということですか?
「はい、大変危険な目に遭わせてしまいまして、誠に遺憾ながら全て私の責任であります」
肩を落とすターガは、アルの方を向き直ると実は、と話し始めた
「連合以外の者がポータルを使った形跡があります、調査が必要です」
私とDPの他に、テラへと出入りしていた宇宙人がいるということ?
そういうことですね、とターガが答えた
「とにかく、今回の任務は充分な採取も出来たことですし、内部の調査がはっきりしないことには、続行は不可能ですので…」
お疲れさまでした、とターガが頭を下げた
追って次の任務は決まり次第連絡するということで、解散になった
艦船の外で待つDPに、今聞いた話を伝えた
“テラは、予言の星だからな、狙う輩は幾らでもいるだろう”
予言の星?そうなの?知らなかった
“だから最初は一緒に降りたんだが、何も無さそうだったからな”
そうだったんだね、ありがとう
教えてくれたらよかったのに
カークトゥへと帰る方角へ飛びながら、DPが呟く
“ひとつ借りができたな”
“アルが危険な時には、宇宙龍の名にかけて必ず助ける”
そんな、大袈裟だよ、とアルは笑った
御守りのおかげで助かった
初任務は何とか終了しました
カークサスへのお土産話をたくさん携えてアルは、カークトゥへと戻った
はっきりとした調査結果は出ないまま、アルの次の任務が決まった
今度は複数のクルーと一緒に、宇宙難民救助の任務だ
この頃、宇宙の他の惑星では戦争が激化して、星間避難をして難を逃れる宇宙人の移動が活発になっていた
安全な星への運行や、一時的に避難する宇宙船でのボランティア活動を連合が担っていた
宇宙船であちこちの星へ飛び、人や救助物資を運んで行き来した
ライラ星のように、消滅する星もあった
絶えない宇宙間の争い
宇宙の平和のために、連合に参加したのに、世界は争いごとばかり
宇宙はひとつなのに
愛と光から生まれたのに
アルは、活動するうちに連合の掲げる言葉を知った
I am Light 私は光
I am Love 私は愛
I am Truth 私は真実
I am 私は
最後のI am は"I am that I AM" であり
私は在る、在るという者だという意味になる
私は大いなる全てである
私は、私である、ということ
初めて知った頃は、深く理解できないまま唱えていたけれど、この言葉は、そのうちにアルの心の中に浸透してきた
全宇宙がひとつの存在であり
皆同じひとつであるONE
世界の全てが自分だと思ったら、争いはなくなる
善なるものだけではない、悪なるものだってひとつの宇宙
一人の内側にだって、善も悪もある
悪とは、自分と自分以外の外側を別物と捉えることで芽生える
自分さえよければいい
自分と他とは分離した存在だという思いが身勝手な悪を生み出す
自分自身を愛すること
それは全てを愛することになる
世界を宇宙を存在する全てを愛する
自分を愛するように全てを愛する
互いに違いを認め受け入れて
全ての存在があるがままに
全ての存在を尊重できる世界に
宇宙は常に進化していく
宇宙の端にあるテラでも、進化は始まっていた