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くんで、ほぐれて、からまって

作者: 水無飛沫

くんで

ほぐれて

からまって


もう戻れないね




指先に冷たい指が絡まる。

ゆっくり目を開けると、同じように隣に寝転がる彼女がいた。


彼女の肩越しに、外を眺める。

音もたてずに降る霧雨が、遠くの山の風景を隠してしまっている。


雨は音も吸収してしまっているようで、一切の音が聞こえない。

静寂が耳に痛みにも似た感覚をもたらしてくれる。


彼女の表情が柔らかいことに少しほっとして、絡まる指を握り返す。

身じろぎをしてこの静寂を壊してしまうことが残念に思えて、指先にだけ感覚を集中させる。


優しく撫でて、強く握って、縋るように追いかけて、意地悪く抓ってみて。

思いつく限りの方法で指先を絡め合う。

手のひら、手の甲に至るまで優しく強く愛撫して絡め取る。


そんな何でもないことに心を震わせて、幸福を堪能する。


――ずっと捕らわれている。

――ずっと捕えている。


その関係は『愛』と呼ぶべきものなのかもしれない。

口に出せば陳腐なものになってしまいそうで、何よりそんな簡単な言葉で表現(あらわ)したくなくて、強く彼女の手を握った。


心配はいらない。ふたりの人生が、生き様がそれを証明してくれる。


静寂を破ることを少し残念に思いながら、彼女に覆いかぶさる。

衣擦れと、小さな息遣いが霧雨に消えていく。

強く抱きしめて、お互いの熱を交換する。


こうしてこのまま魂ごと溶け合ってしまえればよかったのに。


もう何度目になるかわからない思考をする。そうなれないことが悲しくてならない。


強く、強く抱きしめる。

指や手、脚だけじゃなくて、身体まで絡まってしまえればいいのに。




言葉など、いらない。

身体も、いらない。




今はただ――



今は、ただ、――

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初に読み終わった感想は「終わっちゃうんだなぁ・・・」でした。 もちろん描写されているのは愛に他ならないんだけど、言外に存在する破滅だったり、そもそもの愛し方の依存性がもたらす「幸せにな…
[良い点] こんばんは。2人の恋人の姿をかわす言葉を描かずに表現したのはすごいですね。 雨の音が響く夜を想像しました。想像力が働く短編ですした!
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